極道恋事情

一園木蓮

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春遠からじ

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 大人を信用していない子なの――メビィがそう言っていたが、どうやら理由はそこにあるというわけか。
 しばし考えた後に鐘崎が少年の肩に手をやりながら穏やかに言った。
「分かった。じゃあ俺が確かめてやる。お前のお父さんがその秘書のおばさんをどう思っているのかってことをちゃんと聞いてやる。だからお前は安心してこの兄ちゃんたちと舞踏会へ行くんだ」
「でも……」
「大丈夫だ。俺が責任をもって必ずお父さんを守る」
 な――? と言って頭を撫でると、少年は渋々とうなずいた。
「よし、いい子だ」
 鐘崎は『そうだ』と言って紙とペンを取り出した。
「せっかくだからお父さんにお前からのメッセージを書け。何でもいいぞ。身体に気をつけてでもいいし、風邪引かないでねでもいい」
 俺が渡しておいてやると言う。
「……うん」
 少年は存外素直にペンを取って書き出した。
「よし! お父さんには必ず渡す。心配せずに待ってるんだ」
 その後、源次郎が手配してきた女装用の衣装に着替えると、紫月と冰は化粧も施してすっかり美女に変身。少女に変装させた子涵少年を連れて周と共にファミリーの元へと向かった。

 時刻は間もなく夜の七時になろうとしている。

 鐘崎はひとまずメビィらのチームと合流することにして、その間ホテルに残った源次郎が子涵の父親を狙っている組織について調べることとなった。
「私の方では日本にいる僚一さんにもお知恵をお借りして、詳細を突き止めることにいたします。若もお気をつけて」
「ああ、頼んだ。俺もチームに詳しい事情を聞いたらすぐに氷川たちと合流する」
 鐘崎は老紳士に化けると、細心の注意を払いながらメビィらのいるホテルへと向かった。



◇    ◇    ◇



「あら! もしかして遼二さん……!?」
 訪ねて来た老紳士を見てチームの面々は驚いていたが、以前組んだ警護の際に鐘崎の変装を見て知っていたメビィにはすぐに彼だと分かったようだ。
「相変わらず完璧な変装ね!」
「資料をどうも。それでな――ちょいとお前さん方にもう少し詳しい事情を聞きに来たんだが」
 鐘崎から仮面舞踏会のことなどを聞いたチームの者たちは、世話を掛けてすまないと恐縮していたものの、実のところ合流してもらえて助かったというように胸を撫で下ろしていた。
「鐘崎殿、此度はうちのメビィが勝手を押し付けてすまない。だが正直我々も切羽詰まっていてね」
 チームのボスが頭を下げてよこす。
「いえ、こちらもメビィにはいろいろと助けてもらったことだし、何か力になれれば幸いです」
「そう言ってもらえて助かるよ。周ファミリーにまでお手数をお掛けして申し訳ない限りだが――」
「いえ、お構いなく。それで早速現状を教えていただきたいのですが――」
「ああ、説明しよう」
 ボスを中心にチームのメンバー数人がそれぞれ把握している事柄を報告し合った。
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