737 / 1,212
幸せのクリスマス・ベル
7
しおりを挟む
鐘崎と紫月は元々隣り合わせて座っていたので、周らに触発されてか負けじと鐘崎が紫月の肩を抱き寄せる。
「食いたいケーキは決まったのか?」
どうせひとつに絞れないのだろうから、俺の分もお前の好きなのを選んでいいぞと言う。
「へへ、いっつも悪ィじゃん! 遼、お前にもひと口やるかんなぁ」
紫月はご機嫌だ。こちらもまた仲睦まじい様子に、源次郎らは嬉しそうに瞳を細めるのだった。
そうして珈琲とケーキが運ばれてくると、個室の中がパッと華やいだ声で浮き立った。
「うっはは! めっちゃ美味そう!」
「珈琲もいい香りだ」
冰以外は全員がブラックのストレートだ。紫月はそれに砂糖をたっぷりと入れるのだが、他の男たちはブラックのまま香りと深い味わいを楽しんだ。
「見て白龍! 綺麗なアート」
冰のはカフェオレで、表面にはアートが施してあるものだった。
「飲んじゃうのもったいない感じ」
そう言いながらもアートを崩さないようにひと口をすする。すると、たっぷりのミルクの泡が冰の唇についた。本人は気がついていないようだ。
「冰、こっち向け」
「ん?」
隣を振り返った途端に指で唇をなぞられて、そこで初めて泡が付いていたことに気付く。恥ずかしそうに頬を染めたのを横目に、周は拭ったその泡をペロリと舐めた。冰にとってはますます赤面だ。こんなふうに世話を焼いてもらえることにとてつもない幸せを感じて、
「あ、ありがと。白龍」
えへへと肩をすくめて笑う。周にとってもまた、なかなかに忍耐を強いられるほど可愛い仕草であった。もしも二人だけならば、すぐにもチュッと口付けてしまったことだろう。
クリスマス間近の真冬の午後、誰もが幸せに満ちたティータイムを満喫したのだった。
◇ ◇ ◇
そうしてクリスマス当日がやってきた。
今年は鐘崎の父親が珍しくも海外出張に出掛けていなかったので、源次郎と共に参加できることとなった。紫月の父親と綾乃木も誘って内々だけでのパーティである。場所は汐留の周邸で行われた。
昨年のクリスマスに合わせて真田が取り寄せた大きなもみの木が今年は中庭で更に大きく育っている。社員たちにも楽しんでもらえるようにと、十二月に入ってからはイルミネーションも点灯していて、憩いのスポットになっているのだ。
室内用には一昨年まで使っていたツリーが飾り付けてあり、こちらもまた華やかだ。ディナーも真田が心を込めて考えてくれた献立が並んで、和やかなひと時となった。
今年は鐘崎がケーキを選び、周がシャンパンを用意した。去年は紫月と冰の手作りケーキで盛り上がったわけだが、そう毎年では大変だろうし、これまでもケーキを選ぶのが鐘崎の楽しみでもあった為、今回は好意に甘えることになったのだった。
「ほら、お待ちかねのケーキだ」
真田が引いてきたワゴンの上にはいったい何が入っているのかというくらいに大きな箱。鐘崎が得意げにその蓋を開けると、中からは背の高い二種類のケーキが現れて、ダイニングは感嘆の声で湧いた。
ケーキといえば丸型のホールが定番のイメージだが、今年はなんと四角だ。まるでこの汐留のツインタワーを思わせるような作りに驚きの声が絶えない。しかもひとつはチョコレートとブルーベリーの段々重ね、もうひとつはホワイトの生クリームとラズベリームースで彩られている。二組の夫婦のイメージにちなんだセレクトだった。
「食いたいケーキは決まったのか?」
どうせひとつに絞れないのだろうから、俺の分もお前の好きなのを選んでいいぞと言う。
「へへ、いっつも悪ィじゃん! 遼、お前にもひと口やるかんなぁ」
紫月はご機嫌だ。こちらもまた仲睦まじい様子に、源次郎らは嬉しそうに瞳を細めるのだった。
そうして珈琲とケーキが運ばれてくると、個室の中がパッと華やいだ声で浮き立った。
「うっはは! めっちゃ美味そう!」
「珈琲もいい香りだ」
冰以外は全員がブラックのストレートだ。紫月はそれに砂糖をたっぷりと入れるのだが、他の男たちはブラックのまま香りと深い味わいを楽しんだ。
「見て白龍! 綺麗なアート」
冰のはカフェオレで、表面にはアートが施してあるものだった。
「飲んじゃうのもったいない感じ」
そう言いながらもアートを崩さないようにひと口をすする。すると、たっぷりのミルクの泡が冰の唇についた。本人は気がついていないようだ。
「冰、こっち向け」
「ん?」
隣を振り返った途端に指で唇をなぞられて、そこで初めて泡が付いていたことに気付く。恥ずかしそうに頬を染めたのを横目に、周は拭ったその泡をペロリと舐めた。冰にとってはますます赤面だ。こんなふうに世話を焼いてもらえることにとてつもない幸せを感じて、
「あ、ありがと。白龍」
えへへと肩をすくめて笑う。周にとってもまた、なかなかに忍耐を強いられるほど可愛い仕草であった。もしも二人だけならば、すぐにもチュッと口付けてしまったことだろう。
クリスマス間近の真冬の午後、誰もが幸せに満ちたティータイムを満喫したのだった。
◇ ◇ ◇
そうしてクリスマス当日がやってきた。
今年は鐘崎の父親が珍しくも海外出張に出掛けていなかったので、源次郎と共に参加できることとなった。紫月の父親と綾乃木も誘って内々だけでのパーティである。場所は汐留の周邸で行われた。
昨年のクリスマスに合わせて真田が取り寄せた大きなもみの木が今年は中庭で更に大きく育っている。社員たちにも楽しんでもらえるようにと、十二月に入ってからはイルミネーションも点灯していて、憩いのスポットになっているのだ。
室内用には一昨年まで使っていたツリーが飾り付けてあり、こちらもまた華やかだ。ディナーも真田が心を込めて考えてくれた献立が並んで、和やかなひと時となった。
今年は鐘崎がケーキを選び、周がシャンパンを用意した。去年は紫月と冰の手作りケーキで盛り上がったわけだが、そう毎年では大変だろうし、これまでもケーキを選ぶのが鐘崎の楽しみでもあった為、今回は好意に甘えることになったのだった。
「ほら、お待ちかねのケーキだ」
真田が引いてきたワゴンの上にはいったい何が入っているのかというくらいに大きな箱。鐘崎が得意げにその蓋を開けると、中からは背の高い二種類のケーキが現れて、ダイニングは感嘆の声で湧いた。
ケーキといえば丸型のホールが定番のイメージだが、今年はなんと四角だ。まるでこの汐留のツインタワーを思わせるような作りに驚きの声が絶えない。しかもひとつはチョコレートとブルーベリーの段々重ね、もうひとつはホワイトの生クリームとラズベリームースで彩られている。二組の夫婦のイメージにちなんだセレクトだった。
12
お気に入りに追加
876
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。




淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる