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孤高のマフィア
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「クソ……ッ、やられた! サツのガサ入れかよ……!?」
愛莉の男がすかさず逃げようとしたが、すぐ側にいた鐘崎に腕を捻り上げられてしまい、
「痛ててててっ! ちょ……ッ、放せって! マジで腕ちぎれる……!」
仰け反りながら泣き言を口にする。
「案ずるな。この程度じゃ千切れはせん」
軽くあしらわれて、ガックリと肩を落とす。店内にいた他の連中も丹羽が連れてきた刑事たちによって次々とお縄にされていった。
その様子を呆然と見つめながら、未だに椅子から立ち上がれずにいる冰を庇うようにして周の広い背中がマフィアたちとの間に壁を作る。誰の助けも望めない孤独の中で必死に演技を繕ってきた緊張の糸が、愛しい亭主の顔を見た瞬間にゆるみ、力が入らなくなってしまったのだ。素の自分に戻るにはある程度時間が必要なのである。
そんな伴侶のことをよくよく理解している周もまた、気の毒な目に遭わせてしまったことを心から憂いながらも、精一杯独りで闘い抜いた勇姿を何よりも尊重し、ここから先は自らが全力で守ってやろうと思うのだった。
目の前では既に縮み上がっているマフィア連中に一瞥をくれながらも、静かだが地鳴りのするような圧を伴った声音で問い掛ける。
[他所の国のことにはとやかく言うつもりはねえが、香港から来たというてめえだが――。こういうことは頻繁に行なっているわけか?]
つまり、人身売買のような取引のことを訊いたのだ。
[こ、こういうことって……]
[今の話じゃこいつを売り買いするような話向きだったな。我々ファミリーはそんなことを許可した覚えはねえぞ。本国での属はどこか知らんが、仮にも周直下を名乗っている者がファミリーに隠れてこんなことを行っているなら言語道断だ。しかもてめえが売り買いしようとしていたのは俺の嫁だ。それがどういうことを意味するか分からねえほどの間抜けじゃあるまい]
[ファ、ファミリー……嫁って……そ、そんなの聞いてな……ってか、知らなくて! 俺はただの一般人だっていうから話に乗っただけで……ボ、ボ、ボスの為に少しでも役に立てればと思っただけです! まさかこの若……]
若僧がと言い掛けて、慌てて言い直した。
[いえ、この人が本当にファミリーのご関係者だなんて全く知らなかったんです!]
[知っていようがいまいがこいつを売り買いしようとしていたのは事実だ。言い逃れはできねえぞ]
[……そんな……! あ、あなたは……まさか……]
[周焔。てめえがさっき言っていた息子だ]
[周……焔……ッ!?]
やっぱり――! と半狂乱で声を裏返し、男は腰を抜かしたように脚をもつれさせながら後退ると、その場に屈み込んで頭を床に突っ伏してしまった。
白龍の刺青を見せられてまさかとは思ったものの、本当に本人が現れるとは思ってもみなかった。会ったこともなければ姿さえ見たこともない、ただその名だけは耳にしていたファミリーのトップを目の前にしてパニック状態に陥ったのだ。しかも初めて触れるそのオーラは、仮に素性を知らずともただそこに立っているだけで一歩二歩と後退りたくなるような圧が全身からビリビリと感じられる。それだけでも蒼白ものだが、加えて秘密裏の人身売買などに首を突っ込んで、しかもその相手が頭領の息子の嫁だったとあっては、もう生きた心地すらしない。ここにきて男はようやくとボスの次男坊が同性の伴侶を娶ったという噂を思い出したわけか、更に蒼白となったようであった。しばらくは土下座状態のまま、顔すら上げることができなかった。
[とりあえずこの国の法にしたがって縛につくことは覚悟しろ。その後で我がファミリーから制裁があるものと思っておけ]
[は、ははぁーーー!]
ますます身を縮めて土下座を繰り返す男を他の制圧を終えた丹羽が自らやって来てお縄をくれ、闇カジノは幕引きとされたのだった。
愛莉の男がすかさず逃げようとしたが、すぐ側にいた鐘崎に腕を捻り上げられてしまい、
「痛ててててっ! ちょ……ッ、放せって! マジで腕ちぎれる……!」
仰け反りながら泣き言を口にする。
「案ずるな。この程度じゃ千切れはせん」
軽くあしらわれて、ガックリと肩を落とす。店内にいた他の連中も丹羽が連れてきた刑事たちによって次々とお縄にされていった。
その様子を呆然と見つめながら、未だに椅子から立ち上がれずにいる冰を庇うようにして周の広い背中がマフィアたちとの間に壁を作る。誰の助けも望めない孤独の中で必死に演技を繕ってきた緊張の糸が、愛しい亭主の顔を見た瞬間にゆるみ、力が入らなくなってしまったのだ。素の自分に戻るにはある程度時間が必要なのである。
そんな伴侶のことをよくよく理解している周もまた、気の毒な目に遭わせてしまったことを心から憂いながらも、精一杯独りで闘い抜いた勇姿を何よりも尊重し、ここから先は自らが全力で守ってやろうと思うのだった。
目の前では既に縮み上がっているマフィア連中に一瞥をくれながらも、静かだが地鳴りのするような圧を伴った声音で問い掛ける。
[他所の国のことにはとやかく言うつもりはねえが、香港から来たというてめえだが――。こういうことは頻繁に行なっているわけか?]
つまり、人身売買のような取引のことを訊いたのだ。
[こ、こういうことって……]
[今の話じゃこいつを売り買いするような話向きだったな。我々ファミリーはそんなことを許可した覚えはねえぞ。本国での属はどこか知らんが、仮にも周直下を名乗っている者がファミリーに隠れてこんなことを行っているなら言語道断だ。しかもてめえが売り買いしようとしていたのは俺の嫁だ。それがどういうことを意味するか分からねえほどの間抜けじゃあるまい]
[ファ、ファミリー……嫁って……そ、そんなの聞いてな……ってか、知らなくて! 俺はただの一般人だっていうから話に乗っただけで……ボ、ボ、ボスの為に少しでも役に立てればと思っただけです! まさかこの若……]
若僧がと言い掛けて、慌てて言い直した。
[いえ、この人が本当にファミリーのご関係者だなんて全く知らなかったんです!]
[知っていようがいまいがこいつを売り買いしようとしていたのは事実だ。言い逃れはできねえぞ]
[……そんな……! あ、あなたは……まさか……]
[周焔。てめえがさっき言っていた息子だ]
[周……焔……ッ!?]
やっぱり――! と半狂乱で声を裏返し、男は腰を抜かしたように脚をもつれさせながら後退ると、その場に屈み込んで頭を床に突っ伏してしまった。
白龍の刺青を見せられてまさかとは思ったものの、本当に本人が現れるとは思ってもみなかった。会ったこともなければ姿さえ見たこともない、ただその名だけは耳にしていたファミリーのトップを目の前にしてパニック状態に陥ったのだ。しかも初めて触れるそのオーラは、仮に素性を知らずともただそこに立っているだけで一歩二歩と後退りたくなるような圧が全身からビリビリと感じられる。それだけでも蒼白ものだが、加えて秘密裏の人身売買などに首を突っ込んで、しかもその相手が頭領の息子の嫁だったとあっては、もう生きた心地すらしない。ここにきて男はようやくとボスの次男坊が同性の伴侶を娶ったという噂を思い出したわけか、更に蒼白となったようであった。しばらくは土下座状態のまま、顔すら上げることができなかった。
[とりあえずこの国の法にしたがって縛につくことは覚悟しろ。その後で我がファミリーから制裁があるものと思っておけ]
[は、ははぁーーー!]
ますます身を縮めて土下座を繰り返す男を他の制圧を終えた丹羽が自らやって来てお縄をくれ、闇カジノは幕引きとされたのだった。
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