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春遠からじ
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「そういえば紫月さん、たいへんだったわね! 事件のこと聞いたわ」
同じ裏の世界の者同士だ。紫月が襲われた事件のことは当然彼女の耳にも入っていたようだ。
「遼二さんもお心を痛められたでしょう。チームの皆んなも心配していたのよ」
今度は鐘崎に向かってそう言ったメビィに、
「――ああ。でもお陰様でこうして紫月も無事だったからな。その節はうちの親父の方にアンタのボスからも見舞いの言葉をいただいて――気を遣わせてすまなかったな」
ありがとうと言って鐘崎は頭を下げた。
「いいえ、そんな……とんでもない! でも本当にたいへんだったわね。犯人たちのことも聞いたけど、裏の世界じゃ――あの鐘崎組に喧嘩を売るなんて大馬鹿者だって噂でもちきりだったわ。まあアタシたちも初っ端から遼二さんにとんでもない失礼をしでかした身だから……偉そうなこと言えた立場じゃないんだけれど……」
あの時は本当に申し訳なかったと言って、メビィは深々頭を下げてよこした。
「でも……自分たちを棚に上げてナンだけど――犯人たちがしたことは本当に許せないわよね。テロリストを雇って紫月さんを亡き者にしようとしたって……。しかも原因は遼二さんへの横恋慕だっていうじゃない。色恋沙汰で殺戮まで考えるなんてって、チームの皆んなも相当憤っていたのよ」
「うん、まあなぁ。けど遼や皆んながすぐに気がついてくれて助けに来てくれたからさ。お陰で今もこうして無事でいられるって有難いよね!」
明るく微笑む紫月に、メビィもまたホッとしたようにしながらも切なそうに笑ってみせた。
そんなやり取りを黙って窺っていた周が、ふと意外なことを口走ってみせた。
「そういやアンタのチームが鐘崎を嵌めた時のことだが――アンタは正直どうだったんだ?」
誰もが『え――?』といったように周を見やる。メビィもまた然りだ。
「……どうって、何が……かしら?」
「アンタはこいつ――鐘崎に対してどんな思いだったのかと思ってな。少なからず色恋の感情があったのか、それとも単に仕事として罠をかけただけなのかってことだ。少々興味があるんでな。良かったら教えちゃくれねえか?」
何故周が今更そんなことを訊きたいのか分からないながらも、誰もが興味をそそられたようだ。メビィはバツの悪そうにしながらも、この周がそんなことを言い出すからには何か意図があると思ったのだろう、存外素直に答えてみせた。
「そうね、アタシはどっちかといったら仕事で――っていう思いが強かったわね。まあでも実際遼二さんに会ってみたらすごく男前だったし、万が一にも上手く事が運んだ暁には、こんなイケメンを恋人にできるならラッキー……とは思ったわ」
メビィの答えに周は面白そうにしながらも先を続けた。
「ほう? ではアンタはこいつに惚れたわけじゃなく、仕事で罠に嵌めるってことの方が重要だったってことか」
「ええ、アタシはチームの中で一番の新参者だったし、特にこれといった実績も上げられていなかったから……。この機会にあの鐘崎組を落とせたらアタシの株もグンと上がるって思って……」
これでも一生懸命だったのよと苦笑する彼女に、周は満足そうにうなずいてみせた。
「えらく向上心があることだな。感心ついでにもうひとつ教えちゃくれねえか」
「ええ……」
何かしら? というようにメビィは小首を傾げた。
同じ裏の世界の者同士だ。紫月が襲われた事件のことは当然彼女の耳にも入っていたようだ。
「遼二さんもお心を痛められたでしょう。チームの皆んなも心配していたのよ」
今度は鐘崎に向かってそう言ったメビィに、
「――ああ。でもお陰様でこうして紫月も無事だったからな。その節はうちの親父の方にアンタのボスからも見舞いの言葉をいただいて――気を遣わせてすまなかったな」
ありがとうと言って鐘崎は頭を下げた。
「いいえ、そんな……とんでもない! でも本当にたいへんだったわね。犯人たちのことも聞いたけど、裏の世界じゃ――あの鐘崎組に喧嘩を売るなんて大馬鹿者だって噂でもちきりだったわ。まあアタシたちも初っ端から遼二さんにとんでもない失礼をしでかした身だから……偉そうなこと言えた立場じゃないんだけれど……」
あの時は本当に申し訳なかったと言って、メビィは深々頭を下げてよこした。
「でも……自分たちを棚に上げてナンだけど――犯人たちがしたことは本当に許せないわよね。テロリストを雇って紫月さんを亡き者にしようとしたって……。しかも原因は遼二さんへの横恋慕だっていうじゃない。色恋沙汰で殺戮まで考えるなんてって、チームの皆んなも相当憤っていたのよ」
「うん、まあなぁ。けど遼や皆んながすぐに気がついてくれて助けに来てくれたからさ。お陰で今もこうして無事でいられるって有難いよね!」
明るく微笑む紫月に、メビィもまたホッとしたようにしながらも切なそうに笑ってみせた。
そんなやり取りを黙って窺っていた周が、ふと意外なことを口走ってみせた。
「そういやアンタのチームが鐘崎を嵌めた時のことだが――アンタは正直どうだったんだ?」
誰もが『え――?』といったように周を見やる。メビィもまた然りだ。
「……どうって、何が……かしら?」
「アンタはこいつ――鐘崎に対してどんな思いだったのかと思ってな。少なからず色恋の感情があったのか、それとも単に仕事として罠をかけただけなのかってことだ。少々興味があるんでな。良かったら教えちゃくれねえか?」
何故周が今更そんなことを訊きたいのか分からないながらも、誰もが興味をそそられたようだ。メビィはバツの悪そうにしながらも、この周がそんなことを言い出すからには何か意図があると思ったのだろう、存外素直に答えてみせた。
「そうね、アタシはどっちかといったら仕事で――っていう思いが強かったわね。まあでも実際遼二さんに会ってみたらすごく男前だったし、万が一にも上手く事が運んだ暁には、こんなイケメンを恋人にできるならラッキー……とは思ったわ」
メビィの答えに周は面白そうにしながらも先を続けた。
「ほう? ではアンタはこいつに惚れたわけじゃなく、仕事で罠に嵌めるってことの方が重要だったってことか」
「ええ、アタシはチームの中で一番の新参者だったし、特にこれといった実績も上げられていなかったから……。この機会にあの鐘崎組を落とせたらアタシの株もグンと上がるって思って……」
これでも一生懸命だったのよと苦笑する彼女に、周は満足そうにうなずいてみせた。
「えらく向上心があることだな。感心ついでにもうひとつ教えちゃくれねえか」
「ええ……」
何かしら? というようにメビィは小首を傾げた。
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