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紅椿白椿
60(紅椿白椿 完結)
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「我々は心から若と姐さんを尊敬し、お慕い申し上げております。生涯あなた方の下でお仕えし、ついて参りたいと存じます。未熟者の集まりではございますが、どうかこんな我々をお二人の子と思い、末永くお導きいただけたら幸甚でございます」
清水の挨拶と同時に組員全員が揃って頭を下げた。
「清水……皆んな……」
鐘崎の声は感激にくぐもり、その瞳には既に堪え切れなくなった涙があふれ出していた。紫月もまた同様だ。
おそらくは後継ぎがどうの、孫の顔がどうのという何かにつけて世間から言われるであろうそれを吹き飛ばすかのように、自分たちが若頭夫婦の子供でありたいと、そんな思いを込めてくれたのだろう。あまりの嬉しさに鐘崎は図らずもその場で号泣してしまった。
「す……まねえ、皆んな……。こ……んな、嬉しい日にみっともねえところを見せちまって……極道としても立つ背がねえが、あんまりにも嬉し過ぎて……おめえらの気持ちが有り難くて、涙がとまらねえ」
本当にありがとうと言っては目も鼻も真っ赤にしては男泣きする鐘崎に、組員たちもつられるように涙したのだった。
「皆んな、本当にありがとうな! 泰造親方と駈飛ちゃんもありがとう! それから親父たちに綾さん、源さん、氷川と冰君も本当にありがとう! 俺もこの白椿を授かったことだし、改めて皆んなと共にこの組を繁栄させていきたいと思ってる。俺も遼も未熟で足りねえところも多いが、これからも末永くよろしくな!」
涙で言葉にならない亭主に代わって紫月が力強く微笑んだ。
「こちらこそ! これからもますますよろしくお願いいたしやす!」
「若頭、万歳ー!」
「姐さん、万歳ー!」
皆が万歳に湧く中、
「よーし、それじゃ祝膳といくか! 皆、今日は無礼講だ。楽しんでくれ!」
長の僚一の言葉で皆はそれぞれの席に着いて祝膳が運ばれてくるのを待つ。
「皆、ありがとう。乾杯の発声はここに集まってくれた全員にお願いしたい」
真心でいっぱいの若頭からの要望で、乾杯の発声は全員ですることとなった。
「若と姐さん、鐘崎組とお集まりの皆様のご健勝ご発展を祈念して――乾杯!」
野太く雄々しい声が大広間にこだまする。これからますます強く、熱くなる初夏の陽射しの如く歓喜あふれる幸せの宴はいつまでもいつまでも陽気な笑い声であふれてやまなかった。
この至福の日を記念して、鐘崎と紫月の二人から皆に贈られた引出物は紅白椿の描かれた塗りの薬入れだった。いわゆる――かの有名な印籠である。房の組紐は黒に近い濃い蘇芳色と鮮やかな藤紫色が組み込まれており、二人の感謝の気持ちが込められた何よりの記念の品だった。組員たちはもちろんのこと、周や冰、綾乃木、それに庭師の泰造と小川にも贈られて、皆はまたひとしおの感激に浸ったのだった。
紅椿白椿、互いの肩の上で生涯枯れぬ大輪の花と共にこの生を全うせん。
手と手を取り合って、いつまでも永久に――。
清水の挨拶と同時に組員全員が揃って頭を下げた。
「清水……皆んな……」
鐘崎の声は感激にくぐもり、その瞳には既に堪え切れなくなった涙があふれ出していた。紫月もまた同様だ。
おそらくは後継ぎがどうの、孫の顔がどうのという何かにつけて世間から言われるであろうそれを吹き飛ばすかのように、自分たちが若頭夫婦の子供でありたいと、そんな思いを込めてくれたのだろう。あまりの嬉しさに鐘崎は図らずもその場で号泣してしまった。
「す……まねえ、皆んな……。こ……んな、嬉しい日にみっともねえところを見せちまって……極道としても立つ背がねえが、あんまりにも嬉し過ぎて……おめえらの気持ちが有り難くて、涙がとまらねえ」
本当にありがとうと言っては目も鼻も真っ赤にしては男泣きする鐘崎に、組員たちもつられるように涙したのだった。
「皆んな、本当にありがとうな! 泰造親方と駈飛ちゃんもありがとう! それから親父たちに綾さん、源さん、氷川と冰君も本当にありがとう! 俺もこの白椿を授かったことだし、改めて皆んなと共にこの組を繁栄させていきたいと思ってる。俺も遼も未熟で足りねえところも多いが、これからも末永くよろしくな!」
涙で言葉にならない亭主に代わって紫月が力強く微笑んだ。
「こちらこそ! これからもますますよろしくお願いいたしやす!」
「若頭、万歳ー!」
「姐さん、万歳ー!」
皆が万歳に湧く中、
「よーし、それじゃ祝膳といくか! 皆、今日は無礼講だ。楽しんでくれ!」
長の僚一の言葉で皆はそれぞれの席に着いて祝膳が運ばれてくるのを待つ。
「皆、ありがとう。乾杯の発声はここに集まってくれた全員にお願いしたい」
真心でいっぱいの若頭からの要望で、乾杯の発声は全員ですることとなった。
「若と姐さん、鐘崎組とお集まりの皆様のご健勝ご発展を祈念して――乾杯!」
野太く雄々しい声が大広間にこだまする。これからますます強く、熱くなる初夏の陽射しの如く歓喜あふれる幸せの宴はいつまでもいつまでも陽気な笑い声であふれてやまなかった。
この至福の日を記念して、鐘崎と紫月の二人から皆に贈られた引出物は紅白椿の描かれた塗りの薬入れだった。いわゆる――かの有名な印籠である。房の組紐は黒に近い濃い蘇芳色と鮮やかな藤紫色が組み込まれており、二人の感謝の気持ちが込められた何よりの記念の品だった。組員たちはもちろんのこと、周や冰、綾乃木、それに庭師の泰造と小川にも贈られて、皆はまたひとしおの感激に浸ったのだった。
紅椿白椿、互いの肩の上で生涯枯れぬ大輪の花と共にこの生を全うせん。
手と手を取り合って、いつまでも永久に――。
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