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紅椿白椿
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(いったいどうなってるんだ……。この家の人なのは間違いねえだろうけど、あんなところで何してるってんだよ)
よく見ると部屋の明かりはついていない。純和風のこの庭に似合いの和室の障子が開け放されているものの、月明かりだけで常夜灯ひとつ灯されてはいないのだ。
じっと目を凝らして窺えば、障子の向こうには寝乱れたような布団が敷かれてあるのに気がついた。
(寝てたってわけか? つか、こんな時間からかよ……)
休むにしては早すぎる時間帯だ。
(もしかして病か何かなのか……?)
ふと、昔の純文学に出てくるような光景が脳裏に浮かんでしまう。病の治療の為、美しい男が和服姿で療養している。誰でも一度は映画か何かで観た事があるようなシチュエーションに思えて、ひどく興味を引かれてしまった。
(けど病気だってんなら、煙草なんか吸っちゃって大丈夫なのか?)
紫煙を燻らす男は、そういえば何だか気だるそうにも見受けられる。もしかしたら目の前で倒れたりはしないかと、ハラハラしながら様子を窺っていたその時だ。廊下の向こうからもう一人、今度はまた別の男が近付いて来るのに気がついて、より一層身を低くしては息を殺した。
「ほら、紅茶を淹れてきたぞ。お前さんの好きなケーキもだ」
この男もまた和服姿だが、縁側で煙草を燻らしている彼よりはずっと渋めの色合いがよく似合っている。体格も堂々としていて、かなり逞しい男のようだ。
「おう、悪ィじゃん。気が利くな」
煙草を捻り消すと、腰掛けていた彼は嬉しそうにその男を振り返った。
「例によってだいぶ無理をさせちまったからな。後のケアは俺の役目だ。濃さがどうかよく分からんが大目に見てくれ」
「何だ、おめえが直々に淹れてくれたん?」
「もうこの時間だ。わざわざ厨房を煩わすこともあるまい。それに……俺が淹れたかったんだ」
「愛だな?」
「当然!」
渋めの着物の裾を叩いて彼の前へとケーキの乗った盆を差し出すと同時に、まるで抱き包むような体勢で腰を下ろしたのに更に驚かされてしまった。
(うわ……何……!? あれって野郎同士……だよな?)
二人共に開けた袷の隙間から覗かせているのは平たい胸板だ。どう見ても男同士に違いない。
だが、交わされる会話は何とも胸をざわつかせるような代物だ。それ以前にまるで恋人を抱くような仕草で背中から包み込む仕草にも、思わず開いた口が塞がらないほどの衝撃を感じてしまう。抱き包まれた彼の方も、これ当然といったように受け入れているではないか。
流れる雲の隙間から月明かりが照らし出した途端に、またしても驚かされる羽目となった。後からやって来た男の方も、ものすごい男前だったからだ。
煙草の男とはまた違った雰囲気ながら、顔立ちは精悍で体格も立派――少し寝乱れたような髪は艶のある深い黒だ。きっと女が放って置かないだろうと思われる極上のモデルか俳優のような美男子である。
「おい、遼。そうギュウギュウすんな。せっかくのケーキが食いづてえってのよぉ」
「そう言ってくれるな。それこそせっかくの情緒ある夜なんだ。くっついてるくらい許せってもんだ。何なら俺が食わしてやるぞ」
後方から抱き包みながらチュっと頬に口付ける。
「バッカ! さっきあんだけヤって、まだチュウとかよぉ。このエロライオンが!」
「お前だけのエロライオンな?」
そのやり取りにも心臓が爆発するかと思うような衝撃を受けた。
よく見ると部屋の明かりはついていない。純和風のこの庭に似合いの和室の障子が開け放されているものの、月明かりだけで常夜灯ひとつ灯されてはいないのだ。
じっと目を凝らして窺えば、障子の向こうには寝乱れたような布団が敷かれてあるのに気がついた。
(寝てたってわけか? つか、こんな時間からかよ……)
休むにしては早すぎる時間帯だ。
(もしかして病か何かなのか……?)
ふと、昔の純文学に出てくるような光景が脳裏に浮かんでしまう。病の治療の為、美しい男が和服姿で療養している。誰でも一度は映画か何かで観た事があるようなシチュエーションに思えて、ひどく興味を引かれてしまった。
(けど病気だってんなら、煙草なんか吸っちゃって大丈夫なのか?)
紫煙を燻らす男は、そういえば何だか気だるそうにも見受けられる。もしかしたら目の前で倒れたりはしないかと、ハラハラしながら様子を窺っていたその時だ。廊下の向こうからもう一人、今度はまた別の男が近付いて来るのに気がついて、より一層身を低くしては息を殺した。
「ほら、紅茶を淹れてきたぞ。お前さんの好きなケーキもだ」
この男もまた和服姿だが、縁側で煙草を燻らしている彼よりはずっと渋めの色合いがよく似合っている。体格も堂々としていて、かなり逞しい男のようだ。
「おう、悪ィじゃん。気が利くな」
煙草を捻り消すと、腰掛けていた彼は嬉しそうにその男を振り返った。
「例によってだいぶ無理をさせちまったからな。後のケアは俺の役目だ。濃さがどうかよく分からんが大目に見てくれ」
「何だ、おめえが直々に淹れてくれたん?」
「もうこの時間だ。わざわざ厨房を煩わすこともあるまい。それに……俺が淹れたかったんだ」
「愛だな?」
「当然!」
渋めの着物の裾を叩いて彼の前へとケーキの乗った盆を差し出すと同時に、まるで抱き包むような体勢で腰を下ろしたのに更に驚かされてしまった。
(うわ……何……!? あれって野郎同士……だよな?)
二人共に開けた袷の隙間から覗かせているのは平たい胸板だ。どう見ても男同士に違いない。
だが、交わされる会話は何とも胸をざわつかせるような代物だ。それ以前にまるで恋人を抱くような仕草で背中から包み込む仕草にも、思わず開いた口が塞がらないほどの衝撃を感じてしまう。抱き包まれた彼の方も、これ当然といったように受け入れているではないか。
流れる雲の隙間から月明かりが照らし出した途端に、またしても驚かされる羽目となった。後からやって来た男の方も、ものすごい男前だったからだ。
煙草の男とはまた違った雰囲気ながら、顔立ちは精悍で体格も立派――少し寝乱れたような髪は艶のある深い黒だ。きっと女が放って置かないだろうと思われる極上のモデルか俳優のような美男子である。
「おい、遼。そうギュウギュウすんな。せっかくのケーキが食いづてえってのよぉ」
「そう言ってくれるな。それこそせっかくの情緒ある夜なんだ。くっついてるくらい許せってもんだ。何なら俺が食わしてやるぞ」
後方から抱き包みながらチュっと頬に口付ける。
「バッカ! さっきあんだけヤって、まだチュウとかよぉ。このエロライオンが!」
「お前だけのエロライオンな?」
そのやり取りにも心臓が爆発するかと思うような衝撃を受けた。
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