674 / 1,212
謀反
11
しおりを挟む
知らせを受けて劉と医師の鄧、それに真田までもが一緒に病院に駆け付けたが、そこで初めて周がいないことを知って一同は蒼白となった。二人を救助した救急隊員の話では、通報を受けて駆け付けた時には既に周は居なかったということだ。
何が起こったのか状況を知ろうにも肝心の李と運転手は未だ意識不明の状態だ。命に別状はないとのことで、それだけは安堵したものの、周に何かあったことは間違いない。
「拉致を疑うべきかも知れません……。冰さん、すぐに鐘崎組へ連絡を! それから我々は事故のあったという現場へ急ぎましょう!」
もしかしたら何かの手掛かりが掴めるかも知れない。医師の鄧の提案で、病院での付き添いには真田に残ってもらうことにして一同は現場へと向かった。
時刻は既に未明である。車通りの少ない時間帯ということもあってか、現場にはまだ事故車両が残っており、警察へと運ばれる前であった。冰自身も普段周と共に乗っている高級車のフロント部分が無惨にも潰れているのを目の当たりにして、背筋が凍りつく。
ぶつかった相手は大型のトラックだ。いかに頑丈な高級車といえども、これが相手ではひとたまりもないだろう。現場には車だけが乗り捨てられていて、運転手以下同乗者がいたかどうかも分からないという。分かっているのは犯人は逃げてしまって、今現在も行方が掴めていないという事実だけだ。
次第に膝が笑い出し、その場で立っていることもやっとといった調子の冰を支えるようにして鄧が警察官に事情を訊いていた。
しばらくして鐘崎が紫月と組の若い衆ら数名を伴って現場へと駆け付けてくれた。彼らの顔を見た瞬間に一気に気が緩んだわけか、冰の瞳からは溢れんばかりの涙がこぼれ落ちた。そんな彼を抱き包むようにして紫月が宥める傍らで、鐘崎が迅速に対応策を巡らせてくれていた。
「来る途中に警視庁の丹羽に連絡を入れておいた。ヤツもすぐに合流してくれるそうだ」
鐘崎の話では事故車両を警察が回収してしまう前に自分たちで車内に残っている痕跡などを調べたかった為、丹羽への協力を仰いだということだった。彼がいればある程度の自由は利くだろうからだ。仮に周が拉致に遭ったと考えて、警察に任せているだけでは行方が追い切れないとの思いからである。
丹羽もまたそんな鐘崎の考えが読めていたようで、到着するとすぐに車内を調べられるよう手を回してくれたのは有り難かった。
「大型トラックで体当たりして運転手と助手席を潰したっていうわけか……。目的はやはり氷川だろうな。氷川が後部座席に乗っていることを知っていての犯行と思われる」
「鐘崎、犯人に心当たりがあるか?」
丹羽が訊く。
「手口から見て同業者の可能性が高いと思われるが……」
「ということは周の実家の関係者ってことか」
「断言はできんが、ほぼ間違いねえだろうな。最初に駆け付けた警官の話によると、事故があってから通報までの間に少々タイムラグがあったようなんだが、その理由が気に掛かる。事故を目撃した通行人の話だと、既に救急車が来ていて担架で怪我人を運んでいたそうだ」
何が起こったのか状況を知ろうにも肝心の李と運転手は未だ意識不明の状態だ。命に別状はないとのことで、それだけは安堵したものの、周に何かあったことは間違いない。
「拉致を疑うべきかも知れません……。冰さん、すぐに鐘崎組へ連絡を! それから我々は事故のあったという現場へ急ぎましょう!」
もしかしたら何かの手掛かりが掴めるかも知れない。医師の鄧の提案で、病院での付き添いには真田に残ってもらうことにして一同は現場へと向かった。
時刻は既に未明である。車通りの少ない時間帯ということもあってか、現場にはまだ事故車両が残っており、警察へと運ばれる前であった。冰自身も普段周と共に乗っている高級車のフロント部分が無惨にも潰れているのを目の当たりにして、背筋が凍りつく。
ぶつかった相手は大型のトラックだ。いかに頑丈な高級車といえども、これが相手ではひとたまりもないだろう。現場には車だけが乗り捨てられていて、運転手以下同乗者がいたかどうかも分からないという。分かっているのは犯人は逃げてしまって、今現在も行方が掴めていないという事実だけだ。
次第に膝が笑い出し、その場で立っていることもやっとといった調子の冰を支えるようにして鄧が警察官に事情を訊いていた。
しばらくして鐘崎が紫月と組の若い衆ら数名を伴って現場へと駆け付けてくれた。彼らの顔を見た瞬間に一気に気が緩んだわけか、冰の瞳からは溢れんばかりの涙がこぼれ落ちた。そんな彼を抱き包むようにして紫月が宥める傍らで、鐘崎が迅速に対応策を巡らせてくれていた。
「来る途中に警視庁の丹羽に連絡を入れておいた。ヤツもすぐに合流してくれるそうだ」
鐘崎の話では事故車両を警察が回収してしまう前に自分たちで車内に残っている痕跡などを調べたかった為、丹羽への協力を仰いだということだった。彼がいればある程度の自由は利くだろうからだ。仮に周が拉致に遭ったと考えて、警察に任せているだけでは行方が追い切れないとの思いからである。
丹羽もまたそんな鐘崎の考えが読めていたようで、到着するとすぐに車内を調べられるよう手を回してくれたのは有り難かった。
「大型トラックで体当たりして運転手と助手席を潰したっていうわけか……。目的はやはり氷川だろうな。氷川が後部座席に乗っていることを知っていての犯行と思われる」
「鐘崎、犯人に心当たりがあるか?」
丹羽が訊く。
「手口から見て同業者の可能性が高いと思われるが……」
「ということは周の実家の関係者ってことか」
「断言はできんが、ほぼ間違いねえだろうな。最初に駆け付けた警官の話によると、事故があってから通報までの間に少々タイムラグがあったようなんだが、その理由が気に掛かる。事故を目撃した通行人の話だと、既に救急車が来ていて担架で怪我人を運んでいたそうだ」
11
お気に入りに追加
867
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】
NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生
SNSを開設すれば即10万人フォロワー。
町を歩けばスカウトの嵐。
超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。
そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。
愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる