極道恋事情

一園木蓮

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身代わりの罠

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 駐車場の通用口では周がその様子を見つめながらホッと胸を撫で下ろしていた。そこへ血相を変えた鐘崎が駆け付けて来て、焦燥感いっぱいといった顔つきで息を切らしながら訊く。
「氷川ッ……! 紫月は……!?」
 周は無言のままニッと笑むと、視線だけで駐車場の真ん中を指した。そこには袴姿の紫月がメビィの頭を撫でながら微笑んでいる様子が窺えた。彼女の方では涙を拭うような仕草が見てとれる。
「あいつ……やはり……あの女を助けに来たってわけか」
 鐘崎も二人の無事な姿に安堵してか、ホッと胸を撫で下ろす。
「一之宮は本当に大した男だな。俺の出る幕なんざこれっぽっちも残ってなかったぜ」
 周は笑うと、犯人たちをたった一人で片付けた挙句、見ての通りメビィのことまで改心させてしまった紫月を讃えた。
 鐘崎にしても思うところは一緒である。
 そういえばこれまでにも紫月は本当に大きな心で様々なことを受け止めてくれた。三崎財閥の娘・繭が鐘崎に恋心を抱き、突拍子もない事件を企てた時もそうだった。繭を責めることもなく真っ直ぐに向き合って彼女を改心させてしまった。
 また、今は立派に一国一城の主となったクラブ・フォレストの里恵子の件も然りだ。恋人の森崎瑛二に裏切られ、自暴自棄になって鐘崎の子供を産みたいなどと言い、唐静雨らと一緒になって罠に嵌めた里恵子を諭し、立派に彼女の進むべき道へと軌道を導いた。
 そんな厄介な女たちに対しても恨むことや詰ることをせず、真心で向き合って解決してくれたのだ。もちろん、夫である鐘崎のことを責めることもなく、大いなる愛情ですべてを受け止めてくれた。
 そして今もまた、自分の亭主に不埒な罠を掛けようとした女を恨むどころか救い出して、おそらくは繭や里恵子の時と同じように真心で向き合い、改心させてしまったのだろう。
 鐘崎はそんな彼がどれだけ尊い存在かと思うと、震える全身を抑えることができなかった。思わず熱くなった目頭を押さえながらも、ようやくの思いで尊きその名を口にしたのだった。
「紫月……!」
「お、遼! 氷川も。ちょうど良かった、あいつら一応峰打ちしたけど、目ぇ覚ます前にふん縛らねえと」
 クリクリと大きな瞳を輝かせながら笑う彼を渾身の思いで抱き締めた。
「紫月……すまねえ。本当に……」
 紫月を抱き締める鐘崎の腕は小刻みに震えていて、言葉にせずとも彼が今どんな思いでいるのかが分かるようだった。肌でそれを感じ取ったメビィは、改めて二人に深々と頭を下げ、心からの謝罪をしたのだった。

「ごめんなさい……。本当に……ごめんなさい!」

 アタシ、自分がどれだけ浅はかだったか思い知りました……!

 そんなメビィの姿に、鐘崎と紫月もまた胸を撫で下ろすのだった。

 その後、周の後を追って来た李らによって犯人たちはしっかりとお縄をくれられ、到着した警視庁へと引き渡された。
 クラウス・ブライトナーも無事で、怪我のひとつも負わせずに前夜祭を終えることができた。捕まった殺し屋集団からクラウスの研究と命を狙っていた黒幕も割れて、会合当日は無事に発表へと漕ぎ着けたのだった。



◇    ◇    ◇


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