極道恋事情

一園木蓮

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孤高のマフィア

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 察するに、その闇カジノとやらに大陸からのマフィアと称する面々も出入りしていると思われる。男が何故そんなところで遊ばせてやると言うのか真意の程は知れないが、もしかしたらそこで自分たちが品定めをされるようなことも兼ねているのだろうかと想像できた。
 しかし闇とはいえどカジノであるなら冰にとっては棚から牡丹餅も同然のまたとない機会といえる。ここは有り難く男の厚意を受けるふりをして、ひとまずは言われた通り世話になることに決めたのだった。

 夜になると男が迎えにやって来て、冰は里恵子と共に闇カジノへと案内された。昼間聞いた通りにチップは用意されていて、どこでも好きなテーブルで遊んでいいと言われたが、さすがに闇――つまりは違法なだけあって、周ファミリーやマカオの張敏たちの店とは雰囲気がまったく違う。男が自慢するだけあって確かに規模的には大きいといえるが、薄暗い中に方々から立ち上る紫煙のせいでかフロアは靄がかかっているふうで、客も見るからに危なさそうな者ばかりだ。大陸からのマフィアが混じっていてもおかしくはない――というよりもそれで当然だろうと思わせる雰囲気だった。
「里恵子ママさん、絶対に俺の傍を離れないでください」
 冰は彼女の手を取って自分のベルトを掴ませると、さりげなくスーツの上着で隠してからゆっくりとフロア内を歩き出した。本来であれば里恵子はホテルに待機させておくべきだろうが、この状況で二人が離れ離れになるのはかえってまずい。互いに目の届く範囲で共にいた方が安全との判断であった。
 男と別れると、冰はなるべく目立たないように気を配りながらフロア内をザッと見渡して歩いた。客やディーラーの雰囲気を肌で感じとっていく為だ。亡き黄老人からしつこいほどに教え込まれた身の振り方のひとつ、その場その場で周囲に溶け込み、悪目立ちせず変幻自在の自分を作り出せという教示である。
 この雰囲気の中ではどう振る舞えば有利に持ち込めるかをいち早く掴み取って、それに合わせた人物像を演じていくわけだ。
 事実、ジゴロやヤサグレといったイチモツもニモツも含んでいそうな連中の中にあっては、素のままの冰など場にそぐわない坊々の優男にしか映らない。舐められて、ただ立っているだけでちょっかいを掛けられるか、悪くすれば憂さ晴らしに因縁でもつけられるのが目に見えている。まずは周囲からそのように見られない為にも、棘のある威圧的な印象を身にまとうことが必要不可欠だ。そう踏んだ冰はすぐさま自分の雰囲気を下卑た男へと変える演出に取り掛かったのだった。
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