極道恋事情

一園木蓮

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幸せのクリスマス・ベル

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 鐘崎と紫月は元々隣り合わせて座っていたので、周らに触発されてか負けじと鐘崎が紫月の肩を抱き寄せる。
「食いたいケーキは決まったのか?」
 どうせひとつに絞れないのだろうから、俺の分もお前の好きなのを選んでいいぞと言う。
「へへ、いっつも悪ィじゃん! 遼、お前にもひと口やるかんなぁ」
 紫月はご機嫌だ。こちらもまた仲睦まじい様子に、源次郎らは嬉しそうに瞳を細めるのだった。
 そうして珈琲とケーキが運ばれてくると、個室の中がパッと華やいだ声で浮き立った。
「うっはは! めっちゃ美味そう!」
「珈琲もいい香りだ」
 冰以外は全員がブラックのストレートだ。紫月はそれに砂糖をたっぷりと入れるのだが、他の男たちはブラックのまま香りと深い味わいを楽しんだ。
「見て白龍! 綺麗なアート」
 冰のはカフェオレで、表面にはアートが施してあるものだった。
「飲んじゃうのもったいない感じ」
 そう言いながらもアートを崩さないようにひと口をすする。すると、たっぷりのミルクの泡が冰の唇についた。本人は気がついていないようだ。
「冰、こっち向け」
「ん?」
 隣を振り返った途端に指で唇をなぞられて、そこで初めて泡が付いていたことに気付く。恥ずかしそうに頬を染めたのを横目に、周は拭ったその泡をペロリと舐めた。冰にとってはますます赤面だ。こんなふうに世話を焼いてもらえることにとてつもない幸せを感じて、
「あ、ありがと。白龍」
 えへへと肩をすくめて笑う。周にとってもまた、なかなかに忍耐を強いられるほど可愛い仕草であった。もしも二人だけならば、すぐにもチュッと口付けてしまったことだろう。
 クリスマス間近の真冬の午後、誰もが幸せに満ちたティータイムを満喫したのだった。



◇    ◇    ◇



 そうしてクリスマス当日がやってきた。
 今年は鐘崎の父親が珍しくも海外出張に出掛けていなかったので、源次郎と共に参加できることとなった。紫月の父親と綾乃木も誘って内々だけでのパーティである。場所は汐留の周邸で行われた。
 昨年のクリスマスに合わせて真田が取り寄せた大きなもみの木が今年は中庭で更に大きく育っている。社員たちにも楽しんでもらえるようにと、十二月に入ってからはイルミネーションも点灯していて、憩いのスポットになっているのだ。
 室内用には一昨年まで使っていたツリーが飾り付けてあり、こちらもまた華やかだ。ディナーも真田が心を込めて考えてくれた献立が並んで、和やかなひと時となった。
 今年は鐘崎がケーキを選び、周がシャンパンを用意した。去年は紫月と冰の手作りケーキで盛り上がったわけだが、そう毎年では大変だろうし、これまでもケーキを選ぶのが鐘崎の楽しみでもあった為、今回は好意に甘えることになったのだった。
「ほら、お待ちかねのケーキだ」
 真田が引いてきたワゴンの上にはいったい何が入っているのかというくらいに大きな箱。鐘崎が得意げにその蓋を開けると、中からは背の高い二種類のケーキが現れて、ダイニングは感嘆の声で湧いた。
 ケーキといえば丸型のホールが定番のイメージだが、今年はなんと四角だ。まるでこの汐留のツインタワーを思わせるような作りに驚きの声が絶えない。しかもひとつはチョコレートとブルーベリーの段々重ね、もうひとつはホワイトの生クリームとラズベリームースで彩られている。二組の夫婦のイメージにちなんだセレクトだった。
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