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ダブルトロア
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「お嬢さん……本当に……私たちの娘なのですか?」
光順は逸るような表情で手を差し出しては、娘へと歩み寄った。
娘もまた、感激とも何ともいえない面持ちで差し出された手に自らのを重ねた。
「お……父様、お母様。香汐でございます。お目に掛かれて嬉しゅうございます……!」
「おお……おお香汐や! 永い間……苦労を掛けたね」
光順と妻は娘の手を取り、固く握り締めてはボロボロと涙を流した。
例え永らく離れていても、その手の温もりに触れた瞬間に同じ血が流れているのだと確信できたのだろう。親子三人、不遇な運命の中でようやくと辿り着いた血縁のあたたかさであった。
「頭領、ありがとうございます……。ありがとう……ございます! 娘を捜し出してくださって……言葉もございません!」
光順は号泣しながら隼にも心からの礼を述べた。
「楚光順よ。これを機に香港へ戻って来てはくれまいか?」
「……頭領……?」
「お前さんの組織が解体してから、若い者らの中には路頭に迷っている者も多い。もう一度彼らを束ねて、我がファミリーとして生きていくことを考えてくれたら嬉しいのだがな」
「頭領・周……こんな私めにそのような有り難きお言葉……」
それこそ言葉にならないと、光順はひたすら涙した。
「二年前のあの時、すぐに調べに動いていたらお前さんにも若い者らにも苦労を掛けずに済んだと思うと胸が痛い。そのことには心から申し訳ないと思う」
この通りだ――と頭を下げて謝罪する隼に、光順ら夫妻はとんでもないと言って身を震わせた。
これからは今までの苦労を鑑みて、できる限りの支援をしたいという隼に、光順とその妻は恐縮しつつも安堵と歓喜の涙を流したのだった。
◇ ◇ ◇
こうして頭領・隼の厚情の下、楚光順は香港へ戻ることとなり、希望する者には組織への復帰が認められた。
光順らの本当の娘・香汐も両親のもとで暮らせることになり、優秦は楚姓を剥奪され、隼の息が掛かったヨーロッパの修道院に預けられることが決まった。
本来であれば、二度も美紅を亡き者にしようと企てた罪は重く、ファミリーがその気になれば優秦を跡形もなく消し去ることも可能だったわけだ。それが極刑でないにしろ、生きているのが苦痛になるほどの悲惨な境遇に葬り去ることもできるのだが、そこまでしなかったのは周隼の最高の温情である。まあ優秦のような娘にとっては厳しい修道院での生涯は決して生やさしいものではないだろう。おいそれとは逃げられない城壁に囲まれた修道院は、現地でも有名な厳格さを備えた施設であった。加えて隼から一連の事情を聞かされていることもあって、優秦は格別厳しい監視下に置かれるようだ。ここから脱走するのは不可能といえるだろう。仮に脱走が叶ったところで天涯孤独・無一文となった彼女に立ちはだかる人生の壁は辛辣以外にないだろう。
また、そんな優秦の実母だが、彼女は赤児をすり替えた後、中国の上海に渡ったようだが、不運な事故によって既に他界していることが明らかとなった。優秦もまた、運命に弄ばれた不幸な娘といえたが、生まれてこのかた二十数年の間は楚夫妻のもとで何不自由のない暮らしを送れてきたわけだ。それにもかかわらず我が侭放題の性質は、きっとこの先も変わることはないのだろう。修道院に送ったとてその心根が変わるかどうかは怪しいものだが、周隼らファミリーにとって彼女のこれからがどうなろうとそれはもう関知するところではないし、これ以上の温情はないというのが実のところである。それとは対極の境遇の中にあっても、不平不満ひとつ言わずに一生懸命に生きてきた香汐は、気持ちのやさしい素晴らしい娘へと成長を遂げていた。本物の両親と再会することができて、これからの人生はより一層幸せに溢れるものであって欲しいと隼らは願ってやまなかった。
◇ ◇ ◇
光順は逸るような表情で手を差し出しては、娘へと歩み寄った。
娘もまた、感激とも何ともいえない面持ちで差し出された手に自らのを重ねた。
「お……父様、お母様。香汐でございます。お目に掛かれて嬉しゅうございます……!」
「おお……おお香汐や! 永い間……苦労を掛けたね」
光順と妻は娘の手を取り、固く握り締めてはボロボロと涙を流した。
例え永らく離れていても、その手の温もりに触れた瞬間に同じ血が流れているのだと確信できたのだろう。親子三人、不遇な運命の中でようやくと辿り着いた血縁のあたたかさであった。
「頭領、ありがとうございます……。ありがとう……ございます! 娘を捜し出してくださって……言葉もございません!」
光順は号泣しながら隼にも心からの礼を述べた。
「楚光順よ。これを機に香港へ戻って来てはくれまいか?」
「……頭領……?」
「お前さんの組織が解体してから、若い者らの中には路頭に迷っている者も多い。もう一度彼らを束ねて、我がファミリーとして生きていくことを考えてくれたら嬉しいのだがな」
「頭領・周……こんな私めにそのような有り難きお言葉……」
それこそ言葉にならないと、光順はひたすら涙した。
「二年前のあの時、すぐに調べに動いていたらお前さんにも若い者らにも苦労を掛けずに済んだと思うと胸が痛い。そのことには心から申し訳ないと思う」
この通りだ――と頭を下げて謝罪する隼に、光順ら夫妻はとんでもないと言って身を震わせた。
これからは今までの苦労を鑑みて、できる限りの支援をしたいという隼に、光順とその妻は恐縮しつつも安堵と歓喜の涙を流したのだった。
◇ ◇ ◇
こうして頭領・隼の厚情の下、楚光順は香港へ戻ることとなり、希望する者には組織への復帰が認められた。
光順らの本当の娘・香汐も両親のもとで暮らせることになり、優秦は楚姓を剥奪され、隼の息が掛かったヨーロッパの修道院に預けられることが決まった。
本来であれば、二度も美紅を亡き者にしようと企てた罪は重く、ファミリーがその気になれば優秦を跡形もなく消し去ることも可能だったわけだ。それが極刑でないにしろ、生きているのが苦痛になるほどの悲惨な境遇に葬り去ることもできるのだが、そこまでしなかったのは周隼の最高の温情である。まあ優秦のような娘にとっては厳しい修道院での生涯は決して生やさしいものではないだろう。おいそれとは逃げられない城壁に囲まれた修道院は、現地でも有名な厳格さを備えた施設であった。加えて隼から一連の事情を聞かされていることもあって、優秦は格別厳しい監視下に置かれるようだ。ここから脱走するのは不可能といえるだろう。仮に脱走が叶ったところで天涯孤独・無一文となった彼女に立ちはだかる人生の壁は辛辣以外にないだろう。
また、そんな優秦の実母だが、彼女は赤児をすり替えた後、中国の上海に渡ったようだが、不運な事故によって既に他界していることが明らかとなった。優秦もまた、運命に弄ばれた不幸な娘といえたが、生まれてこのかた二十数年の間は楚夫妻のもとで何不自由のない暮らしを送れてきたわけだ。それにもかかわらず我が侭放題の性質は、きっとこの先も変わることはないのだろう。修道院に送ったとてその心根が変わるかどうかは怪しいものだが、周隼らファミリーにとって彼女のこれからがどうなろうとそれはもう関知するところではないし、これ以上の温情はないというのが実のところである。それとは対極の境遇の中にあっても、不平不満ひとつ言わずに一生懸命に生きてきた香汐は、気持ちのやさしい素晴らしい娘へと成長を遂げていた。本物の両親と再会することができて、これからの人生はより一層幸せに溢れるものであって欲しいと隼らは願ってやまなかった。
◇ ◇ ◇
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