極道恋事情

一園木蓮

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紅椿白椿

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「五十半ばっスか? だったら違うな……。どう見ても三十いってるかいってないかってくらいだったし。俺よかちょっとばかし上って感じだったスけど、そういえば確かに貫禄はありました。すっげ渋い着物着てて、他の人らも……あの人に対してはやたら気を遣ってる雰囲気でしたし」
 とすれば息子の方だろうかと泰造は思った。
「それなら若頭かも知れんな。組長さんの息子さんだ」
「息子さんっスか! あー、そうかも。あの人が俺ンこと許すって言ったら、誰も文句言わなかったし……」
 それにしてもめちゃくちゃ男前で貫禄があって格好良かったと、小川は尊敬の眼差しでいる。しかも見た目だけでなく懐も深いとくれば尚更憧れざるを得ない。
「若頭かぁ。かっけーなぁ」
 まあ、彼の思うところの『カッコいい』というのは、いわゆる恋情とは全く別物のようで、単に同じ男として立派な様子に憧れるといった感情のようだ。いささか暢気と思えなくもないが、泰造はそんな小川を横目にやれやれと肩をすくめるのだった。
「まあいい。今日は別のお客さんの所へ約束が入ってるから仕方ねえが、明日にでも早速お詫びに上がるとしよう。俺も一緒に行く」
 鐘崎の温情に対して詫びに出向くのは当然だろう。弟子の不手際は親方の不手際だ。泰造は自ら頭を下げねばと思うのだった。
「すいません、親方……しょっぱなから迷惑掛けちまって……」
 小川はショゲながらも、『そうだ!』と思い付いたように瞳を見開いてみせた。
「そういえば親方……。あの若頭さんって……」
「何でい」
「や、あの……俺ン勘違いかも知れないっスけど。実は俺、ちょっと目を疑うようなっつか、すぐには信じらんねえようなモンを目撃しちまいやして」
「信じられねえものだ?」
 いったい何事だと泰造は首を傾げる。
「はぁ、その……あの人が、若頭さんが野郎といちゃついてんのを見ちまったっていうか……」
 その相手もひどくイケメンだったと興奮気味でいる。
「なんちゅーか、イケメンはイケメンなんだけど、若頭さんみてえのとはまたちょっと違うっつか。綺麗っつった方がニュアンス的に合ってんな……。若頭さんがその美人を抱き抱えて、チュウとかもしてたっぽくてっスね……。サカるとか体力使ったからどうとか言ってたっスけど、まさかマジでヤっちゃってた……なんつーコトはあるわけねえっスよねぇ?」
 小川の話に、泰造は『あちゃー』とでも言わんばかりに額を手で覆ってしまった。
 おそらく彼が見たのは紫月なのだろうと分かったからだ。
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