極道恋事情

一園木蓮

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幸せのクリスマス・ベル

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「見てください、紫月さん! ケーキ、どれも美味しそうでしょう」
「ホントだ! すっげ種類もいっぱいあって迷っちまう」
 嫁二人が仲睦まじくメニューを覗き込む傍らで、周と鐘崎の二人は早速に煙草を取り出して、まずは何を置いても一服が先のようだ。テーブルの上にマッチの束を見つけた鐘崎が、珍しくもワクワクとした表情で早速手に取っている。
「こいつぁ有り難え」
 鐘崎はライターよりもマッチ派だから、家では必ずマッチを使う。だが出先ではそうもいかない為、ライターで代用していることが多いのだ。喫煙自体のできる店が大幅に減った現在に、マッチまで設えてあるのだから鐘崎にとってはそれだけで奇跡の思いだった。
 置いてあったマッチは折りたたみ式の物で、昭和の頃にはどこの喫茶店でもよく見掛けたタイプだ。大概はマッチを一本切り離してから擦るのだが、鐘崎はそうせずに繋がったままの一本を折り曲げると蓋の部分で押さえつけては器用に擦って火を点けた。先に隣の周に火を分けてから自分の煙草にも灯すと、これまた粋な仕草でパチンと指で蓋を弾いて火を消した。
 二人共にまるで『美味い!』といった声が聞こえてきそうな表情で一服目を吸い込み、火を分けてもらったお返しにというわけか、今度は周が立ち上った紫煙を煙たそうに瞳を細めては、咥え煙草で灰皿を引き寄せて鐘崎の前へと差し出す。何気ないほんの一瞬の出来事なのだが、そんな仕草をメニュー越しに見つめていた冰はみるみると頬を赤らめた。ポカンと口を開いたまま、うっとりと視線は釘付けだ。
「ん? どうした冰?」
 じっと見つめられているのに気がついた周が首を傾げると、ハッと我に返ってますます頬を染めた。
「う、うん……何でもない……んだけど、なんていうか……男の人が煙草を扱う仕草ってカッコいいなって思ってさ」
 大真面目でそんなことを言った冰に、メニューにかじりついていた紫月も『え?』といったように目を丸めてしまった。
「い、今の白龍と鐘崎さんの……煙草を扱ってるちょっとした仕草っていうの? それがすごくカッコいいって思ったの……。なんだかドキドキしちゃった」
 周も鐘崎も特に格好良く見せようなどとはまったく意識してやっていない普段の仕草なのだろうが、冰にとってはそこがまた粋に映ってしまったようだ。
 周にしてみれば、モジモジと頬を赤らめるそんな仕草の方がよほど可愛く思えてか、
「冰、頼むモンを決めたらこっちへ来い」
 離れて座っていた位置を交換しろと呼び寄せる。すかさず源次郎と花村が立ち上がっては、ひとつずつ席をずらした。
「す、すみません皆さん……! お手間をお掛けしちゃって」
「いえいえ」
 源次郎も花村も微笑ましげにクスクスと笑っている。周もまた、快く席を譲ってくれた彼らに礼を述べた。
「源さん、花村さん、すみません。こいつがあんまりにも可愛いことを言うもんで我慢できなくなってしまいました」
 気恥ずかしそうにペコリと会釈をする。普段から嫌というほど一緒にいるというのに、どこででもくっ付いていたい二人を心温まる思いで見つめたシニア組であった。
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