極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
781 / 1,212
身代わりの罠

26

しおりを挟む
 すぐに後部座席へと向かい、女の無事を確かめる。
「お! 良かった。無事だな」

 ――――!?

「あなた……」
 座席の上で猿ぐつわを外されたメビィは、驚きに瞳を見開いた。なんと男は鐘崎の伴侶である紫月だったからだ。
「……どうしてあなたが」
「アンタが連れ去られるところを目にしたんでね。それより怪我はねえか?」
「……どうして……ウチのチームは何処?」
「さあ? アンタのお仲間は行方を見失っちまったのかもな」
「……どうしてアタシを……?」
 
 アタシはあなたから鐘崎遼二を奪おうと企んだ女よ? それなのに何故助けたりするの?

 元々メビィの警護に鐘崎組は携わらないと言われていたのにどうしてと、女は戸惑い顔でいる。
「どうしてもこうしてもねえ。気がついた者が仲間を助けるのは当たり前だろうが」
 ニッと笑いながら言う紫月の笑顔があまりにも爽やかで、メビィは言葉を失ってしまった。
「仲間って……あなた、アタシを恨んでないの……? アタシはあなたたちを嵌めた女よ? あなたのご主人である遼二さんを……奪い取ろうとした女よ?」
 そんな相手を助けに来るなど理解できないといった表情でいる。
「ま、正直あんな写真をバラ撒かれたことは歓迎できねえけどな。それとこれとは別だろ? 俺たちは今、クラウス・ブライトナーを守るっていう同じ任務を背負った仲間だ。その仲間に何かあれば協力すんのは当然だべ?」
「あ……なた……」
「ほれ、突っ立ってねえで行くぜ! あいつらが意識を取り戻す前にしっかりお縄をくれなきゃいけねえ。アンタのチームも心配してるはずだ」
 峰打ちで倒した男たちを見やる紫月に手を取られてメビィは堪え切れずにみるみると瞳に涙を浮かべた。
「どう……してそんなふうにしてくれるの? こんな……こんな女に……あなたは何故……」
 今頃になって手篭めにされ掛かった恐怖が実感となって身体が震え出す。もしもこの紫月が助けに駆け付けてくれなかったらと思うと、確実に被害に遭っていただろう想像が頭の中に浮かんできてはガタガタと膝が笑い出す。情けなさと恐怖とですっかり涙を抑えることもできずに、メビィはしゃくり上げるようにして泣き出してしまった。
「おいおい……どうした。どっか痛めたか?」
 見たところ外傷らしきは見当たらないが、もしかしたら腹などを殴られたりして怪我でも負ったのかと思い、そう訊いた。
「……っう……違……うの、もしあなたが来てくれなかったらアタシ……あの人たちに……」
 肩を縮めて全身を震わせる。その様子で、怪我からくる痛みではないと悟った。今になって緊張の糸が切れて、それと同時に恐怖心が襲ってきたのかも知れない。そう思った紫月は穏やかな口調で言った。
「――そっか。怖かったよな。だがもう大丈夫だ」
 彼女を怖がらせないようにと気遣いながらそっと頭を撫でる。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

処理中です...