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ダブルトロア
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「曹先生も参加されてたんスね」
「ああ。俺は幼い頃から一生周風の下で生きていくと決めていたからな」
「そうだったんスね。俺も遼に聞きかじっただけですけど、すげえ厳しい訓練だったって。皆んなすげえな!」
そんな話をしていると、窓の外では何だか怪しい雲行きになってきたようだ。楊宇が一生懸命に交渉している素振りが窺えたが、相手は方々でバイクをふかし始めて、次第に爆音と化してゆく。威嚇と取って間違いない。
「どうやら交渉は失敗のようですね」
鄧が窓を少し開けて聞き耳を立てると、相手のリーダーらしき男が大声でこう怒鳴っているのが聞こえてきた。
「はん! 状況が変わったって言ってんのが聞こえねえか! 女から指示が来て、捕らえた連中を皆殺しにして構わねえってことになったんだ!」
相手も興奮しているのか、言語はドイツ語だ。楊宇が懸命に英語で交渉しているのも聞こえるが、実のところあまり上手く通じていない様子だ。
「敵は英語に疎いと思われますね。状況が変わったから、私たちを皆殺しにしていいと女が言ったようですよ」
「皆殺しだ? 優秦のヤツ、もしかして周風たちと会ったのか?」
先程聞いた楊宇の話によると、優秦の口利きで美紅以外の四人は救ってやるという計画のはずだった。
「では女が偶然を装って風老板たちに接触を試みたということでしょうか。それで風老板から邪険にされた」
「で、ブチ切れて俺たちもろとも葬ろうってか?」
相変わらずに馬鹿な女だと曹は苦笑いだ。優秦のような輩では、例え紫月でも改心に導くことは難しいかも知れない。
「……ったく! とことん腐っていやがるな。あれが楚光順の娘だとは思えん出来の悪さだ」
父の光順は温厚で賢く、忠義にも厚く人望も高い人物だというのに、娘は正反対の極悪非道者だ。
「本当の娘じゃないんじゃねえかと疑いたくもなるってくらいの代物だな」
「確かに。楚大人はもしかしたら甘やかして育ててしまわれたのかも知れませんが、医者の興味としては一度DNA鑑定で本当の親娘かどうか確かめたくもなるってものです」
「全くだ!」
と、いよいよ笑っていられる猶予はなさそうだ。交渉に出向いていた楊宇が血相を変えてこちらへと逃げ帰って来た。その後を面白がるようにバイクの集団が追い掛け回している。
「よっしゃ! こっちも始めっとすっか!」
先ずは紫月が日本刀を携えて楊宇の加勢へと走り出していく。
「ライ、バイクから引き摺り下ろした男たちの処理は私が引き受けます。あなたは紫月君が動きやすように集中してください!」
「了解! 任せたぞ! なにが何でも奥方たちのいる隣の棟には近付けさせるな! ここで食い止めるんだ!」
「承知!」
キラりと二人の瞳が鈍色を讃えて据わる。普段は温厚な鄧の視線も今や獲物を狩る野生動物の如く鋭さを増していく。多勢に無勢、一同は乾坤一擲の戦へと肝を据えるのだった。
「ああ。俺は幼い頃から一生周風の下で生きていくと決めていたからな」
「そうだったんスね。俺も遼に聞きかじっただけですけど、すげえ厳しい訓練だったって。皆んなすげえな!」
そんな話をしていると、窓の外では何だか怪しい雲行きになってきたようだ。楊宇が一生懸命に交渉している素振りが窺えたが、相手は方々でバイクをふかし始めて、次第に爆音と化してゆく。威嚇と取って間違いない。
「どうやら交渉は失敗のようですね」
鄧が窓を少し開けて聞き耳を立てると、相手のリーダーらしき男が大声でこう怒鳴っているのが聞こえてきた。
「はん! 状況が変わったって言ってんのが聞こえねえか! 女から指示が来て、捕らえた連中を皆殺しにして構わねえってことになったんだ!」
相手も興奮しているのか、言語はドイツ語だ。楊宇が懸命に英語で交渉しているのも聞こえるが、実のところあまり上手く通じていない様子だ。
「敵は英語に疎いと思われますね。状況が変わったから、私たちを皆殺しにしていいと女が言ったようですよ」
「皆殺しだ? 優秦のヤツ、もしかして周風たちと会ったのか?」
先程聞いた楊宇の話によると、優秦の口利きで美紅以外の四人は救ってやるという計画のはずだった。
「では女が偶然を装って風老板たちに接触を試みたということでしょうか。それで風老板から邪険にされた」
「で、ブチ切れて俺たちもろとも葬ろうってか?」
相変わらずに馬鹿な女だと曹は苦笑いだ。優秦のような輩では、例え紫月でも改心に導くことは難しいかも知れない。
「……ったく! とことん腐っていやがるな。あれが楚光順の娘だとは思えん出来の悪さだ」
父の光順は温厚で賢く、忠義にも厚く人望も高い人物だというのに、娘は正反対の極悪非道者だ。
「本当の娘じゃないんじゃねえかと疑いたくもなるってくらいの代物だな」
「確かに。楚大人はもしかしたら甘やかして育ててしまわれたのかも知れませんが、医者の興味としては一度DNA鑑定で本当の親娘かどうか確かめたくもなるってものです」
「全くだ!」
と、いよいよ笑っていられる猶予はなさそうだ。交渉に出向いていた楊宇が血相を変えてこちらへと逃げ帰って来た。その後を面白がるようにバイクの集団が追い掛け回している。
「よっしゃ! こっちも始めっとすっか!」
先ずは紫月が日本刀を携えて楊宇の加勢へと走り出していく。
「ライ、バイクから引き摺り下ろした男たちの処理は私が引き受けます。あなたは紫月君が動きやすように集中してください!」
「了解! 任せたぞ! なにが何でも奥方たちのいる隣の棟には近付けさせるな! ここで食い止めるんだ!」
「承知!」
キラりと二人の瞳が鈍色を讃えて据わる。普段は温厚な鄧の視線も今や獲物を狩る野生動物の如く鋭さを増していく。多勢に無勢、一同は乾坤一擲の戦へと肝を据えるのだった。
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