極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
747 / 1,212
カウント・ダウンを南国バカンスで

しおりを挟む
 部屋に戻るとさすがに時差ボケのせいか、すっかり眠気が襲ってきた。
「疲れたろう? 今日は早めに休むか」
 周がベットカバーをどかしながら手招きをする。
「うん、でもちょっとその前に……少しだけこうしててい?」
 布団に潜り込むと同時に、珍しくも冰の方からしっかりと周の懐へと顔を埋めた。
「――どうした? お前がこんなふうに甘えてくるなんて珍しい」
「……そ、そう?」
 腕の中で真っ赤に頬を染めながらも、モジモジとしている。何か言いたげなのだが、おそらくは上手く言葉にならないのだろう。
「もしかして昼間のことを気にしているのか?」
 髪を撫でながらそう訊くと、図星といったようにしてビクリと顔を上げた。
「女たちが寄ってきたからな。妬いてくれたのか?」
 周は愛しげに瞳を細めながら笑う。
「や、妬いてとか……そ……ゆんじゃなくて……その」
 冰はますます赤面で茹で蛸状態だ。
「あ、あのね……。女の人たち、皆綺麗だったし……み、水着とかもその……セ、セクシーで。俺、その……白龍カッコイイし、いろいろドキドキしちゃって……」
 さすがに妬いてしまったとは正直に言い出せない。というよりも、冰にとってはヤキモチという感情よりもカルチャーショックに近い思いの方が強かったからだ。
 周とは固い絆で結ばれているし、どれほど強い愛情をかけてもらっているかもよく解っているのだが、実際に綺麗な女性たちのグラマラスな胸元などを目の当たりにしてしまうと、万が一にもそちらの方に興味を惹かれてしまうのではと心細くなったりしてしまうのだ。変な話だが、いかに好きな料理があっても毎日では飽きるし、たまには違ったものも食べてみたい――というのは例えが悪いが、冰にとってはそれに近いような心配が沸々としてしまったわけだ。
 言葉はしどろもどろで言いづらそうにしているが、冰よりは年齢も経験も大人の周には、そんな言い出しづらい思いが手に取るようであった。
「大袈裟な話だがな。例えば仮に――世界中の美女が言い寄ってきたとしても、俺にはお前しか見えねえから心配するな。どんなにグラマーだろうが美人だろうが、お前に適うわけもねえ」
 周はしっかりと懐に頭ごと抱え込みながらそう言って、愛しげに額へとキスを落とした。
「白龍……んと、ありがと……。俺、ごめんね。ヤ、ヤキモチなんか焼いちゃって……みっともない」
「バカだな。みっともねえどころか、俺にとっては最高に嬉しい愛情だ。お前に妬いてもらえたんなら、あの女たちにも感謝せにゃならんくらいだ」
 そう言って髪を撫でていると、腕の中で小さく『グスン』と鼻をすする音がした。
「泣くヤツがあるか」
「だって……だ……て、俺ったらこんなにしてもらってるのに……全然余裕がなくて……。まるで子供で……紫月さんみたいに余裕で笑ってられる大人になりたいのに……こやって白龍に我が侭言っちゃって慰めてもらったり……迷惑かけて」
「迷惑だなんて思ってねえ。それどころか、お前がそれほど俺を想ってくれてるってのが解ってめちゃくちゃ嬉しいんだからな」
 クイと顎を持ち上げて、軽く唇を奪いながら額をコツンと擦り合せる。すると冰は堰が切れたようにポロポロと大粒の涙をこぼしたのだった。
 周にとってはますます感激だ。可愛くてどうしようもない気持ちに駆られてしまった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

若さまは敵の常勝将軍を妻にしたい

雲丹はち
BL
年下の宿敵に戦場で一目惚れされ、気づいたらお持ち帰りされてた将軍が、一週間の時間をかけて、たっぷり溺愛される話。

処理中です...