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孤高のマフィア
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「なあ、あんた。銀座にはあんたが勤めてた頃の……同僚だったホステスの知り合いとかが居るんだろ? その人らに訊いてもらえないかな」
「訊くって何を?」
「氷川さんがそのママっていう人と実際はどんな関係なのかとか、例のガキがどういった経緯で秘書になったのかとか……どんなことでもいいんだ。氷川さんに関することならどんな小さなことでもいい!」
香山のあまりの必死さに愛莉は呆れてしまった。彼女自身も周こと氷川に対してはあまりいい印象を持っていないのは確かだし、ともすれば恨みめいた感情も無きにしにもあらずなわけだが、そんな愛莉からしてもこの香山という男の執着ぶりにはドン引きさせられるほどである。こうまで執拗に想われては、何だか”氷川社長”が気の毒にも思えてくるようだった。
「まあツテがないわけじゃないけどねぇ。でも氷川さんのことを知ってどうするつもりなの? 香山ちゃん、あなた確か奥さんもお子さんもいるんじゃなかった?」
愛莉から見ても香山は特に印象に残るほどのイイ男というわけでもないが、割合大きな文具店の御曹司で、今は父親を継いで専務という肩書きまで持っている男だ。金銭的には全く心配のない生活だろうし、世間一般からすれば羨ましい部類といえるだろう。子供もいると聞いているし、そんな立場の彼が同性である男に入れ上げたところで感心できないと思うのも正直なところなのだ。だが、香山自身はすっかりのぼせ上がってしまっているようで、もはや周囲が何を言ったところで聞く耳など持たない様子である。やんわりと苦言を呈した愛莉の言葉など右から左のようで、出てくる言葉は『氷川社長、氷川社長』と、ただそれ一点である。
「家族のことなんて関係ないんだ。そもそも女房だって俺のことが好きで結婚したわけじゃないし、親同士の仕事上の都合から見合いの話が持ち上がって仕方なく一緒になったってだけなんだ!」
「何バカなこと言ってんの! しっかりお子さんまでいるくせにさぁ。そんな言い方したら奥さんだってお気の毒じゃないの!」
「気の毒なもんか! 最近は何かにつけて小言ばっかり言いやがるし、それに俺は知ってんだ! あいつのスマホには昔付き合ってた男の連絡先がまだ残ってるってのをな」
「あら、嫌だ。奥さんのにスマフォを盗み見たりしてるの?」
無粋な男ねと愛莉は笑う。
「あいつだって密かに俺のスマホを見てるしな。お互い様だ。俺も女房もまだ若いし、いくらでもやり直すことができる歳さ! それより今はどうしても氷川さんのことが知りたいんだよ!」
これはもう何を言っても埒があかない、そう思った愛莉は適当に話を合わせて切り上げることにした。
「しようのない人ねぇ。分かったわ、とりあえず昔の仲間に聞くだけ聞いてみるけど、アタシだってそう長く銀座にいたわけじゃないしね。あんまり期待しないでよ」
「どんな小さなことでも情報があれば助かるよ。何もタダでとは言わない。もちろん相応の礼はさせてもらうから!」
すがるように両手を取ってそう言うと、香山はおぼつかない足取りで店を後にしていった。
「はぁ……何だかヘンな話向きになっちゃったわね」
さてどうしたものか。呆れ半分の溜め息をつきながら、愛莉もまた店じまいをして上がったのだった。
「訊くって何を?」
「氷川さんがそのママっていう人と実際はどんな関係なのかとか、例のガキがどういった経緯で秘書になったのかとか……どんなことでもいいんだ。氷川さんに関することならどんな小さなことでもいい!」
香山のあまりの必死さに愛莉は呆れてしまった。彼女自身も周こと氷川に対してはあまりいい印象を持っていないのは確かだし、ともすれば恨みめいた感情も無きにしにもあらずなわけだが、そんな愛莉からしてもこの香山という男の執着ぶりにはドン引きさせられるほどである。こうまで執拗に想われては、何だか”氷川社長”が気の毒にも思えてくるようだった。
「まあツテがないわけじゃないけどねぇ。でも氷川さんのことを知ってどうするつもりなの? 香山ちゃん、あなた確か奥さんもお子さんもいるんじゃなかった?」
愛莉から見ても香山は特に印象に残るほどのイイ男というわけでもないが、割合大きな文具店の御曹司で、今は父親を継いで専務という肩書きまで持っている男だ。金銭的には全く心配のない生活だろうし、世間一般からすれば羨ましい部類といえるだろう。子供もいると聞いているし、そんな立場の彼が同性である男に入れ上げたところで感心できないと思うのも正直なところなのだ。だが、香山自身はすっかりのぼせ上がってしまっているようで、もはや周囲が何を言ったところで聞く耳など持たない様子である。やんわりと苦言を呈した愛莉の言葉など右から左のようで、出てくる言葉は『氷川社長、氷川社長』と、ただそれ一点である。
「家族のことなんて関係ないんだ。そもそも女房だって俺のことが好きで結婚したわけじゃないし、親同士の仕事上の都合から見合いの話が持ち上がって仕方なく一緒になったってだけなんだ!」
「何バカなこと言ってんの! しっかりお子さんまでいるくせにさぁ。そんな言い方したら奥さんだってお気の毒じゃないの!」
「気の毒なもんか! 最近は何かにつけて小言ばっかり言いやがるし、それに俺は知ってんだ! あいつのスマホには昔付き合ってた男の連絡先がまだ残ってるってのをな」
「あら、嫌だ。奥さんのにスマフォを盗み見たりしてるの?」
無粋な男ねと愛莉は笑う。
「あいつだって密かに俺のスマホを見てるしな。お互い様だ。俺も女房もまだ若いし、いくらでもやり直すことができる歳さ! それより今はどうしても氷川さんのことが知りたいんだよ!」
これはもう何を言っても埒があかない、そう思った愛莉は適当に話を合わせて切り上げることにした。
「しようのない人ねぇ。分かったわ、とりあえず昔の仲間に聞くだけ聞いてみるけど、アタシだってそう長く銀座にいたわけじゃないしね。あんまり期待しないでよ」
「どんな小さなことでも情報があれば助かるよ。何もタダでとは言わない。もちろん相応の礼はさせてもらうから!」
すがるように両手を取ってそう言うと、香山はおぼつかない足取りで店を後にしていった。
「はぁ……何だかヘンな話向きになっちゃったわね」
さてどうしたものか。呆れ半分の溜め息をつきながら、愛莉もまた店じまいをして上がったのだった。
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