極道恋事情

一園木蓮

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謀反

67(謀反 完結)

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「よっしゃ! 着脱完了!」
 上着と靴下を脱がせて布団を掛けてやる。
「そんじゃあっち行ってこの珈琲でもいただくか」
「そうですね」
 起こさないようにと小声で微笑み合いながら二人が亭主たちの側を離れようとした時だった。同時にそれぞれ腕を掴まれて、布団の中に引っ張り込まれ、紫月も冰も驚いたように大きな声を上げてしまった。
「わっ……ったーっと!」
「うわわわッ!」
 見ればニヤニヤと不敵な笑みを浮かべた旦那組が頼もしげにしながらムクリと起き上がる。
「わっ……遼! ンだよ、狸寝入りかよー!」
「バ、バ、白龍! 起きてたの?」
 目を白黒させているそれぞれの嫁をギュウギュウと抱き締める。
「こんなに可愛いことをされてはな」
「寝ているわけにはいくまい」
 抱え込んだまま、これまたそれぞれに濃いめのキスを見舞う。
「バ、ババババ白龍……! こんなところでー……」
 焦る冰の対面では紫月が鐘崎にデコピンをくれている。
「遼! この野獣がー」
 どう言われようが旦那組の二人にとっては屁でもないらしい。そのままソファに押し倒されそうな勢いに冰はますます頬を染めて焦りまくり、紫月の方は肘鉄を繰り出す。ドッと笑いが巻き起こり、しばらくその幸せな喧騒が止むことはなかった。
「お! 珈琲か! 美味そうだ」
「早速いただくとするか!」
 淹れたての珈琲を口に運ぶ様子を見遣りながら、
「……ったく、ゲンキンなんだからよぉ」
 少し寝癖ではねた鐘崎の髪をクシャクシャと弄りながら紫月が笑う。
「でも良かった。せっかく真田さんが淹れてくれたんだもん。美味しい内に飲めてさ!」
 冰はちょこんと可愛らしい仕草で亭主の隣へと腰掛けて、その横顔を愛しげに見つめる。それぞれ言い方は違うものの、そこには愛があふれている。
「冰、ひと口飲むか?」
 周はグイと冰の華奢な肩を抱き寄せて懐に抱え込む。
「白龍……こぼれる! 珈琲こぼれるってー!」
 一方の鐘崎もまた、
「紫月、ほらお前も飲め。なんなら口移ししてやるぞ?」
 大きな掌で紫月の頭を抱き寄せてはニュッと唇を尖らせて、もう一度キスを見舞う素振りでいる。
「何が口移しだよー。そうだなぁ、砂糖五個くれえ入れてくれんなら口移しされてやってもいいけどな!」
 またもやデコピンの形にした指を突き出すと、
「隙あり!」
 鐘崎も負けじとその指先にキスをした。
「わッ! バカ! 珈琲こぼれっだろが!」
 またもやドッと笑いが巻き起こる。二組のカップルたちはそれぞれ肩を寄せ合って、何だかんだと言いつつ同じカップから珈琲を飲んで朗らかな笑顔を咲かせた。
 こんなふうに笑い合えるこの瞬間と、それを共有できる仲間たちに包まれて過ごせる幸せを胸の内で噛み締める四人であった。

 俺たちは何度巡り会っても惹かれ合う。そんな周の言葉の如く、例え過去の記憶を失くそうが、生まれ変わろうが、互いを求めずにはいられない。
 恋人として、夫婦としてはもちろんのこと、立場や年代を超え、こうして笑い合える仲間たちについてもそれは同じであろう。例えば今とは全く違う環境下で出会ったとしても、互いに惹かれ合い共に過ごすことを選ぶだろう。
 そう、もしも出会い方が違ったとしても、周は冰を愛し、冰は周を慕う。鐘崎は紫月を宝とし、紫月は鐘崎を一途に想う。そして互いの肉親にファミリーのメンバー、組の面々。真田や源次郎、側近の李に劉、医師の鄧に運転手の宋らとも同じように絆を持てたらいい。モデルのレイ・ヒイラギに倫周、クラブ・フォレストの里恵子と森崎。友の粟津帝斗や紫月の実家を手伝ってくれている綾乃木もそうだし、マカオの張や鉱山のロンも然りだ。
 今生でも来世でも、そのまた来世でも、もしくは同じ時の流れの中に平行線で進むパラレルワールドな世界があったとしても、この仲間たちとずっと一緒に過ごしたい。そんな思いを胸に、誰もが今この時の幸せをしみじみと噛み締めるのだった。

謀反 - FIN -
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