極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
931 / 1,212
春遠からじ

しおりを挟む
「そういえば紫月さん、たいへんだったわね! 事件のこと聞いたわ」
 同じ裏の世界の者同士だ。紫月が襲われた事件のことは当然彼女の耳にも入っていたようだ。
「遼二さんもお心を痛められたでしょう。チームの皆んなも心配していたのよ」
 今度は鐘崎に向かってそう言ったメビィに、
「――ああ。でもお陰様でこうして紫月も無事だったからな。その節はうちの親父の方にアンタのボスからも見舞いの言葉をいただいて――気を遣わせてすまなかったな」
 ありがとうと言って鐘崎は頭を下げた。
「いいえ、そんな……とんでもない! でも本当にたいへんだったわね。犯人たちのことも聞いたけど、裏の世界じゃ――あの鐘崎組に喧嘩を売るなんて大馬鹿者だって噂でもちきりだったわ。まあアタシたちも初っ端から遼二さんにとんでもない失礼をしでかした身だから……偉そうなこと言えた立場じゃないんだけれど……」
 あの時は本当に申し訳なかったと言って、メビィは深々頭を下げてよこした。
「でも……自分たちを棚に上げてナンだけど――犯人たちがしたことは本当に許せないわよね。テロリストを雇って紫月さんを亡き者にしようとしたって……。しかも原因は遼二さんへの横恋慕だっていうじゃない。色恋沙汰で殺戮まで考えるなんてって、チームの皆んなも相当憤っていたのよ」
「うん、まあなぁ。けど遼や皆んながすぐに気がついてくれて助けに来てくれたからさ。お陰で今もこうして無事でいられるって有難いよね!」
 明るく微笑む紫月に、メビィもまたホッとしたようにしながらも切なそうに笑ってみせた。
 そんなやり取りを黙って窺っていた周が、ふと意外なことを口走ってみせた。
「そういやアンタのチームが鐘崎を嵌めた時のことだが――アンタは正直どうだったんだ?」
 誰もが『え――?』といったように周を見やる。メビィもまた然りだ。
「……どうって、何が……かしら?」
「アンタはこいつ――鐘崎に対してどんな思いだったのかと思ってな。少なからず色恋の感情があったのか、それとも単に仕事として罠をかけただけなのかってことだ。少々興味があるんでな。良かったら教えちゃくれねえか?」
 何故周が今更そんなことを訊きたいのか分からないながらも、誰もが興味をそそられたようだ。メビィはバツの悪そうにしながらも、この周がそんなことを言い出すからには何か意図があると思ったのだろう、存外素直に答えてみせた。
「そうね、アタシはどっちかといったら仕事で――っていう思いが強かったわね。まあでも実際遼二さんに会ってみたらすごく男前だったし、万が一にも上手く事が運んだ暁には、こんなイケメンを恋人にできるならラッキー……とは思ったわ」
 メビィの答えに周は面白そうにしながらも先を続けた。
「ほう? ではアンタはこいつに惚れたわけじゃなく、仕事で罠に嵌めるってことの方が重要だったってことか」
「ええ、アタシはチームの中で一番の新参者だったし、特にこれといった実績も上げられていなかったから……。この機会にあの鐘崎組を落とせたらアタシの株もグンと上がるって思って……」
 これでも一生懸命だったのよと苦笑する彼女に、周は満足そうにうなずいてみせた。
「えらく向上心があることだな。感心ついでにもうひとつ教えちゃくれねえか」
「ええ……」
 何かしら? というようにメビィは小首を傾げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前後からの激しめ前立腺責め!

ミクリ21 (新)
BL
前立腺責め。

捜査員達は木馬の上で過敏な反応を見せる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

男子学園でエロい運動会!

ミクリ21 (新)
BL
エロい運動会の話。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...