極道恋事情

一園木蓮

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孤高のマフィア

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「ご覧の通りです。犯人はこの方に刃物を突き付けて怪我を負わせました。幸い我々の方もある程度人数がいたので、すぐに助けに入ることができて大事には至りませんでしたが、一歩間違えば命にかかわるところでしたよ。この程度の怪我で済んだのは奇跡としか言いようがありませんね」
 穏やかではあるが厳しい言葉といえる。警官たちは焦燥感いっぱいの表情ながらも、真田の容態と犯人のことを訊いてよこした。
「それで……犯人は……」
「救急車はお呼びになられましたか?」
 そう訊きながらも、鄧が着物の上から白衣を纏っていたので医者であることは分かったようだ。
「この場での処置は済みましたので救急車は必要ありません。あとは私の病院に戻ってから適切に治療致します。犯人のこともご心配なく。我々で捕えております」
 言葉じりは至って丁寧ではあるが、警官たちにとっては痛い言葉といえる。
「とにかく経緯をご説明しましょう」
 鄧は彼らを現場へと誘うと、周らが香山と対峙する時間を稼いだのだった。

 一方、周らの方では人目を避けた木立ちの陰へと香山を連れていき、これまでの落とし前の最中であった。険しい表情の男たちに囲まれて香山はガタガタと身を震わせている。
「ひ、氷川さん……ゆ、許してください……! 俺は決してあのじいさんを傷付けるつもりなんかなくて……本当にたまたま刃が当たってしまっただけで……」
 周はもとより隼も風も取り立てて声を荒げるわけでもなければ脅しの言葉を発したわけでもない。だが、ただ囲まれているだけで言いようのない恐怖が湧き上がるというか、怖くて視線も合わせられないほどなのである。先程小馬鹿にされた時とはまるで雰囲気が違う様子にも戸惑いを隠せない。発するオーラがビリビリとした気迫に満ちていて、縮み上がらずにはいられないといったところなのだ。
「あの……氷川さん……? この人たちはいったい……」
 耐え切れずに香山が周にすがるような表情で問い掛ける。それに答えたのは父の隼だった。
「名乗る必要はねえ。世の中には知らない方が幸せなこともあるのだということを覚えておけ」
 冷ややかに言われたと同時に後方から風に襟首を掴み上げられて、前方からは周の重い拳が鳩尾に見舞われる。
「……ぅぐぁ……!」
 前のめりになって草むらに崩れ落ちる間もなく今度は勢いよく蹴り上げられて、香山の身体は数メートルほどすっ飛んだ。
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