769 / 1,212
身代わりの罠
14
しおりを挟む
「ここは……? まさかあのまま寝ちまったのか」
鐘崎にしては有り得ない話だ。いくら疲れていたとしても、任務の最中に眠り込んでしまうことなどないからだ。状況が掴めずにいると、隣の寝室からメビィがやって来た。
「あら、遼二さん。お目覚めになった?」
見ればガウン姿だ。ということは彼女も今起きたところというわけか。
「俺はいったい……」
「昨夜ルームサービスを召し上がった後にそこで寝てしまわれたのよ。一応毛布だけ掛けて差し上げたんだけど、風邪を引かなかったかしら?」
「……あんたがこれを?」
毛布をじっと見やりながらも失態という表情で眉をしかめている。
「きっと疲れていらしたのね。ああ、あなたの組事務所には連絡を入れておいたからご心配なさらないで。幹部の清水さんっておっしゃる方が出られて、敵の監視係を引きつける為に今夜はここでお泊まりいただくからって説明しておいたわ。遼二さんは手が離せないからアタシが代わりに連絡を入れたとお伝えしたら納得してくださったわよ」
「……清水が。そうか……すまない。世話を掛けた」
何故、任務中に眠ってしまったのか、鐘崎は半信半疑の様子でいたが、昨夜開いたシャツの襟も元通りにしておいたことだしとメビィは何事もなかったかのように微笑を浮かべている。
「あなたが寝てしまってからもアタシのチームが敵を見張っていたけど、深夜頃には撤収したっていうことだったわ。残業の甲斐があったわね」
しれっと真っ当なような台詞を言ってのける。昨夜、対面のビルにいた人影は敵の監視役でも何でもなく、鐘崎を陥れる為のメビィの仲間だったなどとは口が裂けても言うわけがない。何も知らないのは鐘崎ばかりであった。
◇ ◇ ◇
一方、汐留の周の社長室では、出勤した李が珍しくも焦った様子で驚きの声を上げていた。
「これは……! 老板、ご覧ください。少々大変なものを発見いたしました……」
李の日課は出社後すぐに裏の世界の情勢を把握する為に独自のデータベースにあるニュース掲示板をチェックすることである。今日もいつも通りにパソコンを覗いたところ、驚愕といえる画像が視界に飛び込んできたのだ。
すぐさま主人の周に報告を入れる。すると周と冰が揃って李のかじりついているパソコンを覗き込みにやって来た。
「……!? 何だ、これは」
「わ……ッ! これ……まさか鐘崎さん!? ですよね?」
「ああ……」
「で、でも髪の色が違うし……」
映っているのは明らかに鐘崎だと思えるのだが、信じたくないという思いからか、冰は別人ではないかと不安げに周を見つめる。
「ヤツは今、身代わりの任務中だからな。その人物になりきる為に髪を染めているんだ。間違いなくカネだ……」
覗き込んだ画面には鐘崎が下着姿の女とソファの上で抱き合っている画像が数枚映し出されていたのだ。冰などは見てはいけないものを見てしまったというようにして、咄嗟に手で顔を覆ってしまったほどだ。
鐘崎にしては有り得ない話だ。いくら疲れていたとしても、任務の最中に眠り込んでしまうことなどないからだ。状況が掴めずにいると、隣の寝室からメビィがやって来た。
「あら、遼二さん。お目覚めになった?」
見ればガウン姿だ。ということは彼女も今起きたところというわけか。
「俺はいったい……」
「昨夜ルームサービスを召し上がった後にそこで寝てしまわれたのよ。一応毛布だけ掛けて差し上げたんだけど、風邪を引かなかったかしら?」
「……あんたがこれを?」
毛布をじっと見やりながらも失態という表情で眉をしかめている。
「きっと疲れていらしたのね。ああ、あなたの組事務所には連絡を入れておいたからご心配なさらないで。幹部の清水さんっておっしゃる方が出られて、敵の監視係を引きつける為に今夜はここでお泊まりいただくからって説明しておいたわ。遼二さんは手が離せないからアタシが代わりに連絡を入れたとお伝えしたら納得してくださったわよ」
「……清水が。そうか……すまない。世話を掛けた」
何故、任務中に眠ってしまったのか、鐘崎は半信半疑の様子でいたが、昨夜開いたシャツの襟も元通りにしておいたことだしとメビィは何事もなかったかのように微笑を浮かべている。
「あなたが寝てしまってからもアタシのチームが敵を見張っていたけど、深夜頃には撤収したっていうことだったわ。残業の甲斐があったわね」
しれっと真っ当なような台詞を言ってのける。昨夜、対面のビルにいた人影は敵の監視役でも何でもなく、鐘崎を陥れる為のメビィの仲間だったなどとは口が裂けても言うわけがない。何も知らないのは鐘崎ばかりであった。
◇ ◇ ◇
一方、汐留の周の社長室では、出勤した李が珍しくも焦った様子で驚きの声を上げていた。
「これは……! 老板、ご覧ください。少々大変なものを発見いたしました……」
李の日課は出社後すぐに裏の世界の情勢を把握する為に独自のデータベースにあるニュース掲示板をチェックすることである。今日もいつも通りにパソコンを覗いたところ、驚愕といえる画像が視界に飛び込んできたのだ。
すぐさま主人の周に報告を入れる。すると周と冰が揃って李のかじりついているパソコンを覗き込みにやって来た。
「……!? 何だ、これは」
「わ……ッ! これ……まさか鐘崎さん!? ですよね?」
「ああ……」
「で、でも髪の色が違うし……」
映っているのは明らかに鐘崎だと思えるのだが、信じたくないという思いからか、冰は別人ではないかと不安げに周を見つめる。
「ヤツは今、身代わりの任務中だからな。その人物になりきる為に髪を染めているんだ。間違いなくカネだ……」
覗き込んだ画面には鐘崎が下着姿の女とソファの上で抱き合っている画像が数枚映し出されていたのだ。冰などは見てはいけないものを見てしまったというようにして、咄嗟に手で顔を覆ってしまったほどだ。
11
お気に入りに追加
867
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる