極道恋事情

一園木蓮

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身代わりの罠

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 深夜近くになった頃、風呂を上がったメビィは特別室で少々苛立ちながら通話中であった。相手は彼女が所属するエージェントチームの取りまとめ役、つまりヘッドである。
『どうだ。上手くいきそうか?』
 通話の向こうで男が訊く。
「なんとかやってるけど……今のところはまだどうにも。とにかく堅物過ぎて話にならないわ。このアタシが一生懸命色気を使ってあげてるっていうのに、あの人ときたら! 自分の奥さんにゾッコンだかなんだか知らないけど、付け入る隙もありゃしないんだから!」
『ほう? お前相手でも靡かねえってか? やはり鐘崎一族、一筋縄じゃいかんか』
「感心してる場合じゃないわよ! こうなったら仕方ない。ちょっと強引だけどプラン・ブラボーでいくしかないわね。あなたたちの協力が必要よ」
『おいおい、まだ二日目だってのにもうプラン・ブラボーかよ』
 一番目の作戦――プラン――の名はアルファ、つまりメビィが鐘崎にスキンシップを繰り返すことによって興味を引こうという予定だった。それで靡かないのならば次は二番目の作戦、プラン・ブラボーを発動したいという意味だ。
「まだですって? もう二日目よ! ブライトナー夫妻の滞在日程は一週間しかないのよ。悠長にしてる場合じゃないでしょ!」
『それもそうだ。まあこっちの方はいつでもいけるがな』
「鐘崎遼二の声は編集できてるわね? 明日は病院の視察だから、帰って来てから決行してくれる? 何とか理由をつけてアタシがあの人を引き留めるわ」
『了解だ。お前の部屋を見渡せる位置にカメラマンを配置しておく。他に必要な物があれば言ってくれ』
「今のところ無いわ。遼二を眠らせる睡眠薬はアタシの方で用意してある。あとは上手く珈琲にでも混ぜて飲ませてしまえばオーケーよ。それより画像と音声の編集を急いでちょうだいね! 明後日の朝には裏の世界の共有データベースに載せられないと意味ないわ。明々後日はもう会合の前夜祭だもの。それまでには何がなんでも遼二を落とさなきゃ」
 通話を終えるとメビィは舌打ちながらも溜め息をついた。
「まったく……! このアタシに興味を示さないなんてどういう男かしら! ちょっと男前だからってお高くとまっちゃってさ! 嫁に惚れてるかなんか知らないけど、所詮は男じゃないの!」
 鐘崎遼二がゲイだという情報は得ていなかった。結婚した相手がたまたま男だったというだけで、鐘崎が通常そういった嗜好の持ち主だとは聞いていない。裏の世界のデータベースで検索しても彼がゲイだとは思われていないようだ。
「いったいどんな嫁なんだか! 相手は一之宮紫月とかいったわね。データベースに顔は載っていなかった……。ということは、あの遼二が細工して奥さんの情報を公開していないっていうことかしら。そんなに大事だっていうわけ?」
 おそらくは自分の嫁が余計な厄介事に巻き込まれないようにと、わざわざ非公開にしているといったところだろうか。
「紫月だかなんだか知らないけど、嫁気取りしていられるのも今の内だけよ! 鐘崎遼二を落として公私共にこのアタシがパートナーの座を奪ってやるわ。そうすれば鐘崎組と強大な縁ができるし、ウチのチームの裏社会での立場も安泰になる」
 裏の世界での立場も強くなり、ますますいい思いができる。クラウス・ブライトナー夫妻警護という任務の陰にそんな思惑が潜んでいるなどとは、この時の鐘崎はもちろん、長の僚一でさえ思いもよらないといったところであった。
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