極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
922 / 1,212
慟哭

24

しおりを挟む
「その点について俺に異存はねえ。あの女がどうなろうと知ったことじゃねえ。ただし――今後俺の前に姿を見せることがあったなら、あの女が何かをしでかそうがそうじゃなかろうが問答無用で容赦はしねえ」
 例えば彼女が改心して謝りたいと言ってきたにしても、謝罪することすら受け入れない、自分たちの目に触れることは許さないということである。感情の見えない瞳のその奥には留まるところを知らない怒りが秘められているかのようだった。
 鐘崎の表情からは『二度とシャバに出すな』とでも言いたげな思いがにじみ出てはいたものの、とにかくは方針を受け入れてもらえたことで丹羽は安堵したようだった。
「しかし世の中どうなってるんだってな事案が後を絶たねえな。俺が警察官になった頃は、一個人が――それもうら若い女がいとも簡単にテロリストを使って殺害を企むなんざ想像できなかったがな」
 しかもその理由にもまた驚愕させられる。恋情が叶わなかったからといってその相手の大事な伴侶を陥れようなど、我が侭にもほどが有り過ぎる。気に入らなければ安易に始末排除しようなどと思い、それを平気で実行するような人間がいること自体頭の痛い話だと言って、丹羽は溜め息を抑えられない様子でいた。誰にとっても似たような思いでいるものの、とかく鐘崎には考えさせられることが多かったようだ。
「俺にとっても自他共に振り返る機会となったのは確かだ。今後は警備強化や不測の事態に備えての対処などはもちろんだが、俺自身の甘さを正すと共に、気構えについても改めねばならん」
 あまり感情のないような落ち着いた顔つきでそんなことを言った鐘崎だが、その無表情の下には大切なものを守っていくという確固たる覚悟が沸々としているようでもあった。

 鐘崎と紫月にとっても表面上は日常が戻ったものの、事件が落とした影は生涯消えぬ傷となって二人の心を抉ったことは間違いない。それでも周や冰という友や源次郎以下組員たちのあたたかい友情と絆が少しずつ二人を癒し、流れる時間がこの悲痛な出来事を解していくだろう。それと共に、大切なものを守り抜くという思いもまた、これまで以上に覚悟と信念を強きものにしていくだろう。
 唯一目に見えて変わったことがあるとすれば、それは鐘崎の心構えという面だったかも知れない。
 今はもう、かつてのような優柔不断な甘さは見られない。仕事の面ではこれまで以上に研ぎ澄まされた精神で臨み、とかく色恋に発展しそうな感情を向けられた際には、厳しいほどの態度で回避するようにもなっていった。
 それとは裏腹――紫月に対する愛情は更に深く濃くなっていったようだ。若さ故かこれまではつい制御がきかないほどに求め欲した激しい抱き方はなりをひそめ、情を交わす時には穏やかでいながらして深い愛情を注ぐような求め方へと変わっていった。
 表面上ではこれまで以上に落ち着いたというか、感情の起伏を見せなくなってしまった鐘崎の――一見静かで穏やかそうに見える表情の下に鋭い刃物がなりを潜めていそうな危うさに、僚一と源次郎もまたこの事件が彼に与えた重さにやり切れない思いでいたようだ。まるで激しい慟哭を無理矢理押し殺しているかのような心の叫びが痛々しくてならないのだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...