極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
794 / 1,212
ダブルトロア

しおりを挟む
「テレビで観たまんまだね!」
「な! すっげオシャレ!」
 午後の陽射しがたっぷりと降り注ぎ、街路樹をキラキラと照らしているのが美しい。しばし景色を堪能していると、金髪のウェイターがメニューを運んできた。黒の蝶タイにエプロン姿が映画さながらだ。そんなところもヨーロッパ情緒にあふれていて、初めて訪れる冰は見るものすべてに感激といった面持ちでいた。紫月の方は早速ご当地のケーキに夢中だ。
「ウィーンといえばこれだべ! ザッハトルテ!」
「ですね! ザッハトルテはお土産にも買って帰りたいと思っているんですよー。まずは味見ですね!」
 甘味大魔王の紫月が冰と一緒にワクワク顔でメニューにかじりついている。その脇で周と鐘崎ら男四人はソーセージとビールをチョイスするようだ。難しいドイツ語のメニュー表も鄧が居れば困ることもない。
「それはそうと、オペラのチケットを取っておいた。場所はウィーン国立歌劇場だ」
「うわぁ! ありがとう白龍」
「鄧とライさんが一緒に行ってくれることになってる。ボックス席だから身内だけでゆっくり楽しめるぞ」
「じゃあお席には俺たちだけってこと? そんなすごいところで観せてもらえるなんて!」
「めちゃくちゃビップ待遇じゃん! やったな、冰君!」
「はい! 楽しみですね!」
 冰と紫月は大喜びだ。今回、周が取ってくれたのは二階中央にあるミッテルロジェといわれる大型ボックス席のすぐ隣だ。ミッテルロジェは舞台を望む景観も音響も最高に素晴らしいとされているが、三十人以上が入れる大型ボックスなので、さすがに五人だけで占領するのは申し訳なかろう。そのすぐ脇の席は七人用のボックスなので、ちょうど良かろうと、そこを確保してくれたそうだ。観劇は兄嫁の美紅も含めて嫁組の三人と、そのお守り役として曹来と鄧浩の計五人で行く予定だ。
「白龍たちは業者さんたちとディナーなんだよね?」
「ああ。お前たちの観劇が終わる頃には俺たちもホテルに戻れるだろう。楽しんで来い」
「悪いね、俺たちばっかり」
「そんなことは気にするな。劇そのものもだが、劇場の建物が素晴らしいからな。それを見るだけでも楽しめるだろうぜ」
 ビールを片手にニヒルに笑う周の横顔がなんともいえずにクールでスマートだ。今は冬の真っ只中だから、なめらかなカシミアのコートが長身の彼にとても良く似合っていてドキドキとさせられてしまう。
「白龍ってばさ、何処にいても格好いいっていうか……そのコートもすごく良く似合ってるし」
「コートじゃなくてこのマフラーな!」
 周は一昨年のクリスマスプレゼントとして冰が贈ったマフラーをしてきてくれていた。もちろん冰も気付いていたが、忘れずに身につけてくれていることが何より嬉しくて堪らなかったのだ。
「ありがとうね白龍。こんな素敵な旅行に連れて来てもらって、それにマフラーも……」
 頬を染めてモジモジとしている様子がなんとも可愛らしい。周は華奢な肩を抱き寄せて、クシャクシャっと頭を撫でたのだった。



◇    ◇    ◇


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】

NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生 SNSを開設すれば即10万人フォロワー。 町を歩けばスカウトの嵐。 超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。 そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。 愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...