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謀反
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「そういえば鐘崎、あんたも俺と同じ薬物を盛られて記憶を失くしたことがあったそうだな?」
「ああ。鄧先生から聞いたか?」
「あんたの場合は割合短期間で記憶が戻ったというが」
「俺は幸いにしてあの薬を食らったのが一度だけだったからな。おそらくお前さんは何度か食らっちまったんだろう。その分、重症化しちまったというところなんだろうな」
「そういえば鉱山に連れて行かれた時に俺の主治医だとかいう男に何度か注射を打たれたのを覚えている……」
おそらくはそれが例の薬物だったのだろう。何度か打たれたということは、鐘崎の時とは比べものにならないくらい重症化していると思われる。
「鐘崎……あんたは何がきっかけで思い出せたんだ?」
「俺の時は荒療治だったな。なにせ敵衆に囲まれて、今すぐに記憶を取り戻さないっていうと命にかかわるような事態だったからな」
「敵衆……。そういや俺の親はマフィアだと聞かされたが、あんたも同業者ってわけか?」
「まあな。俺の親父とお前の親父さんとは古くからの馴染みだ。俺たちは世間一般からは極道と呼ばれちゃいるが、実際にはちょっと意味合いが違う。裏の世界のいろいろな方面から依頼を受けて仕事をさせてもらっているんだが、俺が記憶を失くした時もまさにそんな依頼の最中だった」
鐘崎はその時の敵対組織に薬物を盛られたことを簡潔に話して聞かせた。
「そんな窮地だから、俺が記憶を取り戻さなきゃ一貫の終わりってことでな。その時に嫁の紫月が言ったんだ。『俺が欲しけりゃ思い出してみやがれ』とな」
鐘崎は自分の記憶を取り戻す為の策として、紫月がわざと他の男のものにされてしまうシチュエーションを作り、それが嫌なら思い出せと言って荒療治に出たのだと言った。
「それで……あんたは思い出せたのか?」
「ああ、お陰様でな。俺がえらくヤキモチ焼きだということを紫月は分かっていて、それを逆手に取ったんだ。俺の襟首を掴み上げて、そりゃあえらい迫力だったわ」
鐘崎は苦笑ながらも誇らしげに笑みを見せる。
「あんたの嫁ってのは……また随分と男気のあるヤツなんだな」
「まあな。そこが可愛いところだ」
周は『羨ましいことだ』と言って切なげに微笑んだ。
「今頃は……俺の嫁もどこかでそんなふうに俺のことを想ってくれているんだろうか」
そんなことを口走った周に、鐘崎はクスッと笑みながら言った。
「お前さんの嫁は紫月とはまたタイプが違うからな。間違ってもお前さんの襟首を掴んで『思い出してみやがれ』なんてことは言わんだろうがな。だがヤツはお前のことを何より大事に想ってるのは間違いねえ。ヘタすりゃ、てめえの命に代えてもお前さんには幸せでいて欲しい。そんなふうに考えるヤツだ」
ここでもまた、医師の鄧らから聞いたのと同じことが語られる。こうまで皆が口を揃えて『いいヤツだ』と言うからには、本当にそうなのだろうと思う。正直な話、羅辰や香山たちといた時とは違って、ここへ来てから会う人間は皆どこか一緒に居て心地好いというか、信頼できる気がしているからだ。
周はどうしてか申し訳ない気持ちに駆られてしまった。
「ああ。鄧先生から聞いたか?」
「あんたの場合は割合短期間で記憶が戻ったというが」
「俺は幸いにしてあの薬を食らったのが一度だけだったからな。おそらくお前さんは何度か食らっちまったんだろう。その分、重症化しちまったというところなんだろうな」
「そういえば鉱山に連れて行かれた時に俺の主治医だとかいう男に何度か注射を打たれたのを覚えている……」
おそらくはそれが例の薬物だったのだろう。何度か打たれたということは、鐘崎の時とは比べものにならないくらい重症化していると思われる。
「鐘崎……あんたは何がきっかけで思い出せたんだ?」
「俺の時は荒療治だったな。なにせ敵衆に囲まれて、今すぐに記憶を取り戻さないっていうと命にかかわるような事態だったからな」
「敵衆……。そういや俺の親はマフィアだと聞かされたが、あんたも同業者ってわけか?」
「まあな。俺の親父とお前の親父さんとは古くからの馴染みだ。俺たちは世間一般からは極道と呼ばれちゃいるが、実際にはちょっと意味合いが違う。裏の世界のいろいろな方面から依頼を受けて仕事をさせてもらっているんだが、俺が記憶を失くした時もまさにそんな依頼の最中だった」
鐘崎はその時の敵対組織に薬物を盛られたことを簡潔に話して聞かせた。
「そんな窮地だから、俺が記憶を取り戻さなきゃ一貫の終わりってことでな。その時に嫁の紫月が言ったんだ。『俺が欲しけりゃ思い出してみやがれ』とな」
鐘崎は自分の記憶を取り戻す為の策として、紫月がわざと他の男のものにされてしまうシチュエーションを作り、それが嫌なら思い出せと言って荒療治に出たのだと言った。
「それで……あんたは思い出せたのか?」
「ああ、お陰様でな。俺がえらくヤキモチ焼きだということを紫月は分かっていて、それを逆手に取ったんだ。俺の襟首を掴み上げて、そりゃあえらい迫力だったわ」
鐘崎は苦笑ながらも誇らしげに笑みを見せる。
「あんたの嫁ってのは……また随分と男気のあるヤツなんだな」
「まあな。そこが可愛いところだ」
周は『羨ましいことだ』と言って切なげに微笑んだ。
「今頃は……俺の嫁もどこかでそんなふうに俺のことを想ってくれているんだろうか」
そんなことを口走った周に、鐘崎はクスッと笑みながら言った。
「お前さんの嫁は紫月とはまたタイプが違うからな。間違ってもお前さんの襟首を掴んで『思い出してみやがれ』なんてことは言わんだろうがな。だがヤツはお前のことを何より大事に想ってるのは間違いねえ。ヘタすりゃ、てめえの命に代えてもお前さんには幸せでいて欲しい。そんなふうに考えるヤツだ」
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周はどうしてか申し訳ない気持ちに駆られてしまった。
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