極道恋事情

一園木蓮

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孤高のマフィア

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 驚いたのはディーラーだ。何故自分のストレートフラッシュが見破られているのかと、瞬時に顔面蒼白となる。
「き、貴様……いったい……」
 まさかイカサマが見抜かれたとでもいうのか。ディーラーは一瞬で身に付けているシャツがべっとりと肌に付くくらいの大汗にまみれてしまった。
「いかがです? もしもよろしければですが、今度は”親”を交代しませんか?」
「……なん……だと? アンタね、親を交代とか……マジでガキの遊びじゃねんだ! あんましふざけてやがると……」
「お気を悪くされたのなら謝ります。ですが、僕が子供の頃に家族とやっていたポーカーでは、親は交代で皆んなが順繰り順繰りやったものです」
 空っとぼけたというには過ぎるくらいの歯に絹着せぬ物言いに、周りで見ているギャラリーたちもさすがにザワザワとし出す。
「その代わり――次は必ず勝負させていただくと約束しますよ。何でしたら親は交代しなくても構いません。ただ僕にも一度くらいカードを切らせていただきたいなぁ。これでもカード捌きには自信があるのですよ。こういったカジノで遊ぶなんて滅多にないことですからね。楽しくてワクワクしているのです。我が侭を聞いていただけるならもっとミニマムを上げていただいても構いませんよ?」
 言葉じりは丁寧だが、チラリと上目遣いの視線は刺すように鋭い。しかもほんの一瞬のことで、ハタと視線を合わせたその瞬間にはごくごく柔和な表情に戻っている。射貫かれんばかりのその視線は果たして現実なのか、それとも自身の恐怖心が生み出した幻か――。額から頬から滝のように流れる汗を拭うこともできずに、ディーラーは硬直状態に陥ってしまった。
 仮にイカサマが見破られていたとしても、大勢のギャラリーの前でこう出られては断ることもままならない。今の勝負を見ていた者たちに対して、あからさまにイカサマだと言われたようなものだからだ。案の定、疑うような目つきでギャラリーたちが棘を持ち出した雰囲気がビリビリと伝わってきた。
 闇カジノだけあって、ここに来る客は殆どがイチモツ含んでいそうなただならぬ連中ばかりだ。日常的にイカサマを行っていたなどと知れては気性の荒い輩たちに何をされるか分かったものじゃない。
 濡れ衣――まあ本来ならば濡れ衣とはいえないのだが――それを晴らす為にもこの申し出を蹴るわけにはいかなかった。
「い、いいだろう……。受けて立つ……」
 ディーラーがカードの束を冰へと向けて差し出すと、広いフロアのギャラリーたちが水を打ったように静まり返った。

 こんなことは前代未聞といえる。

 新参の客のめちゃくちゃな言い分に乗せられてディーラーが汗だくになっているのはもちろんのこと、有無を言わせぬ図々しい態度がいったい何者なのだろうと興味を掻き立てる。いつの間に集まったのか、他のテーブルに着いていた客たちもほぼ全てが冰らの元へと集まって来ていて、あっという間に黒山の人だかりができてしまっていた。
 別部屋の事務所内でモニターしていた愛莉の男たちもフロアへと駆け付けて、カードゲームのテーブルはまるでマフィアか大物政治家同士の緊張下でのトップ会談のような雰囲気に包まれていった。
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