極道恋事情

一園木蓮

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身代わりの罠

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 数分ほど後、僚一らや周、鐘崎組の若い衆らによって敵が差し向けたと思われる殺し屋集団はすべて確保することに成功した。気絶させたりお縄にした彼らを会場の端に取り押さえて警視庁の到着を待つ。と、そこで一件落着に胸を撫で下ろした鐘崎が、紫月の姿が見えないことに気付いた。よくよく見ると周もいない。
「……あいつら、何処に行きやがった……」
「まさか――メビィを助けに向かったんじゃあるまいな」
「あの女をだと――!? 何故……」
 鐘崎は蒼白となった。紫月のことだから例え自分の亭主を罠に掛けたような女であっても、一応は敵に連れ去られたものを黙って見過ごすことができなかったわけだろうか。周の姿も見えないことから、紫月を追ったと思われる。
「クソ……ッ! 氷川がついてりゃ大丈夫だとは思うが……。すまねえ親父! あとを任せる」
 鐘崎は即座に会場を後にし、紫月らの行方を捜しにかかった。



◇    ◇    ◇



 その頃、紫月の方では鐘崎の予想した通り、連れ去られたメビィの後を追っていた。クラウスらが襲われた際、舞台上にいた紫月からは彼女が連れ去られるのがはっきりと確認できたのだ。
「……参ったね、どこ行きやがった……。ヤツらが夫人を人質にとるとしたら先ずはこのホテルから離れるはずだ。ってことは……駐車場か」
 紫月は全力で駐車場へと向かった。少し遅れて周も紫月の背中を追い掛ける。
 一方、メビィの方でも拉致犯の男たちと一悶着交えていた。
 いかにか弱い女といえど、そこは裏の世界に身を置くエージェントだ。普通の女性よりは体術にも長けているし、まんまと連れ去られるわけにはいかない。メビィは懸命に男たちと死闘を繰り返していた。
 だが男たちは三人。待機していた運転手も入れれば四人だ。夜間の立体駐車場にはそう都合よく人影も見当たらない。
「……ッ! いったいウチのチームは何してるっていうのよ!」
 どういうわけか彼女の警護を担当していたはずのチームの面々が見当たらない。連れ去られたこと自体に気付いていないのか、助けが来る様子がまったくないのだ。
 さすがに大の男、それもプロの殺し屋集団が相手ではメビィに勝機は望めない。ついぞ捕えられてしまい、猿ぐつわを噛まされてしまった。
「んー、んー!」
 離してと叫ぼうにも声が出せない。そんな中、男の一人が替え玉の正体に気付いてしまったようだった。
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