極道恋事情

一園木蓮

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紅椿白椿

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 今回周は中盆役をってくれるようで、彼もまた儀式参列時の正装姿から粋な流しの着物姿へと変身を遂げていた。
 賭ける役はもちろんのこと主役の二人、鐘崎と紫月である。まあこれは祝いの余興であるから、勝ち負けを争うものではないわけだが、それでも組員たちにとっては本格的な賭場の雰囲気に誰もが浮き足だって行方を見つめている。

「どなたさんもよろしゅうござんすか? では――入ります」

 普段よりも一段低い声色を使った冰の掛け声と壺を振る仕草は本当に粋で、思わず背筋に鳥肌が走るような緊張感に包まれる。普段はノホホンとした優しい雰囲気の彼だが、一度壺を手にすれば、切った張ったの世界観をその背に背負っているような見事さを醸し出してしまう。これが本当にあの冰さんか? というほどに、鐘崎組の組員たちは目を丸くしてしまった。
「さあ若さん、姐さん、張っておくんなせえ!」
 中盆役の周がスッと掌で壺を指す粋な仕草で夫婦を誘う。
「そんじゃ、俺ァ六ゾロの丁だ」
 紫月が先に賭けると、続いて鐘崎が満足そうに不敵な笑みを見せた。
「二ゾロの丁!」
 それを聞いて、壺振りの冰はむろんのこと、誰もがとびきり幸せそうに瞳を細めてしまった。六ゾロは六月六日、鐘崎の誕生日だ。二ゾロは二月二日で紫月の生まれた日。
 夫婦で互いの誕生日に賭けた若頭と姐さんに、勝負云々はどうでもよく、幸せな気持ちにさせられる。
 気になるその行方は、
「六ゾロの丁」
 まず最初に勝ちを手にしたのは紫月だった。大広間全体が割れんばかりの大歓声に湧く。
「さっすが姐さん!」
「若、頑張ってくだせえ!」
 方々から声援が飛び交い、二度目の勝負が繰り広げられる。
 次も夫婦揃って先程と同じ目に賭けたものの、今度は二ゾロが出て鐘崎の勝ちとなった。
「では締めの勝負と参りましょう」
 すると今度は鐘崎も紫月も同時に声を揃えて同じ目を告げ合った。

二六ニロクの丁!」

 互いに互いの誕生日の目で一勝一敗、締めの勝負は二人の誕生日を合わせた目を選ぶところにまたもや場が湧き立つ。あとはめでたいその目が出せるかが冰の腕の見せ所だ。
 皆の視線は一点、壺に集まる。
 ゆっくりとした所作で開けられた壺の中の目は、
二六ニロクの丁! 若頭、姐様、おめでとうござんす!」
 中盆の美声と共に再び場内が大歓声に湧いたのだった。
「いやぁ、さすがは冰君だ!」
「本当にな。こんなに嬉しい祝辞はねえ」
 紫月も鐘崎も感激で頬を紅潮させたが、初めて冰の腕前を目の当たりにした組員たちは大興奮だ。すげえすげえの大合唱で、しばらくの間は歓声が止むことはなかった。
「話には聞いておりやしたが、正に神業でござんすね!」
「さすが周ファミリーの姐様でいらっしゃる――!」
 もうこのまま自分たちにも一勝負参加させて欲しいといった顔つきで、しばし興奮が止むことはなかった。
「よし、それじゃ遼二と紫月からもお返しをせんとな」
 皆の興奮を宥めるように長の僚一が立ち上がる。座敷の障子が開かれると、中庭には二本の藁束が姿を現した。そこへ源次郎が先日贈られた記念の夫婦刀を持ってやって来た。
「若頭、姐さん、どうぞお取りください」
 鐘崎が男刀を、紫月が女刀を受け取り、二人揃って中庭へと降り立った。居合斬りの披露である。
 二人共に着物の袷から片方の腕を出して、披露目したばかりの刺青姿で刀を構える。
「両者共に礼! よし、始め!」
 紫月の父親である飛燕からの合図を受けて、二人は同時に腰に携えた鞘へと手を掛けた。と、次の瞬間、藁束が一瞬で斬って落とされる。その間わずか秒である。気付いた時には両者共に刀は鞘へと収められていた。
 大広間で見ていた者たちは息を呑んだように静まり返り、そのまましばらくは唖然としたように静寂の時が続いた。皆の耳に音が戻ってきたのは鐘崎と紫月が互いの斬った藁束を拾い上げた時だった。
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