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紅椿白椿
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「彫り師としての勉強は幼い頃からいたしましたし、実績もございます。もしも私でよろしければお手伝いさせていただければと思うのですが」
その申し出に満場一致で拍手喝采となった。
「それは有り難い。ここならウチの組とは目と鼻の先だし、遼二も毎日嫁さんに会いに来られるじゃねえか」
鐘崎にとってもこれ以上のことはない。綾乃木の腕は信頼に足り得るし、何より紫月の実家で彫ってもらえるとなれば安心だ。願ってもないことだと言って感激に湧いたのだった。
「では綾乃木君、よろしく頼んだぞ」
「はい。お任せください」
こうして鐘崎組姐の白椿は綾乃木の手によって一之宮道場で行われることになったのだった。
◇ ◇ ◇
「姐さんは今日からご実家かぁ。俺たちも陣中見舞いに行かせてもらっても大丈夫かな?」
「若のご許可が出れば大丈夫じゃねえか?」
鐘崎組では事情を知った組員たちがワイのワイのと浮き足立っている。
「おめえさん方、それもいいが今はしっかり組の留守番を預かることに精を出せ」
源次郎に言われてタジタジと頭を掻いている。誰もが姐さんの肩に咲く白椿を心待ちにしているのが窺えた。
また、汐留でも周と冰が見舞いや完成後の祝いについて楽しい話を繰り広げていた。
「俺が白蘭を入れた時にはとっても素敵なお祝いをいただいたものね! 何か記念に残るような物を贈りたいなぁ」
冰が白蘭を纏った際には鐘崎と紫月からの祝いとして夫婦揃いの鉄扇が贈られていた。見た目は優美な扇だが、いざとなれば身を守る武器の役目にもなる代物だ。図柄は周の方には冰を示す白蘭、冰のものには周を意味する白龍が精密に彫られており、要の部分には二人を象徴するガーネットとダイヤモンドが埋め込めれていた。鐘崎と紫月の心がこもった何よりの祝いの品だった。当然、今度は自分たちが鐘崎らを祝いたいと思うわけだ。
「実はな、冰。カネと一之宮の親父さんたちも祝いの品を用意しているそうなんだが、俺たちはそれにちなんだものを贈ろうと思ってるんだ」
「そうなんだ! じゃあもう何にするか決めてあるの?」
「ああ。おそらく喜んでもらえるはずさ」
「わ! それは良かった」
「お前にも一緒にデザインなんかを見てもらいてえからな。付き合ってくれるか?」
もちろんだよと言って冰は大喜びした。
「ねえ白龍、紫月さんは刺青を彫る間はずっとご実家の道場にいるわけでしょ? だったらお見舞いがてら、例のお店のケーキとか差し入れしてあげたいんだけど」
「いいんじゃねえか? カネも可能な限り毎日のように顔を出すだろうし、俺も付き合うぞ」
「うん、お願い! 紫月さんから聞いた話だと彫る範囲も結構大きなものになるっていうからさ。俺はこの小さな白蘭でも緊張したもん! ちょくちょく様子を見にお邪魔したいなと思ってさ」
「お前が顔を見せてやれば一之宮も喜んでくれるだろう。彫り物を入れるのは確かに大仕事だしな。いくら一之宮自身の希望とはいえ、やはり不安はあるだろう。まあ今は昔と違って麻酔なんぞも発達しているからな。だが一之宮は痛みも覚悟の一環だと言って、麻酔なしでやることに決めたとか」
「ええッ? そうなの?」
冰は驚いたが、それも紫月の愛情の深さなのだろうと思う。
「そっか。じゃあたくさん陣中見舞い持って会いにいかなきゃ!」
「俺が仕事で抜けられない時は真田にでも言って一緒に行ってもらえばいい」
「うん、そうする! ありがとうね、白龍!」
まるで我が事のように思い遣る様子に、周もまたあたたかい気持ちにさせられるのだった。
その申し出に満場一致で拍手喝采となった。
「それは有り難い。ここならウチの組とは目と鼻の先だし、遼二も毎日嫁さんに会いに来られるじゃねえか」
鐘崎にとってもこれ以上のことはない。綾乃木の腕は信頼に足り得るし、何より紫月の実家で彫ってもらえるとなれば安心だ。願ってもないことだと言って感激に湧いたのだった。
「では綾乃木君、よろしく頼んだぞ」
「はい。お任せください」
こうして鐘崎組姐の白椿は綾乃木の手によって一之宮道場で行われることになったのだった。
◇ ◇ ◇
「姐さんは今日からご実家かぁ。俺たちも陣中見舞いに行かせてもらっても大丈夫かな?」
「若のご許可が出れば大丈夫じゃねえか?」
鐘崎組では事情を知った組員たちがワイのワイのと浮き足立っている。
「おめえさん方、それもいいが今はしっかり組の留守番を預かることに精を出せ」
源次郎に言われてタジタジと頭を掻いている。誰もが姐さんの肩に咲く白椿を心待ちにしているのが窺えた。
また、汐留でも周と冰が見舞いや完成後の祝いについて楽しい話を繰り広げていた。
「俺が白蘭を入れた時にはとっても素敵なお祝いをいただいたものね! 何か記念に残るような物を贈りたいなぁ」
冰が白蘭を纏った際には鐘崎と紫月からの祝いとして夫婦揃いの鉄扇が贈られていた。見た目は優美な扇だが、いざとなれば身を守る武器の役目にもなる代物だ。図柄は周の方には冰を示す白蘭、冰のものには周を意味する白龍が精密に彫られており、要の部分には二人を象徴するガーネットとダイヤモンドが埋め込めれていた。鐘崎と紫月の心がこもった何よりの祝いの品だった。当然、今度は自分たちが鐘崎らを祝いたいと思うわけだ。
「実はな、冰。カネと一之宮の親父さんたちも祝いの品を用意しているそうなんだが、俺たちはそれにちなんだものを贈ろうと思ってるんだ」
「そうなんだ! じゃあもう何にするか決めてあるの?」
「ああ。おそらく喜んでもらえるはずさ」
「わ! それは良かった」
「お前にも一緒にデザインなんかを見てもらいてえからな。付き合ってくれるか?」
もちろんだよと言って冰は大喜びした。
「ねえ白龍、紫月さんは刺青を彫る間はずっとご実家の道場にいるわけでしょ? だったらお見舞いがてら、例のお店のケーキとか差し入れしてあげたいんだけど」
「いいんじゃねえか? カネも可能な限り毎日のように顔を出すだろうし、俺も付き合うぞ」
「うん、お願い! 紫月さんから聞いた話だと彫る範囲も結構大きなものになるっていうからさ。俺はこの小さな白蘭でも緊張したもん! ちょくちょく様子を見にお邪魔したいなと思ってさ」
「お前が顔を見せてやれば一之宮も喜んでくれるだろう。彫り物を入れるのは確かに大仕事だしな。いくら一之宮自身の希望とはいえ、やはり不安はあるだろう。まあ今は昔と違って麻酔なんぞも発達しているからな。だが一之宮は痛みも覚悟の一環だと言って、麻酔なしでやることに決めたとか」
「ええッ? そうなの?」
冰は驚いたが、それも紫月の愛情の深さなのだろうと思う。
「そっか。じゃあたくさん陣中見舞い持って会いにいかなきゃ!」
「俺が仕事で抜けられない時は真田にでも言って一緒に行ってもらえばいい」
「うん、そうする! ありがとうね、白龍!」
まるで我が事のように思い遣る様子に、周もまたあたたかい気持ちにさせられるのだった。
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