極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
637 / 1,212
孤高のマフィア

60

しおりを挟む
「クソ……ッ、やられた! サツのガサ入れかよ……!?」
 愛莉の男がすかさず逃げようとしたが、すぐ側にいた鐘崎に腕を捻り上げられてしまい、
「痛ててててっ! ちょ……ッ、放せって! マジで腕ちぎれる……!」
 仰け反りながら泣き言を口にする。
「案ずるな。この程度じゃ千切れはせん」
 軽くあしらわれて、ガックリと肩を落とす。店内にいた他の連中も丹羽が連れてきた刑事たちによって次々とお縄にされていった。
 その様子を呆然と見つめながら、未だに椅子から立ち上がれずにいる冰を庇うようにして周の広い背中がマフィアたちとの間に壁を作る。誰の助けも望めない孤独の中で必死に演技を繕ってきた緊張の糸が、愛しい亭主の顔を見た瞬間にゆるみ、力が入らなくなってしまったのだ。素の自分に戻るにはある程度時間が必要なのである。
 そんな伴侶のことをよくよく理解している周もまた、気の毒な目に遭わせてしまったことを心から憂いながらも、精一杯独りで闘い抜いた勇姿を何よりも尊重し、ここから先は自らが全力で守ってやろうと思うのだった。
 目の前では既に縮み上がっているマフィア連中に一瞥をくれながらも、静かだが地鳴りのするような圧を伴った声音で問い掛ける。
[他所の国のことにはとやかく言うつもりはねえが、香港から来たというてめえだが――。こういうことは頻繁に行なっているわけか?]
 つまり、人身売買のような取引のことを訊いたのだ。
[こ、こういうことって……]
[今の話じゃこいつを売り買いするような話向きだったな。我々ファミリーはそんなことを許可した覚えはねえぞ。本国での属はどこか知らんが、仮にも周直下を名乗っている者がファミリーに隠れてこんなことを行っているなら言語道断だ。しかもてめえが売り買いしようとしていたのは俺の嫁だ。それがどういうことを意味するか分からねえほどの間抜けじゃあるまい]
[ファ、ファミリー……嫁って……そ、そんなの聞いてな……ってか、知らなくて! 俺はただの一般人だっていうから話に乗っただけで……ボ、ボ、ボスの為に少しでも役に立てればと思っただけです! まさかこの若……]
 若僧がと言い掛けて、慌てて言い直した。
[いえ、この人が本当にファミリーのご関係者だなんて全く知らなかったんです!]
[知っていようがいまいがこいつを売り買いしようとしていたのは事実だ。言い逃れはできねえぞ]
[……そんな……! あ、あなたは……まさか……]
[周焔。てめえがさっき言っていた息子だ]
[周……焔……ッ!?]
 やっぱり――! と半狂乱で声を裏返し、男は腰を抜かしたように脚をもつれさせながら後退ると、その場に屈み込んで頭を床に突っ伏してしまった。
 白龍の刺青を見せられてまさかとは思ったものの、本当に本人が現れるとは思ってもみなかった。会ったこともなければ姿さえ見たこともない、ただその名だけは耳にしていたファミリーのトップを目の前にしてパニック状態に陥ったのだ。しかも初めて触れるそのオーラは、仮に素性を知らずともただそこに立っているだけで一歩二歩と後退りたくなるような圧が全身からビリビリと感じられる。それだけでも蒼白ものだが、加えて秘密裏の人身売買などに首を突っ込んで、しかもその相手が頭領の息子の嫁だったとあっては、もう生きた心地すらしない。ここにきて男はようやくとボスの次男坊が同性の伴侶を娶ったという噂を思い出したわけか、更に蒼白となったようであった。しばらくは土下座状態のまま、顔すら上げることができなかった。
[とりあえずこの国の法にしたがって縛につくことは覚悟しろ。その後で我がファミリーから制裁があるものと思っておけ]
[は、ははぁーーー!]
 ますます身を縮めて土下座を繰り返す男を他の制圧を終えた丹羽が自らやって来てお縄をくれ、闇カジノは幕引きとされたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】

NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生 SNSを開設すれば即10万人フォロワー。 町を歩けばスカウトの嵐。 超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。 そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。 愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

処理中です...