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孤高のマフィア
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『周か!? 今は家か? 会社か?』
ろくに挨拶もなしで緊張気味の声がスマートフォンの向こうで訊く。
「えらく藪から棒だな。今は外だ。ちょうど屋形船での花見を終えたところだが――」
周が電話に出た時はちょうど下船し終わって、鐘崎と共に船主に御礼の挨拶を述べながら雑談をしていた最中だった。他の皆は船を降りた順から迎えの車が待っている通り沿いまで歩きがてら、河岸の桜の前で記念撮影などを行っていた。
周と鐘崎の父親たちと源次郎などは息子と共に船宿のスタッフや船頭らと世間話をしていたが、紫月と冰は母親の香蘭と姉の美紅たちと記念撮影で盛り上がっていて、執事の真田がシャッター係を引き受けたりしながら、先に車までの道のりを散歩していたようだ。つまり、夫婦は旦那同士・嫁同士といった具合で離れた位置にいた。
電話の向こうでは丹羽が何やら慌てた調子だったので、周はすぐさま通話をスピーカーへと切り替えた。緊急事態であるなら側にいる鐘崎らにも直に聞いてもらった方が話が早いからだ。
『たった今、福岡県警から連絡があった。香山が姿を消したそうだ』
「何……ッ!? どういうことだ! ヤツはまだ勾留中じゃねえのか!?」
今は県警が事情聴取をしているはずである。まさかだが、脱走されたとでもいうのだろうか。だとすれば不手際にもほどがある。だがそうではなかったらしい。
丹羽の話では、香山が今回の件を拉致犯の男らに依頼したという明確な証拠が掴めなかった為、一旦は家へ帰し、交代で見張りの刑事を二人ずつつけていたというのだが、今朝方再び聴取に香山宅を訪れたところ、もぬけの空だったというのだ。家に人の気配はなく、本人はもちろんのこと女房子供も不在とのことだった。連絡が今になったのは、慌てた県警が独自に捜して歩いていたからだそうだ。
「バカを抜かしてんじゃねえ! 香山が家へ帰されたなんぞ俺は聞いてねえぞ!」
さすがに周が声を荒げたが、丹羽のところへすら報告が上がってきていなかったのだから仕方がない。
『現在鉄道各社とフェリーや空路の方でも香山の足取りがないかどうか洗っているそうだが、万が一お前らの前に姿を現すかも知れない。十分に注意して欲しい!』
丹羽はこれからすぐに所轄の警察官を周らのいる船宿に向かわせると言った。
『俺も駆け付けるが、今は練馬だ。少々時間が掛かる』
警視庁内に居ればまだ早かっただろうが、練馬というなら車で飛ばしてもすぐとはいかないだろう。注意喚起の為にとにかくは電話で知らせてよこしたというのだ。
「話は分かった。もしも香山が俺の前に姿を現したならば、こちらで処理させてもらうぞ」
周の声音はむろんのこと、その意味は重い。県警の見張りがついていたにも関わらず撒かれたというなら、丹羽も周を責められる立場ではない。だからといって報復などを容認できるとは言い難い。彼にとっても難しい立場なのだ。
『周、気持ちは解る。我々の不手際も謝罪せねばならんが、とにかく……俺が行くまで滅多なことは考えてくれるな』
それだけ告げると通話は切られた。
ろくに挨拶もなしで緊張気味の声がスマートフォンの向こうで訊く。
「えらく藪から棒だな。今は外だ。ちょうど屋形船での花見を終えたところだが――」
周が電話に出た時はちょうど下船し終わって、鐘崎と共に船主に御礼の挨拶を述べながら雑談をしていた最中だった。他の皆は船を降りた順から迎えの車が待っている通り沿いまで歩きがてら、河岸の桜の前で記念撮影などを行っていた。
周と鐘崎の父親たちと源次郎などは息子と共に船宿のスタッフや船頭らと世間話をしていたが、紫月と冰は母親の香蘭と姉の美紅たちと記念撮影で盛り上がっていて、執事の真田がシャッター係を引き受けたりしながら、先に車までの道のりを散歩していたようだ。つまり、夫婦は旦那同士・嫁同士といった具合で離れた位置にいた。
電話の向こうでは丹羽が何やら慌てた調子だったので、周はすぐさま通話をスピーカーへと切り替えた。緊急事態であるなら側にいる鐘崎らにも直に聞いてもらった方が話が早いからだ。
『たった今、福岡県警から連絡があった。香山が姿を消したそうだ』
「何……ッ!? どういうことだ! ヤツはまだ勾留中じゃねえのか!?」
今は県警が事情聴取をしているはずである。まさかだが、脱走されたとでもいうのだろうか。だとすれば不手際にもほどがある。だがそうではなかったらしい。
丹羽の話では、香山が今回の件を拉致犯の男らに依頼したという明確な証拠が掴めなかった為、一旦は家へ帰し、交代で見張りの刑事を二人ずつつけていたというのだが、今朝方再び聴取に香山宅を訪れたところ、もぬけの空だったというのだ。家に人の気配はなく、本人はもちろんのこと女房子供も不在とのことだった。連絡が今になったのは、慌てた県警が独自に捜して歩いていたからだそうだ。
「バカを抜かしてんじゃねえ! 香山が家へ帰されたなんぞ俺は聞いてねえぞ!」
さすがに周が声を荒げたが、丹羽のところへすら報告が上がってきていなかったのだから仕方がない。
『現在鉄道各社とフェリーや空路の方でも香山の足取りがないかどうか洗っているそうだが、万が一お前らの前に姿を現すかも知れない。十分に注意して欲しい!』
丹羽はこれからすぐに所轄の警察官を周らのいる船宿に向かわせると言った。
『俺も駆け付けるが、今は練馬だ。少々時間が掛かる』
警視庁内に居ればまだ早かっただろうが、練馬というなら車で飛ばしてもすぐとはいかないだろう。注意喚起の為にとにかくは電話で知らせてよこしたというのだ。
「話は分かった。もしも香山が俺の前に姿を現したならば、こちらで処理させてもらうぞ」
周の声音はむろんのこと、その意味は重い。県警の見張りがついていたにも関わらず撒かれたというなら、丹羽も周を責められる立場ではない。だからといって報復などを容認できるとは言い難い。彼にとっても難しい立場なのだ。
『周、気持ちは解る。我々の不手際も謝罪せねばならんが、とにかく……俺が行くまで滅多なことは考えてくれるな』
それだけ告げると通話は切られた。
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