627 / 1,212
孤高のマフィア
50
しおりを挟む
冰は相変わらずに咥えタバコで紫煙を燻らせながらも渡されたカードを手に取ると、なるほど流麗な仕草でそれを扱ってみせた。一本目の煙草は既に吸い終わっていたのだが、隣にいた客が気を利かせるように新しい一本を差し出してよこしたのだ。言うまでもなく、先程よりも丁寧な仕草でジッポライターを点すオマケ付きである。その厚意を当たり前のように受けながらも上品に会釈をする仕草自体にも、周囲のギャラリーの目は興味をそそられているようだ。
むろんのこと単純な興味で見ている者もいれば、中には胡散臭いとおもむろに敵視する様子の者もいる。
それらをものともせずに冰は台の上でカードを開き、一瞬で閉じる。手の中では扇状に開いたかと思えば滝が流れ落ちるような見事な捌きでカードを自在に操ってから目にも止まらない速さで束ねて数回シャッフルを繰り返すと、寸分違わずというくらい綺麗に揃えたカードの山をディーラーへと差し出した。
流麗な仕草の一部始終はそれを見られただけで満足といえるほどの完璧な神技だ。対戦中ということを忘れ、マジックでも始まるのかというような心持ちにさせられる。客たちはもっと見ていたいというように身を乗り出しては、テーブル全体がうっとりとした溜め息であふれかえっていった。
「ありがとう。たいへん満足しましたよ。ではお約束通り次で勝負と参りましょう」
そう言いながら灰皿の上で煙草をひねり消す。指先の一挙手一投足までがいちいち美しく、ギャラリーたちは冰が動くだけで視線を釘付けにさせられている。まるでフロアにいる全員が冰に加担するとでも言わんばかりの異様な重圧の中、ディーラーは震える手でカードを配り終えた。
「それで……どうされる。まさかだが、また降りるというのだけはご勘弁願いたいね」
「ご心配なく。僕は約束を違えるようなことはしませんよ。お付き合いいただくのはこれで最後です」
「……だったらいいが……」
「うん、そうだね。それじゃ一枚もらおうかな。やっぱりね、ポーカーというからには一度くらいはカードのチェンジもしなきゃ面白味がありませんからね」
「……ッ、分かった」
ぎこちない滑り方でカードの山札から一枚が冰の目の前に届けられる。揃った目はダイヤのフラッシュであった。
「うん、いいね! それじゃ勝負と参りましょう」
冰がにこやかに微笑んでカードを開くと、それを目にしたディーラーはホッとしたように肩を落とした。そして次の瞬間にはようやくと自信を取り戻したわけか、勝ち誇ったように自らもカードを裏返しながらこう言った。
「フルハウス。残念ながら勝負は私の勝――」
勝ちですねと言い掛けて、思わず「ヒッ!」と喉を詰まらせた。
「なに……ッ!?」
まるで急転直下の七面鳥のごとくみるみると血の気が引いてゆき、見開かれた目には真っ赤な血管の筋までが浮き出る勢いで棒立ちとなる。フルハウスになるはずだったカードは一枚が欠けたことによりただのスリーカードとなってしまっていたからだ。
むろんのこと単純な興味で見ている者もいれば、中には胡散臭いとおもむろに敵視する様子の者もいる。
それらをものともせずに冰は台の上でカードを開き、一瞬で閉じる。手の中では扇状に開いたかと思えば滝が流れ落ちるような見事な捌きでカードを自在に操ってから目にも止まらない速さで束ねて数回シャッフルを繰り返すと、寸分違わずというくらい綺麗に揃えたカードの山をディーラーへと差し出した。
流麗な仕草の一部始終はそれを見られただけで満足といえるほどの完璧な神技だ。対戦中ということを忘れ、マジックでも始まるのかというような心持ちにさせられる。客たちはもっと見ていたいというように身を乗り出しては、テーブル全体がうっとりとした溜め息であふれかえっていった。
「ありがとう。たいへん満足しましたよ。ではお約束通り次で勝負と参りましょう」
そう言いながら灰皿の上で煙草をひねり消す。指先の一挙手一投足までがいちいち美しく、ギャラリーたちは冰が動くだけで視線を釘付けにさせられている。まるでフロアにいる全員が冰に加担するとでも言わんばかりの異様な重圧の中、ディーラーは震える手でカードを配り終えた。
「それで……どうされる。まさかだが、また降りるというのだけはご勘弁願いたいね」
「ご心配なく。僕は約束を違えるようなことはしませんよ。お付き合いいただくのはこれで最後です」
「……だったらいいが……」
「うん、そうだね。それじゃ一枚もらおうかな。やっぱりね、ポーカーというからには一度くらいはカードのチェンジもしなきゃ面白味がありませんからね」
「……ッ、分かった」
ぎこちない滑り方でカードの山札から一枚が冰の目の前に届けられる。揃った目はダイヤのフラッシュであった。
「うん、いいね! それじゃ勝負と参りましょう」
冰がにこやかに微笑んでカードを開くと、それを目にしたディーラーはホッとしたように肩を落とした。そして次の瞬間にはようやくと自信を取り戻したわけか、勝ち誇ったように自らもカードを裏返しながらこう言った。
「フルハウス。残念ながら勝負は私の勝――」
勝ちですねと言い掛けて、思わず「ヒッ!」と喉を詰まらせた。
「なに……ッ!?」
まるで急転直下の七面鳥のごとくみるみると血の気が引いてゆき、見開かれた目には真っ赤な血管の筋までが浮き出る勢いで棒立ちとなる。フルハウスになるはずだったカードは一枚が欠けたことによりただのスリーカードとなってしまっていたからだ。
12
お気に入りに追加
878
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる