718 / 1,212
謀反
55
しおりを挟む
「さっきテーブルに頭をぶつけたお前を見た瞬間に、初めてお前がここを訪ねてくれた日のことを思い出したんだ」
「……! あ、あの日の……?」
「ああ――、あの時もこの部屋だったろう?」
確かにそうだ。二人が十二年の時を経て再会したのはこの部屋だった。そして緊張がマックスになってテンパっていた冰は、先程と同じようにこのテーブルに頭をぶつけたものだ。周にとって、冰が自ら訪ねて来てくれたその日のことは何よりも嬉しい記憶として心に刻まれていたのだろう。瞳を細めながらテーブルを見つめる視線が、まるで冰そのものだとでもいうように愛しげだ。
「お前が訪ねてくれたあの日、俺は本当に嬉しかった。香港を離れて以来、あんなに心震えたのは初めてだったように思う」
心の奥底に眠っていたその時の感動が、閉ざされていた周の記憶の鍵を開けたのだ。
「白龍……」
「あの日、テーブルに頭をぶつけるほどに緊張して、何に対しても一生懸命で……素直で律儀なお前を目の前にしながら……初めて出会った幼かった頃と何ひとつ変わっていないお前に気持ちの癒される気がしていた。――その時のことを思い出した。それからはあふれる泉のように次々と記憶が蘇ってきた。そりゃあもうすげえ勢いで――な?」
「白龍……! 白龍がそんなふうに思っていてくれたなんて……俺……」
冰もまたその日のことを思い返しては再び潤み出した涙を拭う。
「今まで忘れちまってたのが嘘のようだったぞ。変な話だが、ものすげえ貴重な体験ってくらいの感覚でな……。お前らと過ごした日々のひとつひとつが写真みてえになってドワーッと押し寄せてきたっていうかな。頭の中で映像として浮かんできたっていうか。とにかく言い表しようがない感じだった」
周は今一度冰の頭ごと引き寄せては、すっぽりと腕の中に抱き包むようにしながら言った。
「何もかも忘れちまってた俺の心の扉を――お前が開けてくれたんだ」
「白龍……ううん、ううん! 俺なんか……なんにもできなくて……。ただ側にいるだけで……白龍が一番辛かっただろうに……! 思い出してくれて本当にありがとう……本当によくがんばってくれて……」
「お前のお陰だ――。そして李に劉。真田に鄧、皆のお陰だ――!」
「白龍……。うん、ほんとにそうだよね。皆さんのお陰――!」
冰は安堵とも喜びともつかない高揚感に、ガクガクと全身が震えるような心持ちだった。
「……! あ、あの日の……?」
「ああ――、あの時もこの部屋だったろう?」
確かにそうだ。二人が十二年の時を経て再会したのはこの部屋だった。そして緊張がマックスになってテンパっていた冰は、先程と同じようにこのテーブルに頭をぶつけたものだ。周にとって、冰が自ら訪ねて来てくれたその日のことは何よりも嬉しい記憶として心に刻まれていたのだろう。瞳を細めながらテーブルを見つめる視線が、まるで冰そのものだとでもいうように愛しげだ。
「お前が訪ねてくれたあの日、俺は本当に嬉しかった。香港を離れて以来、あんなに心震えたのは初めてだったように思う」
心の奥底に眠っていたその時の感動が、閉ざされていた周の記憶の鍵を開けたのだ。
「白龍……」
「あの日、テーブルに頭をぶつけるほどに緊張して、何に対しても一生懸命で……素直で律儀なお前を目の前にしながら……初めて出会った幼かった頃と何ひとつ変わっていないお前に気持ちの癒される気がしていた。――その時のことを思い出した。それからはあふれる泉のように次々と記憶が蘇ってきた。そりゃあもうすげえ勢いで――な?」
「白龍……! 白龍がそんなふうに思っていてくれたなんて……俺……」
冰もまたその日のことを思い返しては再び潤み出した涙を拭う。
「今まで忘れちまってたのが嘘のようだったぞ。変な話だが、ものすげえ貴重な体験ってくらいの感覚でな……。お前らと過ごした日々のひとつひとつが写真みてえになってドワーッと押し寄せてきたっていうかな。頭の中で映像として浮かんできたっていうか。とにかく言い表しようがない感じだった」
周は今一度冰の頭ごと引き寄せては、すっぽりと腕の中に抱き包むようにしながら言った。
「何もかも忘れちまってた俺の心の扉を――お前が開けてくれたんだ」
「白龍……ううん、ううん! 俺なんか……なんにもできなくて……。ただ側にいるだけで……白龍が一番辛かっただろうに……! 思い出してくれて本当にありがとう……本当によくがんばってくれて……」
「お前のお陰だ――。そして李に劉。真田に鄧、皆のお陰だ――!」
「白龍……。うん、ほんとにそうだよね。皆さんのお陰――!」
冰は安堵とも喜びともつかない高揚感に、ガクガクと全身が震えるような心持ちだった。
11
お気に入りに追加
867
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる