730 / 1,212
謀反
67(謀反 完結)
しおりを挟む
「よっしゃ! 着脱完了!」
上着と靴下を脱がせて布団を掛けてやる。
「そんじゃあっち行ってこの珈琲でもいただくか」
「そうですね」
起こさないようにと小声で微笑み合いながら二人が亭主たちの側を離れようとした時だった。同時にそれぞれ腕を掴まれて、布団の中に引っ張り込まれ、紫月も冰も驚いたように大きな声を上げてしまった。
「わっ……ったーっと!」
「うわわわッ!」
見ればニヤニヤと不敵な笑みを浮かべた旦那組が頼もしげにしながらムクリと起き上がる。
「わっ……遼! ンだよ、狸寝入りかよー!」
「バ、バ、白龍! 起きてたの?」
目を白黒させているそれぞれの嫁をギュウギュウと抱き締める。
「こんなに可愛いことをされてはな」
「寝ているわけにはいくまい」
抱え込んだまま、これまたそれぞれに濃いめのキスを見舞う。
「バ、ババババ白龍……! こんなところでー……」
焦る冰の対面では紫月が鐘崎にデコピンをくれている。
「遼! この野獣がー」
どう言われようが旦那組の二人にとっては屁でもないらしい。そのままソファに押し倒されそうな勢いに冰はますます頬を染めて焦りまくり、紫月の方は肘鉄を繰り出す。ドッと笑いが巻き起こり、しばらくその幸せな喧騒が止むことはなかった。
「お! 珈琲か! 美味そうだ」
「早速いただくとするか!」
淹れたての珈琲を口に運ぶ様子を見遣りながら、
「……ったく、ゲンキンなんだからよぉ」
少し寝癖ではねた鐘崎の髪をクシャクシャと弄りながら紫月が笑う。
「でも良かった。せっかく真田さんが淹れてくれたんだもん。美味しい内に飲めてさ!」
冰はちょこんと可愛らしい仕草で亭主の隣へと腰掛けて、その横顔を愛しげに見つめる。それぞれ言い方は違うものの、そこには愛があふれている。
「冰、ひと口飲むか?」
周はグイと冰の華奢な肩を抱き寄せて懐に抱え込む。
「白龍……こぼれる! 珈琲こぼれるってー!」
一方の鐘崎もまた、
「紫月、ほらお前も飲め。なんなら口移ししてやるぞ?」
大きな掌で紫月の頭を抱き寄せてはニュッと唇を尖らせて、もう一度キスを見舞う素振りでいる。
「何が口移しだよー。そうだなぁ、砂糖五個くれえ入れてくれんなら口移しされてやってもいいけどな!」
またもやデコピンの形にした指を突き出すと、
「隙あり!」
鐘崎も負けじとその指先にキスをした。
「わッ! バカ! 珈琲こぼれっだろが!」
またもやドッと笑いが巻き起こる。二組のカップルたちはそれぞれ肩を寄せ合って、何だかんだと言いつつ同じカップから珈琲を飲んで朗らかな笑顔を咲かせた。
こんなふうに笑い合えるこの瞬間と、それを共有できる仲間たちに包まれて過ごせる幸せを胸の内で噛み締める四人であった。
俺たちは何度巡り会っても惹かれ合う。そんな周の言葉の如く、例え過去の記憶を失くそうが、生まれ変わろうが、互いを求めずにはいられない。
恋人として、夫婦としてはもちろんのこと、立場や年代を超え、こうして笑い合える仲間たちについてもそれは同じであろう。例えば今とは全く違う環境下で出会ったとしても、互いに惹かれ合い共に過ごすことを選ぶだろう。
そう、もしも出会い方が違ったとしても、周は冰を愛し、冰は周を慕う。鐘崎は紫月を宝とし、紫月は鐘崎を一途に想う。そして互いの肉親にファミリーのメンバー、組の面々。真田や源次郎、側近の李に劉、医師の鄧に運転手の宋らとも同じように絆を持てたらいい。モデルのレイ・ヒイラギに倫周、クラブ・フォレストの里恵子と森崎。友の粟津帝斗や紫月の実家を手伝ってくれている綾乃木もそうだし、マカオの張や鉱山のロンも然りだ。
今生でも来世でも、そのまた来世でも、もしくは同じ時の流れの中に平行線で進むパラレルワールドな世界があったとしても、この仲間たちとずっと一緒に過ごしたい。そんな思いを胸に、誰もが今この時の幸せをしみじみと噛み締めるのだった。
謀反 - FIN -
上着と靴下を脱がせて布団を掛けてやる。
「そんじゃあっち行ってこの珈琲でもいただくか」
「そうですね」
起こさないようにと小声で微笑み合いながら二人が亭主たちの側を離れようとした時だった。同時にそれぞれ腕を掴まれて、布団の中に引っ張り込まれ、紫月も冰も驚いたように大きな声を上げてしまった。
「わっ……ったーっと!」
「うわわわッ!」
見ればニヤニヤと不敵な笑みを浮かべた旦那組が頼もしげにしながらムクリと起き上がる。
「わっ……遼! ンだよ、狸寝入りかよー!」
「バ、バ、白龍! 起きてたの?」
目を白黒させているそれぞれの嫁をギュウギュウと抱き締める。
「こんなに可愛いことをされてはな」
「寝ているわけにはいくまい」
抱え込んだまま、これまたそれぞれに濃いめのキスを見舞う。
「バ、ババババ白龍……! こんなところでー……」
焦る冰の対面では紫月が鐘崎にデコピンをくれている。
「遼! この野獣がー」
どう言われようが旦那組の二人にとっては屁でもないらしい。そのままソファに押し倒されそうな勢いに冰はますます頬を染めて焦りまくり、紫月の方は肘鉄を繰り出す。ドッと笑いが巻き起こり、しばらくその幸せな喧騒が止むことはなかった。
「お! 珈琲か! 美味そうだ」
「早速いただくとするか!」
淹れたての珈琲を口に運ぶ様子を見遣りながら、
「……ったく、ゲンキンなんだからよぉ」
少し寝癖ではねた鐘崎の髪をクシャクシャと弄りながら紫月が笑う。
「でも良かった。せっかく真田さんが淹れてくれたんだもん。美味しい内に飲めてさ!」
冰はちょこんと可愛らしい仕草で亭主の隣へと腰掛けて、その横顔を愛しげに見つめる。それぞれ言い方は違うものの、そこには愛があふれている。
「冰、ひと口飲むか?」
周はグイと冰の華奢な肩を抱き寄せて懐に抱え込む。
「白龍……こぼれる! 珈琲こぼれるってー!」
一方の鐘崎もまた、
「紫月、ほらお前も飲め。なんなら口移ししてやるぞ?」
大きな掌で紫月の頭を抱き寄せてはニュッと唇を尖らせて、もう一度キスを見舞う素振りでいる。
「何が口移しだよー。そうだなぁ、砂糖五個くれえ入れてくれんなら口移しされてやってもいいけどな!」
またもやデコピンの形にした指を突き出すと、
「隙あり!」
鐘崎も負けじとその指先にキスをした。
「わッ! バカ! 珈琲こぼれっだろが!」
またもやドッと笑いが巻き起こる。二組のカップルたちはそれぞれ肩を寄せ合って、何だかんだと言いつつ同じカップから珈琲を飲んで朗らかな笑顔を咲かせた。
こんなふうに笑い合えるこの瞬間と、それを共有できる仲間たちに包まれて過ごせる幸せを胸の内で噛み締める四人であった。
俺たちは何度巡り会っても惹かれ合う。そんな周の言葉の如く、例え過去の記憶を失くそうが、生まれ変わろうが、互いを求めずにはいられない。
恋人として、夫婦としてはもちろんのこと、立場や年代を超え、こうして笑い合える仲間たちについてもそれは同じであろう。例えば今とは全く違う環境下で出会ったとしても、互いに惹かれ合い共に過ごすことを選ぶだろう。
そう、もしも出会い方が違ったとしても、周は冰を愛し、冰は周を慕う。鐘崎は紫月を宝とし、紫月は鐘崎を一途に想う。そして互いの肉親にファミリーのメンバー、組の面々。真田や源次郎、側近の李に劉、医師の鄧に運転手の宋らとも同じように絆を持てたらいい。モデルのレイ・ヒイラギに倫周、クラブ・フォレストの里恵子と森崎。友の粟津帝斗や紫月の実家を手伝ってくれている綾乃木もそうだし、マカオの張や鉱山のロンも然りだ。
今生でも来世でも、そのまた来世でも、もしくは同じ時の流れの中に平行線で進むパラレルワールドな世界があったとしても、この仲間たちとずっと一緒に過ごしたい。そんな思いを胸に、誰もが今この時の幸せをしみじみと噛み締めるのだった。
謀反 - FIN -
11
お気に入りに追加
879
あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる