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謀反
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「冰さん! 申し訳ございません! 私がついていながらこんなことになってしまって……。焔老板はまだ……」
医師の鄧から粗方の経緯を聞いたのだろう。李は周が拉致されてしまったことに酷く動揺しているようであった。
「李さんのせいではありません! 運転手の宋さんも身を挺して白龍を庇ってくださったんです。咄嗟のことでしたのに……お詫びを言うのはこちらの方です!」
冰は車の潰れ具合からも運転手の宋が自らを盾にして周と李を護るようにハンドルを切ったことを理解していた。恐縮して頭を上げられないでいる二人に心からの詫びと礼の気持ちを伝えたのだった。
「冰さん、私はもう大丈夫ですのですぐに復帰いたします!」
もう起き上がれるので自分にも何かしら手伝わせて欲しいと懇願する李にこれまでの調査で分かってきたことを話して聞かせ、まずは静養が第一だからと身を案じる。だが李としては居ても立っても居られないのも事実のようで、自ら鄧に車椅子を用意してくれと頼む始末だ。その気持ちも分からないではない。冰は絶対に無理をしないとの約束で、社の運営や周の捜索に加わってもらうことに同意した。
もうすぐ三連休が終わろうとしている。
緊急事態ではあるが、社の業務を止めるわけにもいかず、李には主にそちらの方を見てくれるよう頼むことにする。
「白龍が帰って来た時の為にも会社の方はしっかり守っていかないといけませんので」
そうして週が明けると、業務は主に李と劉に任せながら、捜索の合間に冰自らも進んで社の仕事をこなすという日々が続いた。汐留に泊まり込んでいる紫月も業務を手伝ってくれたので大助かりであった。
「すみません、紫月さんにまでご足労をお掛けしてしまって……」
「いいってことよ! 捜索は遼と源さんがいれば俺なんか正直なところお飾りだしさ」
この紫月という男はどんな時でも前向きでポジティブな思考を忘れない。そういえば以前二人で一緒に拉致された際にも紫月は終始明るかった。落ち込むことももちろんあるのだろうが、例え窮地でもその時々の状況を即座に受け入れて柔軟に構えてくれる。まるで風に揺れる柳のごとく、やわらかで穏やかでありながら決して折れない強さを併せ持つ。そんな紫月が側に居てくれることが、冰にとってはどれほど励みになることか知れなかった。時にはジョークを交えながら前向きに導いてくれる彼の存在が何よりの癒しでもあった。
明るい彼につられて自然と周囲の皆にも笑みが咲く。
「ね、紫月さん! こんなに助けていただいてるんですから、白龍が帰って来たらたくさんお給料を貰わなくちゃですね!」
冰もまた然りで、気がつけば自然と朗らかな言葉が出てきていた。
「おう、そうだな! んじゃ、しっかり働いてガッツリ氷川から報酬をもぎ取るべ!」
「ですね! もぎ取っちゃってください!」
二人笑顔で精を出す。その様子を横目に、李と劉もまた主人の無事を祈るのだった。
(老板、どうかご無事で! 姐様たちがこうして社や我々を支えてくださっています! 一日も早くまた皆で笑い合える日が来るよう、それまで社のことはしっかり守って参りますので……!)
大パノラマの窓から差し込む午後の陽射しを仰ぎながら、李と、そして劉もまたその日を夢見ては熱くなった目頭を押さえたのだった。
医師の鄧から粗方の経緯を聞いたのだろう。李は周が拉致されてしまったことに酷く動揺しているようであった。
「李さんのせいではありません! 運転手の宋さんも身を挺して白龍を庇ってくださったんです。咄嗟のことでしたのに……お詫びを言うのはこちらの方です!」
冰は車の潰れ具合からも運転手の宋が自らを盾にして周と李を護るようにハンドルを切ったことを理解していた。恐縮して頭を上げられないでいる二人に心からの詫びと礼の気持ちを伝えたのだった。
「冰さん、私はもう大丈夫ですのですぐに復帰いたします!」
もう起き上がれるので自分にも何かしら手伝わせて欲しいと懇願する李にこれまでの調査で分かってきたことを話して聞かせ、まずは静養が第一だからと身を案じる。だが李としては居ても立っても居られないのも事実のようで、自ら鄧に車椅子を用意してくれと頼む始末だ。その気持ちも分からないではない。冰は絶対に無理をしないとの約束で、社の運営や周の捜索に加わってもらうことに同意した。
もうすぐ三連休が終わろうとしている。
緊急事態ではあるが、社の業務を止めるわけにもいかず、李には主にそちらの方を見てくれるよう頼むことにする。
「白龍が帰って来た時の為にも会社の方はしっかり守っていかないといけませんので」
そうして週が明けると、業務は主に李と劉に任せながら、捜索の合間に冰自らも進んで社の仕事をこなすという日々が続いた。汐留に泊まり込んでいる紫月も業務を手伝ってくれたので大助かりであった。
「すみません、紫月さんにまでご足労をお掛けしてしまって……」
「いいってことよ! 捜索は遼と源さんがいれば俺なんか正直なところお飾りだしさ」
この紫月という男はどんな時でも前向きでポジティブな思考を忘れない。そういえば以前二人で一緒に拉致された際にも紫月は終始明るかった。落ち込むことももちろんあるのだろうが、例え窮地でもその時々の状況を即座に受け入れて柔軟に構えてくれる。まるで風に揺れる柳のごとく、やわらかで穏やかでありながら決して折れない強さを併せ持つ。そんな紫月が側に居てくれることが、冰にとってはどれほど励みになることか知れなかった。時にはジョークを交えながら前向きに導いてくれる彼の存在が何よりの癒しでもあった。
明るい彼につられて自然と周囲の皆にも笑みが咲く。
「ね、紫月さん! こんなに助けていただいてるんですから、白龍が帰って来たらたくさんお給料を貰わなくちゃですね!」
冰もまた然りで、気がつけば自然と朗らかな言葉が出てきていた。
「おう、そうだな! んじゃ、しっかり働いてガッツリ氷川から報酬をもぎ取るべ!」
「ですね! もぎ取っちゃってください!」
二人笑顔で精を出す。その様子を横目に、李と劉もまた主人の無事を祈るのだった。
(老板、どうかご無事で! 姐様たちがこうして社や我々を支えてくださっています! 一日も早くまた皆で笑い合える日が来るよう、それまで社のことはしっかり守って参りますので……!)
大パノラマの窓から差し込む午後の陽射しを仰ぎながら、李と、そして劉もまたその日を夢見ては熱くなった目頭を押さえたのだった。
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