903 / 1,212
慟哭
5
しおりを挟む
その後すぐに源次郎へと報告が上げられ、急ぎ事実確認がなされることとなった。
組員たちは慌てふためきながらも懸命に事の次第を報告する。
「姐さん宛てに自治会の人から電話があって取り継ぎました。その後、十分くらいして姐さんがお出掛けになられたのを見送ったっス」
出ていく際に何か変わった様子はなかったかと尋ねるも、紫月は普段と変わらない感じで笑顔も見せていたという。
「それは何時頃のことだ」
源次郎が訊くと、組員はすぐに電話機のメモリーを確認して、『二時半です』と答えた。
「相手は若い女の声で、確か新しく役員になった人だとか」
組員は、『録音が残ってます』と言ってすぐさま皆の前で再生してみせた。
鐘崎組では事務所に架かってきた通話はすべて録音するシステムが敷かれている。
「女は田島――とな。最近この町内に転入して来た住人だろうか」
源次郎は次に紫月が内線を受け取った組最奥の事務所の方へと急いだ。通常、鐘崎と紫月が使っている部屋の方だ。
すると、受話器が外しっ放しにされており、そこでも通話内容が録音で残っていることが確認された。
「姐さんがわざと外したままで出掛けられたのだろうか……」
だとすれば緊急事態といえる。
録音を再生すれば、予想が決定的となった。
あなたのご主人を預かっている。
他言すれば爆弾によって即刻ご主人が命を落とす。
誰にも知られずに港の倉庫街へ来い――とあった。
紫月にとっても危険は承知の上だろうが、少しでも妙な行動が見られたら命はないというくだりから、源次郎にさえも言わずに出て行ったのだと思われる。おそらく盗聴や監視などを考慮してのことだろう。
源次郎はすぐさま専用の機器でおかしな物が仕掛けられていないかを調べてみたが、そういった類のものは見当たらなかった。確認後、自分の携帯から鐘崎へと連絡を試みる――。
「もしもし、源さんか。どうした?」
スマートフォンの向こうでは焦った様子の見られない穏やかな応答――つまり紫月に架かってきた電話は彼を誘き出す為の罠だということが明らかだ。一瞬で蜂の巣を突いたような緊張感に包まれた。
鐘崎に事情を説明しながら、源次郎は紫月の現在地を探索にかけた。スマートフォンの位置情報と共に彼の着けているピアスのGPSである。
「――これは……」
ピアスは外だがスマートフォンはこの事務所の中を示している。周囲を探すと半開きになったデスクの引き出しに置きっ放しにされていた紫月のスマートフォンが見つかった。――とすれば、これも彼がわざと置いて出た可能性が高い。
組員たちは慌てふためきながらも懸命に事の次第を報告する。
「姐さん宛てに自治会の人から電話があって取り継ぎました。その後、十分くらいして姐さんがお出掛けになられたのを見送ったっス」
出ていく際に何か変わった様子はなかったかと尋ねるも、紫月は普段と変わらない感じで笑顔も見せていたという。
「それは何時頃のことだ」
源次郎が訊くと、組員はすぐに電話機のメモリーを確認して、『二時半です』と答えた。
「相手は若い女の声で、確か新しく役員になった人だとか」
組員は、『録音が残ってます』と言ってすぐさま皆の前で再生してみせた。
鐘崎組では事務所に架かってきた通話はすべて録音するシステムが敷かれている。
「女は田島――とな。最近この町内に転入して来た住人だろうか」
源次郎は次に紫月が内線を受け取った組最奥の事務所の方へと急いだ。通常、鐘崎と紫月が使っている部屋の方だ。
すると、受話器が外しっ放しにされており、そこでも通話内容が録音で残っていることが確認された。
「姐さんがわざと外したままで出掛けられたのだろうか……」
だとすれば緊急事態といえる。
録音を再生すれば、予想が決定的となった。
あなたのご主人を預かっている。
他言すれば爆弾によって即刻ご主人が命を落とす。
誰にも知られずに港の倉庫街へ来い――とあった。
紫月にとっても危険は承知の上だろうが、少しでも妙な行動が見られたら命はないというくだりから、源次郎にさえも言わずに出て行ったのだと思われる。おそらく盗聴や監視などを考慮してのことだろう。
源次郎はすぐさま専用の機器でおかしな物が仕掛けられていないかを調べてみたが、そういった類のものは見当たらなかった。確認後、自分の携帯から鐘崎へと連絡を試みる――。
「もしもし、源さんか。どうした?」
スマートフォンの向こうでは焦った様子の見られない穏やかな応答――つまり紫月に架かってきた電話は彼を誘き出す為の罠だということが明らかだ。一瞬で蜂の巣を突いたような緊張感に包まれた。
鐘崎に事情を説明しながら、源次郎は紫月の現在地を探索にかけた。スマートフォンの位置情報と共に彼の着けているピアスのGPSである。
「――これは……」
ピアスは外だがスマートフォンはこの事務所の中を示している。周囲を探すと半開きになったデスクの引き出しに置きっ放しにされていた紫月のスマートフォンが見つかった。――とすれば、これも彼がわざと置いて出た可能性が高い。
11
お気に入りに追加
871
あなたにおすすめの小説
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる