極道恋事情

一園木蓮

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紅椿白椿

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「お客さんかな……」
 小川が剪定の手を止めて僚一らを目で追っている。幹部の清水が案内役なのだろう、先導しながら『かれこれ二十年ぶりだそうですね』などと言っているので、昔懐かしい客人でも訪れたのだろうと思われる。
「おいコラ、駈飛! よそ見してねえで手を動かさんか!」
 親方に釘を刺されて小川は気まずそうに頭を掻いてみせた。
「へえ、すいやせん。けど組長さんたちってマジカッコいいっスよねえ。姐さんはめっちゃ美人なのに全然気取ってなくてやさしいし! 俺、マジで憧れちゃうっスよ!」
 組長や若頭とは滅多に会う機会もないが、姐さんである紫月とは割合頻繁に顔を合わせていた。まあ紫月は邸内にいることが多いし、小川らが仕事で訪れている際にも自ら茶菓子を出してくれたりと気遣ってくれたりもする。フレンドリーな性格なので、小川ともすっかり馴染み、駈飛ちゃんなどと呼んでもらっていることが小川にとっては非常に嬉しく自慢でもあるのだった。
「ったく、おめえは! お客さんのプライベートに首を突っ込むなといつも言ってるだろうが! バカなこと抜かしてねえで仕事に集中しろ! 集中!」
「へい!」
 タジタジながらも仕事に戻った小川だったが、いったいどんな客が訪ねて来たのか、そしてそれは僚一らとどういった間柄の人物なのかなどということが気になって仕方がないふうであった。



◇    ◇    ◇



 一方、その僚一らは第一応接室に待たせていた客人と対面していた。訪ねて来たのは以前この近所に住んでいたという外交官の男とその娘であった。
「本当にお久しぶりですなぁ」
「鐘崎様もお変わりなく! かれこれ二十年以上になりますかな。組長さんはいつまでもお若くていらっしゃるし、それに何と言っても遼二君がご立派になられて驚きました。あの頃はまだこんなに小さい男の子だったのに! しかもお父様にそっくりで、まるであの頃の組長さんを見ているようですよ」
「ええ、お陰様でコイツも組を継ぐ意向を固めてくれましてね。それより辰冨様こそ相変わらずにご活躍のご様子。ずっと海外に赴任されていらしたのでしょう? いよいよ日本にお戻りになられたのか?」
「いや、今回は長期の休暇が取れたものですから。お陰様で私も大使に任命されましてな、ここ数年仕事の方に没頭しておりましたもので、家族のことはなかなか構ってやれませんで。今回は娘が是非にと申しますので二十年ぶりで日本へ帰って参った次第でしてな」
「そうでしたか。大使閣下に――! それはおめでとうございます。お嬢さんもお綺麗になられて! あの頃はそれこそウチの愚息と一緒で、まだ小さかったのに。時が経つのは早いものですな」
 たった今僚一が口にした通り、この外交官の名は辰富といった。歳も僚一と同世代で、今では大使になったということだから出世頭といえる。一人娘は若頭の鐘崎よりも二つ三つ年下だったはずだ。名は確か鞠愛である。海外赴任が多い辰冨が現地で覚えてもらいやすいようにと命名したと言っていたのを思い出す。彼らがこの近所に住んでいた頃は、子供たちは二人ともまだ小学生だった。
 父親同士の挨拶が一通り済むと、鐘崎も続いて親娘に言葉を掛けた。
「ご無沙汰しております。皆様お元気そうで何よりです。いつぞやは大変世話になりました」
 そう言って丁寧に頭を下げる。辰冨はもちろんのこと、娘の鞠愛はとびきり嬉しそうな笑顔を見せた。
「遼二さんもお元気そうね! 会えて嬉しいわ」
「お陰様で。自分が今こうしていられるのも辰冨さんとお嬢さんのお陰ですから」
「あら、イヤね。お嬢さんだなんてよそよそしい言い方はよして。何て言ったって私たちはこの世で特別な間柄ですもの」
 そうでしょ? というように小首を傾げては頬を染める。
「ええ、そうですね。お二人は自分の命の恩人ですから」
 鐘崎が素直に相槌を返すと、鞠愛は一層満足そうにしてはとびきりの笑顔を輝かせた。
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