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慟哭
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同じ頃、港の入り口付近ではちょうど鐘崎の乗る車と源次郎らが合流したところだった。
「若! 姐さんのGPSは未だ倉庫街から動いておりません!」
「とすると、紫月は辰冨の娘と共にそこにいる可能性が高いな。氷川も言っていたが、女一人で思い付ける山じゃねえ」
「今、李さんが辰冨鞠愛と共に入国した者がいないかなどを当たってくれています。仮に誰かを雇ったとして、大使の娘が自由にできるといったらどのような連中でしょうか……」
「俺もそれを考えていた。おそらくだが――今回、親父の辰冨は無関係の可能性が高いと見ている。ただし娘への溺愛っぷりからすればゼロとは言い切れん。だからといって大使の立場を棒に振るとも思えんが、娘が単独で人を雇ったとするなら、いつも辰冨についているSPの中の誰かという線もあるだろう。あの女一人のスキルで思いつくとすれば、手近で安全な相手を選びそうに思えるが――」
以前にも三崎財閥の娘が鐘崎の気を引かんと狂言誘拐を企てた事があったが、その時も監禁場所には普段から使い慣れた安全なホテルのスイートルームを選んでいた。鞠愛もまた、境遇としては財閥令嬢と似たり寄ったりの裕福な箱入り育ちだ。何か事を起こすにしても自分がまるで知らないテリトリーに手を出すとは考えにくい。つまり、インターネット上などで見ず知らずの実行部隊を募るなどといった冒険は冒さないだろうと思えるのだ。
「そうですね……。ただ、こんな倉庫街に潜ることからしても相当場慣れしている連中かと――」
可能性が高いのは父親のSPや側近などの中から金で動きそうな者を抱え込んで、その者に実行部隊を手配させたとも考えられる。二十代の箱入り娘が一人でこれだけのことをやってのけられるとは思えないからだ。
「仮にSPが絡んでいるなら銃を所持している可能性が高い――」
「武力的には我々の方が優勢でしょう。強行突破も可能と思われます。敵の状況として、人数的には多くても十人いるかいないか――あるいはもっと少ない二、三人というのが現実的なところかと。ひとつ危惧があるとすれば姐さんへの電話で女が口にしていた爆弾という節です。単なる脅しかも知れませんが、メールに添付されていた画像は確かに爆弾でした。実際にそれを所持しているとすれば慎重にいかねばなりません」
応援が来たことを敵に勘付かれたと同時に爆弾を使われないとも限らない。今現在、例えば紫月が拘束されていて、身体に爆発物が巻かれたりしているかも知れないのだ。即、踏み込みたいのは山々だが、その前に倉庫内の様子を把握する必要がある。
そんな話をしていると、周が側近たちを従えてやって来た。
「氷川! すまねえ。世話をかける」
「構わん。それより事の詳細が見えてきたぞ。李が報告する」
周に代わってそこからは李が手短かに経過を報告してよこした。
「辰冨鞠愛ですが、三日前に入国して以降、ここから程近いベイサイドのホテルに滞在しています。同行者は大河内莧、辰冨大使付きのボディガードです。二人は同じ飛行機で入国、ホテルも隣の部屋を取っています」
「やはりか――」
辰冨のSPという予想は当たっていたことになる。
「若! 姐さんのGPSは未だ倉庫街から動いておりません!」
「とすると、紫月は辰冨の娘と共にそこにいる可能性が高いな。氷川も言っていたが、女一人で思い付ける山じゃねえ」
「今、李さんが辰冨鞠愛と共に入国した者がいないかなどを当たってくれています。仮に誰かを雇ったとして、大使の娘が自由にできるといったらどのような連中でしょうか……」
「俺もそれを考えていた。おそらくだが――今回、親父の辰冨は無関係の可能性が高いと見ている。ただし娘への溺愛っぷりからすればゼロとは言い切れん。だからといって大使の立場を棒に振るとも思えんが、娘が単独で人を雇ったとするなら、いつも辰冨についているSPの中の誰かという線もあるだろう。あの女一人のスキルで思いつくとすれば、手近で安全な相手を選びそうに思えるが――」
以前にも三崎財閥の娘が鐘崎の気を引かんと狂言誘拐を企てた事があったが、その時も監禁場所には普段から使い慣れた安全なホテルのスイートルームを選んでいた。鞠愛もまた、境遇としては財閥令嬢と似たり寄ったりの裕福な箱入り育ちだ。何か事を起こすにしても自分がまるで知らないテリトリーに手を出すとは考えにくい。つまり、インターネット上などで見ず知らずの実行部隊を募るなどといった冒険は冒さないだろうと思えるのだ。
「そうですね……。ただ、こんな倉庫街に潜ることからしても相当場慣れしている連中かと――」
可能性が高いのは父親のSPや側近などの中から金で動きそうな者を抱え込んで、その者に実行部隊を手配させたとも考えられる。二十代の箱入り娘が一人でこれだけのことをやってのけられるとは思えないからだ。
「仮にSPが絡んでいるなら銃を所持している可能性が高い――」
「武力的には我々の方が優勢でしょう。強行突破も可能と思われます。敵の状況として、人数的には多くても十人いるかいないか――あるいはもっと少ない二、三人というのが現実的なところかと。ひとつ危惧があるとすれば姐さんへの電話で女が口にしていた爆弾という節です。単なる脅しかも知れませんが、メールに添付されていた画像は確かに爆弾でした。実際にそれを所持しているとすれば慎重にいかねばなりません」
応援が来たことを敵に勘付かれたと同時に爆弾を使われないとも限らない。今現在、例えば紫月が拘束されていて、身体に爆発物が巻かれたりしているかも知れないのだ。即、踏み込みたいのは山々だが、その前に倉庫内の様子を把握する必要がある。
そんな話をしていると、周が側近たちを従えてやって来た。
「氷川! すまねえ。世話をかける」
「構わん。それより事の詳細が見えてきたぞ。李が報告する」
周に代わってそこからは李が手短かに経過を報告してよこした。
「辰冨鞠愛ですが、三日前に入国して以降、ここから程近いベイサイドのホテルに滞在しています。同行者は大河内莧、辰冨大使付きのボディガードです。二人は同じ飛行機で入国、ホテルも隣の部屋を取っています」
「やはりか――」
辰冨のSPという予想は当たっていたことになる。
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