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春遠からじ
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「坊主にとってはその秘書のせいで母親が追い出されたような感覚でいるらしい。自分が側にいないと不安だからと、しきりに父親の元へ帰りたがっていた」
「まあ、そうだったの。じゃあ……あの子が大人たちに心を開かないのはそれが原因なのかしら」
「かも知れんな。まあ他人様の家庭の事情に口出しするつもりもねえが、とにかくは彼らを狙っている連中から守り切ることが先決だ」
「そうね。あなたたちを巻き込んでしまって申し訳ないと思うけど」
「構わん。ここで会えたのも縁ってもんだ。俺たちにできることは協力させてもらうさ」
「ありがとう。助かるわ」
子涵の父親が滞在している部屋はホテルのちょうど中間くらいの階にある部屋だった。通常であれば当然ペントハウスの高級スイートに泊まるような立場だが、屋上から狙われやすい為にわざわざ真ん中の階を選んだとのことだった。
「ここが敵にバレた際に移る場所は確保してあるのか?」
「ええ、もちろん。今のところホテルを三つほど押さえてあるわ。万が一の時は香港を脱出することも視野に入れて、常にヘリとプライベートジェットも待機させてる」
「さっきお前さんがあの坊主を俺たちに預けたことは割れていまいな?」
「大丈夫だと思うわ。アタシは昨夜着いたばかりなのよ。この香港から警護に加わったから、ヤツらに顔は割れていないはず」
「分かった。ではCEOにご対面といくか」
「ええ」
二人は子涵の父親と秘書のいる部屋へと向かった。
◇ ◇ ◇
実際に会ったCEOとその秘書は、鐘崎が思い描いていた印象とは少々違って――ひと言で言えば穏やかで出来た大人という感じだった。父親の方は鐘崎と同じくらいの高身長で、スタイリッシュな眼鏡をかけている。大企業の社長というから、何となくもっと恰幅のいいずんぐりむっくりとした印象を思い描いていたのだが、まるで真逆の青年実業家がそのまま年をとったという感じだ。性質も、子涵少年から聞いていたこともあり、もっとうがった人物像が浮かんでいたのが、いざ会ってみれば誠実で信頼のおけるといった印象だ。
「子涵君からお手紙を預かっております」
鐘崎が差し出すと、彼はとてもやさしい眼差しでそれを読んだ。秘書の女性もまた同様で、どう見ても卑しいことを企むような感じは受けない。おそらくは子涵少年のことも我が子のように大事に思っているのだろうことが窺えた。
「あの子は――何か申しておりましたでしょうか……。きっと私のことを怒っているのでしょうな」
彼もまた、自分と秘書との関係を息子が快く思っていないことを知っているふうだ。
「いえ――そのようなことは……。とにかく、あなた方を狙う者たちを一刻も早く突き止めて、平穏な日々をお送りいただけるよう、できる限りお力になりたいと存じます」
そうすれば子涵の気持ちも落ち着いて、父親と向かい合える時間が持てるだろうと思うのだ。
面会を終えると、鐘崎は子涵たちのいる周邸へと向かった。
「まあ、そうだったの。じゃあ……あの子が大人たちに心を開かないのはそれが原因なのかしら」
「かも知れんな。まあ他人様の家庭の事情に口出しするつもりもねえが、とにかくは彼らを狙っている連中から守り切ることが先決だ」
「そうね。あなたたちを巻き込んでしまって申し訳ないと思うけど」
「構わん。ここで会えたのも縁ってもんだ。俺たちにできることは協力させてもらうさ」
「ありがとう。助かるわ」
子涵の父親が滞在している部屋はホテルのちょうど中間くらいの階にある部屋だった。通常であれば当然ペントハウスの高級スイートに泊まるような立場だが、屋上から狙われやすい為にわざわざ真ん中の階を選んだとのことだった。
「ここが敵にバレた際に移る場所は確保してあるのか?」
「ええ、もちろん。今のところホテルを三つほど押さえてあるわ。万が一の時は香港を脱出することも視野に入れて、常にヘリとプライベートジェットも待機させてる」
「さっきお前さんがあの坊主を俺たちに預けたことは割れていまいな?」
「大丈夫だと思うわ。アタシは昨夜着いたばかりなのよ。この香港から警護に加わったから、ヤツらに顔は割れていないはず」
「分かった。ではCEOにご対面といくか」
「ええ」
二人は子涵の父親と秘書のいる部屋へと向かった。
◇ ◇ ◇
実際に会ったCEOとその秘書は、鐘崎が思い描いていた印象とは少々違って――ひと言で言えば穏やかで出来た大人という感じだった。父親の方は鐘崎と同じくらいの高身長で、スタイリッシュな眼鏡をかけている。大企業の社長というから、何となくもっと恰幅のいいずんぐりむっくりとした印象を思い描いていたのだが、まるで真逆の青年実業家がそのまま年をとったという感じだ。性質も、子涵少年から聞いていたこともあり、もっとうがった人物像が浮かんでいたのが、いざ会ってみれば誠実で信頼のおけるといった印象だ。
「子涵君からお手紙を預かっております」
鐘崎が差し出すと、彼はとてもやさしい眼差しでそれを読んだ。秘書の女性もまた同様で、どう見ても卑しいことを企むような感じは受けない。おそらくは子涵少年のことも我が子のように大事に思っているのだろうことが窺えた。
「あの子は――何か申しておりましたでしょうか……。きっと私のことを怒っているのでしょうな」
彼もまた、自分と秘書との関係を息子が快く思っていないことを知っているふうだ。
「いえ――そのようなことは……。とにかく、あなた方を狙う者たちを一刻も早く突き止めて、平穏な日々をお送りいただけるよう、できる限りお力になりたいと存じます」
そうすれば子涵の気持ちも落ち着いて、父親と向かい合える時間が持てるだろうと思うのだ。
面会を終えると、鐘崎は子涵たちのいる周邸へと向かった。
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