極道恋事情

一園木蓮

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孤高のマフィア

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 先程のディーラーは既に男の手下たちによってフロアから連れ出されたので、騒ぎは一旦収まったのだが、今度は冰と里恵子の売買に関する争奪戦で静かな睨み合いが始まってしまった。未だポーカーのテーブルに座ったままでいた冰の周りには、我先に取り入らんとマフィアたちが取り囲んでは次々と話し掛けてくるという異様な事態に陥っていった。事務所に場所を移すどころか、冰の側を離れたら負けだとばかりの勢いなのだ。
 これではさすがに逃げられない。――とすればまた別の手段に持ち込むしかない。冰は瞬時にタクシーでの逃走計画を諦めると、次の手を考え始めたのだった。
「あんた、大した腕だな! ポーカーは初めてとか言っていたが、ありゃ嘘だろうが。俺もこの道じゃ長えが、あんたほどの腕と度胸を持ったヤツは見たことがねえ。是非ともウチに来ちゃくれねえか? 本国に帰ればそりゃあ丁重に扱わせてもらうぜ!」
 一人が冰の肩を抱きながら猛アピールを口にする。よその組織に売られれば、色を売らされたり臓器を売り飛ばされたりするかも知れないが、自分のところに来てくれればそんな滅多な扱いは絶対にしないからと強調しているわけだ。それを聞いていた他のマフィアたちも負けてなるものかといったふうに、次々と甘い誘い文句を繰り出しては、冰を真ん中に挟んでの睨み合いとなっていった。
「ちょ、ちょっと旦那方、待ってくだせえよ……。この話はなかったことにって……」
 愛莉の男が横から割って入ろうにもギッと睨みを据えた眼力だけで、『うるせえ、てめえはすっこんでろ!』と、まるで取り合ってはもらえない。体格的にも筋肉質で、腕力では敵わなさそうな屈強な男たちが相手では、この場は諦めるしかない。他の客たちもさすがにマフィア連中とは関わり合いになりたくはないわけか、そそくさと自分たちのテーブルへと戻って行き、何事もなかったかのようにゲームの続きに興じ始める。あっという間に冰のいるテーブルは閑散となってしまった。
「ところであんた、さっきはいったい何をどうやったってんだ? あんたにゃディーラーのカードが全部読めていたようだが、あんな勝負は見たことがねえ。誘い口も見事なもんだった!」
「はぁ……それはどうも、恐縮です」
「俺のいる組織でもカジノを運営していてな。香港じゃ右に出る店はねえってほどの超一流どころだが、例えウチのディーラーでもあんたとは勝負にならねえかも知れねえと思ったぜ?」
「香港のカジノですか……。それではあなたは香港からいらしたのですか?」
 ということは、このマフィアは周ファミリーの組織とも全くの無関係ではないということだろうか。ひょっとすると本当にファミリーの一員かも知れない。
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