極道恋事情

一園木蓮

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カウント・ダウンを南国バカンスで

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「まあ一緒にメシ食うくれえならな。相手はクラスの連中だし、そうそう危ねえこともねえ。絶賛はしねえが、ヘソを曲げるまでのことでもねえと思ってたんだろう。だがそういや一度だけすげえことがあったな。ありゃ確か他校の野郎が繁華街のクラブに誘ってきた時だ」
 冰はますます興味津々で身を乗り出してしまった。鐘崎は普段から独占欲が強いと自分でも認めているようなところがあるし、傍で見ていても紫月のこととなると無我夢中というのが分かるくらいだ。そんな彼がどのように嫉妬を態度に表すのだろうと思うと興味を引かれずにはいられない。
「なんでもダンスパーティーがあるから一緒に行かねえかとかで他校の男連中が誘ってきてな。夜だっていうし、場所も都内で、行ったこともねえ繁華街だ。一之宮自身は乗り気じゃなかったし、だがあのフレンドリーな性格だから上手く断れなくて困ってた時だった。それまで黙って様子を窺ってたカネがいきなり首を突っ込んでな。そん時に言った台詞がまたすごかった」
「ど、どんなこと言ったの?」
「例によって顔色ひとつ変えずにだな、『タマ取られたくなかったら散れ』っつって、顎で蹴散らしたんだ」
「タ、タマって命のことだよね? ふぇえ……すごい」
「カネは元々愛想のある方じゃねえから笑いもしねえし、ものすげえ仏頂面でな。まあ相手の男らもどっちか言ったら不良っぽい連中だったから、最初は突っかかってきてたがな。そのひと言で一気に諦めたんだ。なにせそん時のカネのオーラがすごくてな。背中に般若の光背でも背負ってんじゃねえかってくれえの勢いだったからな」
 普段は極力見せないようにしている裏の世界の本気をもろに出した威嚇に、粋がっているだけの高校生の不良連中が敵うわけもなく、飛んで逃げるように散っていったという。
「それ以来一之宮にヘンなちょっかい掛けてくるヤツらはいなくなったってわけだ」
「ほぇえ……すごい」
「そういやあのすぐ後だったな、一之宮に少し余裕が見られるようになったのは」
「余裕?」
 周の言うにはまだその続きがあったそうだ。他校の輩を蹴散らした直後のことだ。
『あ……のさ、断ってくれてサンキュな』
 モジモジと視線を逸らしながらも頬を真っ赤に染めて紫月がそう言ったそうだ。
『けど、あいつら完全にビビってたわな。なんもあそこまで脅さなくたって、もうちょい愛想のいい断り方でもいいと思うんだけどよぉ』
 照れ隠しの為か紫月が放ったひと言に、鐘崎の方は大真面目な顔付きでこう返したという。
『愛想なんざ遣う必要はねえ。あの野郎共、どう見たって下心丸出しだったろうが。金かヤクか、下手すりゃおめえ自身の身体が目当てか。そんなニオイがプンプンしてやがった。俺ァ、おめえに手出すヤツには例え相手が誰だろうと容赦しねえ。万が一おめえに不埒なことなんざされようもんなら、俺は修羅にも夜叉にも平気でなるぞ』
『修羅ってお前……』
『俺は本気だ』
 鐘崎はそう言うと、そそくさと早足で歩き出し、結局家へ着くまで黙ったまま紫月に背中を見せていたそうだ。
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