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春遠からじ
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「前に白龍のことを好きだった唐静雨さんだって……彼女が恨みの矛先を向けたのは直接白龍にだったでしょ? そりゃ俺のところに文句を言いに来たこともあったけど、その時だって彼女が一人で来たし、俺の側には紫月さんが居てくれていろいろと助けてくれたもの。唐静雨さんだってテロリストとかの怖い人たちを連れて来たわけでもなかった」
つまりただ単に嫌味を言うとかだけなら世間でも有り得そうなことだし、好いた惚れたで揉めたとしても話し合いで解決するなどいくらでも方法はあっただろうと思うわけだ。実際、唐静雨の場合も最終的にはロンという男を巻き込んで周を亡き者にしようなどと企んだのは事実だが、その恨みの感情を向けたのは彼女を振った周本人にであって、連れ合いの冰に手を出したわけではなかった。
「しかもその時はお兄様や鐘崎さんも一緒にターゲットにされて、白龍一人だけっていうわけじゃなかった。ちょっと前の――ウィーンに行った時もそうだよ。お兄様のことを好きだった楚優秦さんの事件――あの時も拉致されたのはお義姉様だけじゃなく俺や紫月さんも一緒だった。皆んなで一緒に戦えたから傷も深くならずに済んだように思うんだ」
だが今回はターゲットにされたのが紫月一人だった。それも傭兵経験のある大勢の男たちが銃撃までしてきて、命すれすれの事態にまでなってしまった。当然、鐘崎は責任を感じただろうし、万が一にも紫月が命を落としていたらと思うと、これまでとはまったく重さが違って感じられたのではないかというのだ。
どんなに悪人だろうと相手は女だ。直接的に手を下すことも躊躇させられ、そんなことからも鐘崎の中で消化しきれていないというか、例えば思い切りぶん殴ってでも怒りをぶつけられればまた違ったのではないかと思えるというのだ。
「ふむ、確かにな――。源次郎氏の話じゃカネはあの後も取引先の女からちょっかいを掛けられているようだが、えらくきっぱりした態度で断っているとか。あいつにとって、自分に色目を使ってくる女はすべて敵のように思えているんだろうな」
そんなところから考えても、鐘崎が――とかく色恋が絡みそうなことに関しては――必要以上に警戒心を強くしてしまっているのが窺える。
「鐘崎さん、確かに格好いいから興味を引かれる女の人の気持ちも分からないわけじゃないけどさ。これからもこんなことが続くと精神的に参っちゃうんじゃないかと思って……」
「あいつは何故か昔っから女に追っ掛けられることが多かったからな」
「でもさ、格好いいっていう意味では白龍だって同じだと思うんだよ。イイ男っていうなら鐘崎さんも白龍もだし、紫月さんや鄧先生にお兄様、曹さんや李さんたちだってそうじゃない? なのに何で鐘崎さんだけちょっと厄介……なんて言ったら失礼かも知れないけど、そういう女の人に好かれちゃうのかなって、不思議なんだよね」
「そう言われてみれば確かにな――面構えのいい男が全員そんな目に遭うってんなら、世の中は逆恨みだらけになるってことだ。あいつ、なんかヘンテコなフェロモンでも持ってるってのか……」
「う……! へ、ヘンなフェロモンって……白龍……!」
飲み掛けた紹興酒を喉に詰まらせながら冰はゴホゴホと咳き込んでしまった。
つまりただ単に嫌味を言うとかだけなら世間でも有り得そうなことだし、好いた惚れたで揉めたとしても話し合いで解決するなどいくらでも方法はあっただろうと思うわけだ。実際、唐静雨の場合も最終的にはロンという男を巻き込んで周を亡き者にしようなどと企んだのは事実だが、その恨みの感情を向けたのは彼女を振った周本人にであって、連れ合いの冰に手を出したわけではなかった。
「しかもその時はお兄様や鐘崎さんも一緒にターゲットにされて、白龍一人だけっていうわけじゃなかった。ちょっと前の――ウィーンに行った時もそうだよ。お兄様のことを好きだった楚優秦さんの事件――あの時も拉致されたのはお義姉様だけじゃなく俺や紫月さんも一緒だった。皆んなで一緒に戦えたから傷も深くならずに済んだように思うんだ」
だが今回はターゲットにされたのが紫月一人だった。それも傭兵経験のある大勢の男たちが銃撃までしてきて、命すれすれの事態にまでなってしまった。当然、鐘崎は責任を感じただろうし、万が一にも紫月が命を落としていたらと思うと、これまでとはまったく重さが違って感じられたのではないかというのだ。
どんなに悪人だろうと相手は女だ。直接的に手を下すことも躊躇させられ、そんなことからも鐘崎の中で消化しきれていないというか、例えば思い切りぶん殴ってでも怒りをぶつけられればまた違ったのではないかと思えるというのだ。
「ふむ、確かにな――。源次郎氏の話じゃカネはあの後も取引先の女からちょっかいを掛けられているようだが、えらくきっぱりした態度で断っているとか。あいつにとって、自分に色目を使ってくる女はすべて敵のように思えているんだろうな」
そんなところから考えても、鐘崎が――とかく色恋が絡みそうなことに関しては――必要以上に警戒心を強くしてしまっているのが窺える。
「鐘崎さん、確かに格好いいから興味を引かれる女の人の気持ちも分からないわけじゃないけどさ。これからもこんなことが続くと精神的に参っちゃうんじゃないかと思って……」
「あいつは何故か昔っから女に追っ掛けられることが多かったからな」
「でもさ、格好いいっていう意味では白龍だって同じだと思うんだよ。イイ男っていうなら鐘崎さんも白龍もだし、紫月さんや鄧先生にお兄様、曹さんや李さんたちだってそうじゃない? なのに何で鐘崎さんだけちょっと厄介……なんて言ったら失礼かも知れないけど、そういう女の人に好かれちゃうのかなって、不思議なんだよね」
「そう言われてみれば確かにな――面構えのいい男が全員そんな目に遭うってんなら、世の中は逆恨みだらけになるってことだ。あいつ、なんかヘンテコなフェロモンでも持ってるってのか……」
「う……! へ、ヘンなフェロモンって……白龍……!」
飲み掛けた紹興酒を喉に詰まらせながら冰はゴホゴホと咳き込んでしまった。
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