極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
582 / 1,212
孤高のマフィア

しおりを挟む
 一方、香山の方では社長だけでなく李や劉、冰までが一緒に来たことに驚いているようであった。ヘンな例えだが、招かれざる者が一緒で困惑しているふうにも受け取れる。ということは、周自身にのみ伝えたいプライベートな用件があるというところか――。
「お忙しいところお呼び立てして申し訳ありません。あの……恐縮ですが社長に少しお時間をいただけたらと思いまして」
 言いづらそうにしながら視線を泳がせている。他の者には聞かれたくないということのようだ。それらを察した周が、
「これから出るところだが少しなら構わん」
 李らには待機してもらうように言い、ロビー端に設置されている外が見える休憩用の応接セットに促して話を聞くことにした。当然李たちからも姿は見える位置だが、話している内容までは聞こえないだろう。
「それで俺に用というのは?」
 周が訊くと香山は恐縮したように頭を下げてみせた。
「お仕事中に押し掛けてしまってすみません。実は夕方の新幹線で博多に帰るものですから……その前にもう一度お目に掛かってひと言ご挨拶をと思いまして……」
「そうか。丁寧にすまねえな」
「いえ、新しい社屋も見てみたかったので。本当に立派で……びっくりしました。つい昔のままの感覚でいましたが、今の社長は自分なんかが易々と会っていただけるような方ではなかったですね……。本当にすごいです」
「そんな大層なことはねえがな。こうして今も変わらずに社が経営できているのは皆のお陰だと思っている」
「はぁ……こんなに立派になられたのに自分なんかにも会っていただけて……有り難い思いでいっぱいです。自分も辞めずにいれば良かったと後悔していますよ」
「実家を継いでいるそうだな? 李に聞いたぞ」
「ええ。ですが自分のところは本当に小さな零細企業ですから。こちらとは比べ物にもなりません」
「そう謙遜するな。親父さんを継いでいるんだ。立派なことじゃねえか」
「……いえ、そんな。あ……りがとうございます」
 たわいのない話ばかりでなかなか要件を言い出さない男に首を傾げさせられる。いくら昼休みとて、あまり李らを待たせたままにしておくのもと思い、そろそろ切り上げようと思った。
「わざわざすまなかった。元気でな」
 そう言って立ち上がろうとした周を香山という男は慌てたようにして引き留めた。
「あの……社長!」
「――? どうした」
「よろしければ……連絡先を交換していただけないでしょうか。あの、自分のところは零細ですが……いつか仕事で何かのご縁をいただくことができるかも知れませんし……」
「ああ、構わんが」
 周が名刺を差し出すと、香山は興奮気味で頬を紅潮させガバリと頭を下げてみせた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

処理中です...