極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
749 / 1,212
カウント・ダウンを南国バカンスで

10

しおりを挟む
「あの頃からカネは引き手数多だったからな。俺たちは男子校だったが、近くの高校の女たちがひっきりなしに寄って来てたもんだ。一之宮は表向きは何とも思ってねえってな態度ではいたが、心の中じゃ悩みはあったと思うぜ。いつも笑顔でな、『おモテになって結構なことだ』なんて言ってはいたが、俺にはその笑顔が寂しそうに思えてならなかった」
 冰は驚いた。あの紫月にもそんな時期があったのかと、大きな瞳を更に大きく見開いて話の続きを待っているといった表情でいる。
「まあカネも一之宮しか眼中になかったからな。寄って来る女にゃ見向きもしなかったし、一之宮の気を引く為にわざと女とベタベタするなんて器用なことができるヤツじゃねえから、その点は安心だったがな。それでも女に言い寄られたりする度にあの二人の間が何となくギクシャクしちまってな」
 そういう時には自分が潤滑油の役目をしてやらなければと思ったのだそうだ。
「俺の家へ呼んで、真田がメシを作り過ぎたから一緒に食ってくれと言ったりしたこともあったな。一之宮はケーキが好物だろ? だから真田に焼いてもらっておいて食後に出すと喜ぶわけだ。その時点でもう一之宮の方はすっかり普段のヤツに戻ってるわけだが、そんな一之宮の笑顔を気付かれねえようにチラチラ見てるカネがまた嬉しそうなツラをしてな。世話の焼けるヤツらだと苦笑させられたもんだ」
 周は懐かしそうに瞳を細めて笑う。そんなことがしょっちゅうだったそうだ。
「そ、そうなんだ……。紫月さんたちにもそんな頃があったなんて」
「当時はまだはっきりと口に出して互いをどう想ってるかってのを言い合ってなかったからな。遠慮もあっただろうし、相手の交流を邪魔しちゃいけねえなんて思ってたんだろうがな」
「でも、でもさ。鐘崎さんがモテるのは分かるけど、紫月さんだってすごくカッコいいじゃない? 逆に紫月さんが言い寄られるっていうこともあったんじゃないの?」
 確かに紫月も顔立ちは美形だし、背も鐘崎には及ばないものの遜色ないくらいの高身長だ。同じようにモテただろうと思うのだ。
「一之宮の場合は女にモテるってよりも野郎に人気があったな」
「え? そうなの?」
「まあ野郎同士で恋仲になりてえとか、そこまでじゃねえにしろ単に遊び仲間としてツルんで歩きてえってヤツはたくさんいたぞ。見ての通り一之宮はざっくばらんで人見知りもしねえから、一緒にいて楽しいんだろうな。放課後にどっか寄ってこうとか、昼メシを一緒に食おうとか、それこそ年中クラスのヤツらが群がってはいたっけな」
「へえ。そういう時って鐘崎さんはどうしてるの? ヤキモチ焼いたりしないの?」
 冰にとっては俄然気になるところだ。紫月はどちらかといえば自分と同じ嫁という立ち位置だから、何かと相通じる部分もあるのだが、亭主の立場である鐘崎がどんなふうな目線でいるのかというのはやはり興味深い。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

コンビニごと異世界転生したフリーター、魔法学園で今日もみんなに溺愛されます

はるはう
BL
コンビニで働く渚は、ある日バイト中に奇妙なめまいに襲われる。 睡眠不足か?そう思い仕事を続けていると、さらに奇妙なことに、品出しを終えたはずの唐揚げ弁当が増えているのである。 驚いた渚は慌ててコンビニの外へ駆け出すと、そこはなんと異世界の魔法学園だった! そしてコンビニごと異世界へ転生してしまった渚は、知らぬ間に魔法学園のコンビニ店員として働くことになってしまい・・・ フリーター男子は今日もイケメンたちに甘やかされ、異世界でもバイト三昧の日々です!

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

処理中です...