極道恋事情

一園木蓮

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ダブルトロア

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「あのぅ……トイレに行かせてください!」
 冰はまず広東語ですがるようにそう言った。
「なんて言ってんだ、このガキ?」
「分かるわけねえだろが! 中国語か?」
 やはり男たちには言葉が通じないようだ。そこで冰はすかさず片言英語を繰り出した。
「トイレット! あーいや、バスルーム? オア メンズルーム? プリーズプリーズ! トイレットプリーズ!」
 今度は今にも漏れそうだと泣き出さん勢いですがる。囚われている恐怖以前に自然現象の方が重要だという必死の態度が功を奏したわけか、男たちは呆れ顔で笑い出した。
「なんだ、ションベンかよ!」
「脅かすな……。しゃーない、連れてってやるわ」
 二人は冰の肩を掴み上げて立たせると、他の三人が眠っていることを確かめんと足先で突いて確認した後、
「こいつらはまだ起きそうもねえな。念の為だ、お前見張っててくれ」
 ホッとしたようにして一人が冰をトイレへと引きずっていった。
「サンキュー! サンキューベルマッチ! トイレット、サンキュー!」
 こんな時でも冰の度胸と演技力は大したものである。ほとほと情けない優男を装いながら、トイレに行かせてもらえて有難いといったように涙目で礼を述べる。男の方も苦笑いだ。
「分かった分かった! いいからそうギャアギャア騒ぐな」
 男は冰を引きずりながらトイレまで足早に連れて行った。
「ほらよ! さっさとしな」
 ドアを開けてくれたものの、後ろ手に縛られていては用を足せない。
「プリーズファスナー! マイファスナー、ダウンダウン! ジッパーダウン!」
 冰がズボンを見ながら必死に訴える。
「ハァ? 俺にズボンを下ろせってか?」
 『うんうん!』と大袈裟に首を縦に振っては仔犬のような顔付きをする。男は呆れたように眉を吊り上げたものの、確かにこのままでは手助けが必要と思ったのだろう。
「チッ! しゃーねえなー。ちょっとこっち向け」
 男がズボンを下ろしてやろうと屈み掛けた時だった。ドカッと鳩尾目掛けて蹴り上げた。冰は元々武術の方はからっきしだが、最近では紫月の実家の道場で稽古をつけてもらっていることもあり、早速に修行が役立ったわけである。その直後、背後をつけて来た紫月が打ち合わせ通りに男へと襲い掛かり、足蹴りだけで彼をその場に沈めてみせた。
 もう一人の見張りの方もこれ当然か、曹と鄧で無事に仕留め終えていた。まずはひと段落成功である。
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