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ダブルトロア
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「……何をおっしゃるのです……。私は周風の妻なのですよ? 他の殿方のものになるわけには参りません」
「は! 随分とはっきり断ってくれるじゃねえか。アンタだってみすみす死にたくはねえだろうが。俺ならアンタを助けられる。嬢さんには始末したってことにして、二人でどこか外国へ行って暮らせばいい」
「優秦さんを裏切るとおっしゃるの?」
「そうだ。どうせアンタは死んだことになるわけだから、風老板の元へ帰らずとも不思議には思われねえだろうが」
男は『アンタのことを気に入っている。是非とも自分のものにしたい』と言った。
美紅はしばし押し黙ってしまったが、考えた末に自分の素直な気持ちのみを伝えてみることにした。
「私を助けてくださるというあなたのお気持ちは有り難く思いますわ。ですが、私は周風の妻です。主人を裏切ることはできません」
「はん! 強情な女だなぁ。だったら本当に殺されても構わないってのか?」
男がわずか苛立ちを見せる。
「ひとつうかがってもよろしいかしら?」
「……なんだ」
「あなたはもしかして優秦さんのことをお慕いされていらっしゃいますの?」
「は――!? 俺が嬢さんをだって?」
男は呆れ顔をしてみせたが、美紅にとっては毎度このような悪事に加担するくらいだから、この男は優秦に心を寄せているのではないかと思ったわけだ。
ところがどうもそうではないらしい。男は苦笑も苦笑、吐き捨てるように否定してみせた。
「冗談じゃねえぜ! 誰があんな跳ねっ返りの性悪なんざ好きになるもんか! 想像しただけで悪寒が走るね」
男曰く、彼女に加担しているのは単に金の為らしい。
「そう……。では、あなたにはお心に決めた女性はいらっしゃらないんですの?」
つまり、好きな相手はいないのかと訊いたのだ。
「心に決めた女だ? そんなもんはいねえな。強いて言うならアンタってところかな」
ニヤっと薄ら笑いながら言う。
「私……? 私を好いてくださっているとおっしゃるの?」
「好いてもなにも……アンタはイイ女だし、殺すにゃ惜しいってだけのことよ。大概の男ならアンタのような女を好きにしたいと思うだろうが」
「……惜しいと思ってくださるのは嬉しいわ。でも私を連れて逃げてもいずれあなたのご迷惑になると思います」
「は? どう迷惑になるってんだ。まさか風老板が俺たちの居所を突き止めて、助けに来てくれるとでも思ってるってか?」
「いえ、そうではありませんわ。実は私……お腹に赤ちゃんがいますの。主人の子供ですわ。せっかく授かった命です。産みたいと思いますわ」
さすがに驚いたのか、男はわずか眉根を寄せた。
「赤ん坊がいるだと? は……、風老板も酷えお人だな。身重の女房を飛行機に乗せて長旅に連れ出したってのかよ」
香港からは飛行時間も短くはない。妊っているというのなら、大事をとって留守番させるべきだと思うのだろう。だが美紅はそうではないと首を横に振った。
「赤ちゃんがいると分かったのはこちらに着いてからでしたの。私ももしかしたらと思ってはいたんですが、出掛ける前までは確信が持てなくて……」
「……風老板はそのことを知っているのか?」
「は! 随分とはっきり断ってくれるじゃねえか。アンタだってみすみす死にたくはねえだろうが。俺ならアンタを助けられる。嬢さんには始末したってことにして、二人でどこか外国へ行って暮らせばいい」
「優秦さんを裏切るとおっしゃるの?」
「そうだ。どうせアンタは死んだことになるわけだから、風老板の元へ帰らずとも不思議には思われねえだろうが」
男は『アンタのことを気に入っている。是非とも自分のものにしたい』と言った。
美紅はしばし押し黙ってしまったが、考えた末に自分の素直な気持ちのみを伝えてみることにした。
「私を助けてくださるというあなたのお気持ちは有り難く思いますわ。ですが、私は周風の妻です。主人を裏切ることはできません」
「はん! 強情な女だなぁ。だったら本当に殺されても構わないってのか?」
男がわずか苛立ちを見せる。
「ひとつうかがってもよろしいかしら?」
「……なんだ」
「あなたはもしかして優秦さんのことをお慕いされていらっしゃいますの?」
「は――!? 俺が嬢さんをだって?」
男は呆れ顔をしてみせたが、美紅にとっては毎度このような悪事に加担するくらいだから、この男は優秦に心を寄せているのではないかと思ったわけだ。
ところがどうもそうではないらしい。男は苦笑も苦笑、吐き捨てるように否定してみせた。
「冗談じゃねえぜ! 誰があんな跳ねっ返りの性悪なんざ好きになるもんか! 想像しただけで悪寒が走るね」
男曰く、彼女に加担しているのは単に金の為らしい。
「そう……。では、あなたにはお心に決めた女性はいらっしゃらないんですの?」
つまり、好きな相手はいないのかと訊いたのだ。
「心に決めた女だ? そんなもんはいねえな。強いて言うならアンタってところかな」
ニヤっと薄ら笑いながら言う。
「私……? 私を好いてくださっているとおっしゃるの?」
「好いてもなにも……アンタはイイ女だし、殺すにゃ惜しいってだけのことよ。大概の男ならアンタのような女を好きにしたいと思うだろうが」
「……惜しいと思ってくださるのは嬉しいわ。でも私を連れて逃げてもいずれあなたのご迷惑になると思います」
「は? どう迷惑になるってんだ。まさか風老板が俺たちの居所を突き止めて、助けに来てくれるとでも思ってるってか?」
「いえ、そうではありませんわ。実は私……お腹に赤ちゃんがいますの。主人の子供ですわ。せっかく授かった命です。産みたいと思いますわ」
さすがに驚いたのか、男はわずか眉根を寄せた。
「赤ん坊がいるだと? は……、風老板も酷えお人だな。身重の女房を飛行機に乗せて長旅に連れ出したってのかよ」
香港からは飛行時間も短くはない。妊っているというのなら、大事をとって留守番させるべきだと思うのだろう。だが美紅はそうではないと首を横に振った。
「赤ちゃんがいると分かったのはこちらに着いてからでしたの。私ももしかしたらと思ってはいたんですが、出掛ける前までは確信が持てなくて……」
「……風老板はそのことを知っているのか?」
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