919 / 1,212
慟哭
21
しおりを挟む
「女が大河内を殺ろうが殺らまいが、どちらにせよ末路は決まっている。カネはあの場で怒りをぶち撒けるよりももっと辛辣な方法で息の根を止めたということだ」
鐘崎にとってそれほどの怒りだということだ。あとは女がどうなろうが感知するところではない。逮捕されて監獄にぶち込まれようが、無罪だと言って発狂しようがどうでもいいのだ。
「仮にすべてが女の思惑通りにいったとしてもだ。警察だって馬鹿じゃねえ。滞在先のホテルでの様子なんぞも一応は調べるだろう。どうせ悠々自適に観光気分でチャラけていたに違いねえだろうからな。女の嘘なぞすぐにバレるということだ」
つまり放っておいても自滅する。本人たちは勿論のこと、父親の辰冨は間違いなく失脚するだろう。わざわざこちらが手を汚さずとも、最も辛辣な方法で葬ることができるということだ。
「そっか……。でもとにかく紫月さんが無事でよかった」
今はそれが何よりだ。
縁起でもない話だが、もしも救出が間に合わずに紫月を失ってしまったとしたら――また話は変わってくるだろう。鐘崎はそれこそ修羅と化していただろうし、その場合敵を自滅させるなどという甘いやり方は有り得ない。正当防衛どころか過剰防衛で鐘崎自らにも罪が課せられるかも知れないが、仮にこんな形で紫月を失ったとしたなら鐘崎にとってはそれ以上酷なことはないだろう。本物の修羅となって復讐を遂げた後は愛する者の後を追ってしまうかも知れない。
「今回のことを受けてカネが普段からの警備体制を見直すのは必須だろう。俺たちにとっても対岸の火事で済む話じゃねえ。カネと話し合って新たな体制を検討することになる」
例えばそれはわざわざ探査にかけずとも常にGPSの位置を把握できるようなシステムを敷くとか、緊急時に傍受される可能性のあるスマートフォンなどの一般的な機器以外で状況を知らせ合える新たな手段を講じる――などである。
「俺たちの生きる世界とはそういったことと切っても切れないものだというのは承知だが、お前や一之宮にも窮屈な思いをさせてすまないと思っている」
そんなことを言う周に、冰はとんでもないと言ってブンブンと首を振った。
「窮屈だなんて思わないよ。白龍や鐘崎さんが俺たちの安全の為に心を砕いてくれてるんだもの。紫月さんだって一緒だと思う」
周は『ありがとうな』というように黙って冰の肩を抱き寄せた。
「俺には――あのやさしいカネをこんなふうに追い込んだことが許せんな。ともすればヤツの性質を変えちまうほどのことをあの女はやってのけたんだ」
「白龍……」
「もしも俺がカネの立場だったら――危険にさらされたのがお前だったら――怒りを抑えられずに俺は連中を葬っていたかも知れん。そこを踏みとどまったカネの気持ちを思うと――やり切れねえ……」
そう――今回のことは周らにとっても決して他人事ではないのだ。いつ何時、自分たちにも降り掛かるか分からない火の粉だ。周は今一度気を引き締めると共に、今回のことで鐘崎と紫月の心に深い傷が残らないことを祈るのみだった。
鐘崎にとってそれほどの怒りだということだ。あとは女がどうなろうが感知するところではない。逮捕されて監獄にぶち込まれようが、無罪だと言って発狂しようがどうでもいいのだ。
「仮にすべてが女の思惑通りにいったとしてもだ。警察だって馬鹿じゃねえ。滞在先のホテルでの様子なんぞも一応は調べるだろう。どうせ悠々自適に観光気分でチャラけていたに違いねえだろうからな。女の嘘なぞすぐにバレるということだ」
つまり放っておいても自滅する。本人たちは勿論のこと、父親の辰冨は間違いなく失脚するだろう。わざわざこちらが手を汚さずとも、最も辛辣な方法で葬ることができるということだ。
「そっか……。でもとにかく紫月さんが無事でよかった」
今はそれが何よりだ。
縁起でもない話だが、もしも救出が間に合わずに紫月を失ってしまったとしたら――また話は変わってくるだろう。鐘崎はそれこそ修羅と化していただろうし、その場合敵を自滅させるなどという甘いやり方は有り得ない。正当防衛どころか過剰防衛で鐘崎自らにも罪が課せられるかも知れないが、仮にこんな形で紫月を失ったとしたなら鐘崎にとってはそれ以上酷なことはないだろう。本物の修羅となって復讐を遂げた後は愛する者の後を追ってしまうかも知れない。
「今回のことを受けてカネが普段からの警備体制を見直すのは必須だろう。俺たちにとっても対岸の火事で済む話じゃねえ。カネと話し合って新たな体制を検討することになる」
例えばそれはわざわざ探査にかけずとも常にGPSの位置を把握できるようなシステムを敷くとか、緊急時に傍受される可能性のあるスマートフォンなどの一般的な機器以外で状況を知らせ合える新たな手段を講じる――などである。
「俺たちの生きる世界とはそういったことと切っても切れないものだというのは承知だが、お前や一之宮にも窮屈な思いをさせてすまないと思っている」
そんなことを言う周に、冰はとんでもないと言ってブンブンと首を振った。
「窮屈だなんて思わないよ。白龍や鐘崎さんが俺たちの安全の為に心を砕いてくれてるんだもの。紫月さんだって一緒だと思う」
周は『ありがとうな』というように黙って冰の肩を抱き寄せた。
「俺には――あのやさしいカネをこんなふうに追い込んだことが許せんな。ともすればヤツの性質を変えちまうほどのことをあの女はやってのけたんだ」
「白龍……」
「もしも俺がカネの立場だったら――危険にさらされたのがお前だったら――怒りを抑えられずに俺は連中を葬っていたかも知れん。そこを踏みとどまったカネの気持ちを思うと――やり切れねえ……」
そう――今回のことは周らにとっても決して他人事ではないのだ。いつ何時、自分たちにも降り掛かるか分からない火の粉だ。周は今一度気を引き締めると共に、今回のことで鐘崎と紫月の心に深い傷が残らないことを祈るのみだった。
9
お気に入りに追加
871
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる