941 / 1,212
春遠からじ
18
しおりを挟む
「では――敵は武装組織を雇って、あの坊主の父親を亡き者にしようと企んでいるということか」
「おそらくは――」
「そんな状況でホテルなんぞに対象者を置いておいて大丈夫なのか?」
「チームの方々も万が一の時の移動先は複数念頭に置いてあるでしょうな」
「うむ……一度メビィらのチームを訪ねるか。もう少し詳しい情報が欲しい」
「それと、預かった少年ですが、彼の居場所を突き止められない為にも変装が必要かも知れませんな」
まあ極力ここから出ないに限るが、食事などでレストランに出歩けば、いつ何処で敵の目が光っているやも知れない。準備は手厚くしておいて損はないだろう。
「女装でもさせるか。あの年頃のガキならカツラを被せりゃ女に見えるだろうが」
周が真顔でそんなことを言う。
「本人が素直に『うん』と言うかというところだが――」
「ガキ相手に命の危険が迫ってる――とは言えねえだろうしな」
鐘崎と周が考え込んでいると、冰が名案を口にした。
「だったらこの際俺たちも女装するっていうのはどう? 俺と紫月さんとさっきの子涵君で女装して、仮面舞踏会に行こうって誘うの」
突飛な発想だが悪くはない。
「仮面舞踏会か。案外いいかも知れんな。ガキの退屈凌ぎにもなるだろう」
「問題は場所だが――」
「俺の実家はどうだ。ファミリーが経営しているホテルのペントハウスはプライベートスペースになっていて一般の客は入れないからな。そこに匿うでもいい。親父と兄貴に言って、簡単なパーティをでっち上げるくらいはできるだろうぜ。何も本格的な仮面舞踏会にせずともガキにそれらしく思わせることができりゃいいんだろ?」
だったら少々豪勢な夕食会程度で済むだろうという。ホテルといってもいわば周ファミリーの所有する別宅の内のひとつといったところだ。
「それに――親父の手元で預かりゃ、この香港の中ではどこにいるより安全だろう」
周が頼もしいことを言ってくれる。
「――そうだな。有難いが、親父さんたちにとばっちりがいかんように細心の注意を払いたい」
鐘崎は鐘崎で周ファミリーに要らぬゴタゴタを残さないようにと気に掛ける。相手も裏の世界の組織であることは間違いない。ファミリーが関わったことで後々新たな火種を香港に残しては申し訳ないとの思いからだ。
「なに、ガキ一人預かるくれえでどうなることでもないだろう。カタがつくまでペントハウスのフロアから出さんようにすればいい。一般的なホテルと違ってうちが経営しているところなら自由も効く。ファミリーの専用ルームにゃ部屋付きのプールなんぞも備わっている。ガキにとっちゃ天国同然さ」
子供の件は周の厚意に甘えることにして、冰と紫月には早速変装の準備とファミリー経営のホテルへと移動を手配することになった。
「俺も老人か何かに変装してメビィらのチームと合流する。そっちのことは任せたぜ」
鐘崎自身も変装で身元を隠すことにして、一同は二手に分かれることにした。
ところが――だ。
何と少年は仮面舞踏会などで遊んでいる暇はないと言って、鐘崎らの提案を拒んだ。
「まあそう言うな。変装してのパーティだ。きっと楽しいと思うぞ? 部屋にはプールもあるし、ここと違って他のお客さんは誰もいない。俺たちだけで悠々自適に遊べるぞ」
「……でも僕、夜はお父さんの所へ帰らなきゃ」
「親父さんにはお前が俺たちと一緒にいることを伝えてある。心配はいらねえ」
鐘崎がしゃがみ込んで少年の目線と合う位置でそう微笑むも、彼は頑なだ。
「ダメだよ……僕が帰らないとお父さんがあのおばさんに嫌なことされる……」
「おばさん?」
「お父さんの秘書をしてるヤツ……。あのおばさん、お父さんのことが好きなんだ。お父さんにはお母さんがいるっていうのに……いつもベタベタして……すごく嫌!」
だから自分が側にいて守ってやらなきゃならないのだと言う。
「けど、子涵の母ちゃんも父ちゃんと一緒にいるんだべ? だったら大丈夫じゃねえのか?」
紫月も一緒になって説得するも、少年からは意外なことを聞かされる羽目となった。
「お母さんはいない……。もうずっと前に家を出て行っちゃった……。きっとあのおばさんが追い出したに決まってる……!」
鐘崎も紫月も、そして周らも皆で顔を見合わせてしまった。
「おそらくは――」
「そんな状況でホテルなんぞに対象者を置いておいて大丈夫なのか?」
「チームの方々も万が一の時の移動先は複数念頭に置いてあるでしょうな」
「うむ……一度メビィらのチームを訪ねるか。もう少し詳しい情報が欲しい」
「それと、預かった少年ですが、彼の居場所を突き止められない為にも変装が必要かも知れませんな」
まあ極力ここから出ないに限るが、食事などでレストランに出歩けば、いつ何処で敵の目が光っているやも知れない。準備は手厚くしておいて損はないだろう。
「女装でもさせるか。あの年頃のガキならカツラを被せりゃ女に見えるだろうが」
周が真顔でそんなことを言う。
「本人が素直に『うん』と言うかというところだが――」
「ガキ相手に命の危険が迫ってる――とは言えねえだろうしな」
鐘崎と周が考え込んでいると、冰が名案を口にした。
「だったらこの際俺たちも女装するっていうのはどう? 俺と紫月さんとさっきの子涵君で女装して、仮面舞踏会に行こうって誘うの」
突飛な発想だが悪くはない。
「仮面舞踏会か。案外いいかも知れんな。ガキの退屈凌ぎにもなるだろう」
「問題は場所だが――」
「俺の実家はどうだ。ファミリーが経営しているホテルのペントハウスはプライベートスペースになっていて一般の客は入れないからな。そこに匿うでもいい。親父と兄貴に言って、簡単なパーティをでっち上げるくらいはできるだろうぜ。何も本格的な仮面舞踏会にせずともガキにそれらしく思わせることができりゃいいんだろ?」
だったら少々豪勢な夕食会程度で済むだろうという。ホテルといってもいわば周ファミリーの所有する別宅の内のひとつといったところだ。
「それに――親父の手元で預かりゃ、この香港の中ではどこにいるより安全だろう」
周が頼もしいことを言ってくれる。
「――そうだな。有難いが、親父さんたちにとばっちりがいかんように細心の注意を払いたい」
鐘崎は鐘崎で周ファミリーに要らぬゴタゴタを残さないようにと気に掛ける。相手も裏の世界の組織であることは間違いない。ファミリーが関わったことで後々新たな火種を香港に残しては申し訳ないとの思いからだ。
「なに、ガキ一人預かるくれえでどうなることでもないだろう。カタがつくまでペントハウスのフロアから出さんようにすればいい。一般的なホテルと違ってうちが経営しているところなら自由も効く。ファミリーの専用ルームにゃ部屋付きのプールなんぞも備わっている。ガキにとっちゃ天国同然さ」
子供の件は周の厚意に甘えることにして、冰と紫月には早速変装の準備とファミリー経営のホテルへと移動を手配することになった。
「俺も老人か何かに変装してメビィらのチームと合流する。そっちのことは任せたぜ」
鐘崎自身も変装で身元を隠すことにして、一同は二手に分かれることにした。
ところが――だ。
何と少年は仮面舞踏会などで遊んでいる暇はないと言って、鐘崎らの提案を拒んだ。
「まあそう言うな。変装してのパーティだ。きっと楽しいと思うぞ? 部屋にはプールもあるし、ここと違って他のお客さんは誰もいない。俺たちだけで悠々自適に遊べるぞ」
「……でも僕、夜はお父さんの所へ帰らなきゃ」
「親父さんにはお前が俺たちと一緒にいることを伝えてある。心配はいらねえ」
鐘崎がしゃがみ込んで少年の目線と合う位置でそう微笑むも、彼は頑なだ。
「ダメだよ……僕が帰らないとお父さんがあのおばさんに嫌なことされる……」
「おばさん?」
「お父さんの秘書をしてるヤツ……。あのおばさん、お父さんのことが好きなんだ。お父さんにはお母さんがいるっていうのに……いつもベタベタして……すごく嫌!」
だから自分が側にいて守ってやらなきゃならないのだと言う。
「けど、子涵の母ちゃんも父ちゃんと一緒にいるんだべ? だったら大丈夫じゃねえのか?」
紫月も一緒になって説得するも、少年からは意外なことを聞かされる羽目となった。
「お母さんはいない……。もうずっと前に家を出て行っちゃった……。きっとあのおばさんが追い出したに決まってる……!」
鐘崎も紫月も、そして周らも皆で顔を見合わせてしまった。
19
お気に入りに追加
876
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。




鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。



身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる