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ダブルトロア
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「まあ、もう起きちまったことをグジグジ悩んでいてもどうにもならん。せっかくだ、気分を入れ替えて残り数日を楽しむとしよう」
「氷川の言う通りだ。紫月も冰もウィーンは初めてだろうが。今後いつまた来られるか分からんからな。楽しんでいった方がいい」
「うん、そうだね」
「楚光順氏には申し訳ないが……確かに俺らが落ち込んでたって、何がどう変わるってわけでもねえもんな」
冰も紫月も旦那たちの気遣いを有り難く思うとともに、気持ちを切り替えて観光を楽しむことにしたのだった。
「観光地といやベタだが、ホーフブルクの王宮とシェーンブルン宮殿は距離的にもそう離れてねえからな。そこへ行ってみるか」
「うわぁ、素敵だね! シェーンブルン宮殿ってマリー・アントワネット様の故郷だよね?」
「そうだ。幼少期に母・マリア・テレジアと過ごした宮殿だ。一度は見ておいて損はねえぞ」
「王宮の方も見事だしな」
「お! じゃあそこらに決めるべ!」
妊っている美紅にはなるべく負担を掛けないようにと、全て一緒に回らずともいいということになり、一日は全員で――また別の日は周風夫婦と別行動ということで決まった。
そんな中、医師の鄧兄弟にとっては少々慌しい日々を強いられることとなっていた。それというのも、香港の頭領・周隼から密かに重要な任務を言い渡されたからだ。
それは周風が事件の詳細を香港へと報告した直後だった。既に深夜ではあったが、緊急ということで隼から兄弟の元へと直接の連絡が届いたのだ。
『鄧海、鄧浩、手を煩わせてすまんが、至急動いてくれ――。ドイツへ飛び、今から言う人物に会って欲しい』
隼が示した人物というのは、ドイツ国内はむろんのこと、世界的にも名の知られたクラウス・ブライトナーという若き医師であった。
「クラウス・ブライトナーといえば――つい先日、鐘崎組が警護の任務に当たったあのクラウス殿でしょうか?」
『そうだ。私は彼と直接の面識があるわけではないが、鐘崎組の僚一から伝手を得てな。鄧浩は警護の際に助力をしてくれたそうだな』
「はい、焔老板のご推薦で僭越ながら通訳に携わらせていただきました」
『そうか。ご苦労だった』
隼はその時の労を労うと、事の詳細を話してよこした。
『彼のいる病院はドイツ国内でも最新鋭の医療機器が揃っている大手中の大手だそうだ。今から言う物を用意して、二人でクラウスを訪ねて欲しい。彼には私の方から連絡を入れておく。クラウスと協力して、お前さんたち二人にやってもらいたいことがある』
その詳細を聞いた鄧兄弟は驚きに目を見張ってしまった。
だが、ボスの言うことは絶対だ。当然だが、すぐに快諾の返事をした兄弟であった。
「かしこまりました。お任せください」
『すまんな。せっかく欧州まで行ったというのに、観光のひとつもさせてやれないが――』
「とんでもございません! 私共にとってもたいへん興味深い事柄でございます。迅速にご報告ができるよう、精一杯務めさせていただきます」
『ああ、頼んだ』
リモート通話を切ると、鄧兄弟は早速に極秘任務へと移ったのだった。
「氷川の言う通りだ。紫月も冰もウィーンは初めてだろうが。今後いつまた来られるか分からんからな。楽しんでいった方がいい」
「うん、そうだね」
「楚光順氏には申し訳ないが……確かに俺らが落ち込んでたって、何がどう変わるってわけでもねえもんな」
冰も紫月も旦那たちの気遣いを有り難く思うとともに、気持ちを切り替えて観光を楽しむことにしたのだった。
「観光地といやベタだが、ホーフブルクの王宮とシェーンブルン宮殿は距離的にもそう離れてねえからな。そこへ行ってみるか」
「うわぁ、素敵だね! シェーンブルン宮殿ってマリー・アントワネット様の故郷だよね?」
「そうだ。幼少期に母・マリア・テレジアと過ごした宮殿だ。一度は見ておいて損はねえぞ」
「王宮の方も見事だしな」
「お! じゃあそこらに決めるべ!」
妊っている美紅にはなるべく負担を掛けないようにと、全て一緒に回らずともいいということになり、一日は全員で――また別の日は周風夫婦と別行動ということで決まった。
そんな中、医師の鄧兄弟にとっては少々慌しい日々を強いられることとなっていた。それというのも、香港の頭領・周隼から密かに重要な任務を言い渡されたからだ。
それは周風が事件の詳細を香港へと報告した直後だった。既に深夜ではあったが、緊急ということで隼から兄弟の元へと直接の連絡が届いたのだ。
『鄧海、鄧浩、手を煩わせてすまんが、至急動いてくれ――。ドイツへ飛び、今から言う人物に会って欲しい』
隼が示した人物というのは、ドイツ国内はむろんのこと、世界的にも名の知られたクラウス・ブライトナーという若き医師であった。
「クラウス・ブライトナーといえば――つい先日、鐘崎組が警護の任務に当たったあのクラウス殿でしょうか?」
『そうだ。私は彼と直接の面識があるわけではないが、鐘崎組の僚一から伝手を得てな。鄧浩は警護の際に助力をしてくれたそうだな』
「はい、焔老板のご推薦で僭越ながら通訳に携わらせていただきました」
『そうか。ご苦労だった』
隼はその時の労を労うと、事の詳細を話してよこした。
『彼のいる病院はドイツ国内でも最新鋭の医療機器が揃っている大手中の大手だそうだ。今から言う物を用意して、二人でクラウスを訪ねて欲しい。彼には私の方から連絡を入れておく。クラウスと協力して、お前さんたち二人にやってもらいたいことがある』
その詳細を聞いた鄧兄弟は驚きに目を見張ってしまった。
だが、ボスの言うことは絶対だ。当然だが、すぐに快諾の返事をした兄弟であった。
「かしこまりました。お任せください」
『すまんな。せっかく欧州まで行ったというのに、観光のひとつもさせてやれないが――』
「とんでもございません! 私共にとってもたいへん興味深い事柄でございます。迅速にご報告ができるよう、精一杯務めさせていただきます」
『ああ、頼んだ』
リモート通話を切ると、鄧兄弟は早速に極秘任務へと移ったのだった。
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