極道恋事情

一園木蓮

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孤高のマフィア

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 一方、香山の方では社長だけでなく李や劉、冰までが一緒に来たことに驚いているようであった。ヘンな例えだが、招かれざる者が一緒で困惑しているふうにも受け取れる。ということは、周自身にのみ伝えたいプライベートな用件があるというところか――。
「お忙しいところお呼び立てして申し訳ありません。あの……恐縮ですが社長に少しお時間をいただけたらと思いまして」
 言いづらそうにしながら視線を泳がせている。他の者には聞かれたくないということのようだ。それらを察した周が、
「これから出るところだが少しなら構わん」
 李らには待機してもらうように言い、ロビー端に設置されている外が見える休憩用の応接セットに促して話を聞くことにした。当然李たちからも姿は見える位置だが、話している内容までは聞こえないだろう。
「それで俺に用というのは?」
 周が訊くと香山は恐縮したように頭を下げてみせた。
「お仕事中に押し掛けてしまってすみません。実は夕方の新幹線で博多に帰るものですから……その前にもう一度お目に掛かってひと言ご挨拶をと思いまして……」
「そうか。丁寧にすまねえな」
「いえ、新しい社屋も見てみたかったので。本当に立派で……びっくりしました。つい昔のままの感覚でいましたが、今の社長は自分なんかが易々と会っていただけるような方ではなかったですね……。本当にすごいです」
「そんな大層なことはねえがな。こうして今も変わらずに社が経営できているのは皆のお陰だと思っている」
「はぁ……こんなに立派になられたのに自分なんかにも会っていただけて……有り難い思いでいっぱいです。自分も辞めずにいれば良かったと後悔していますよ」
「実家を継いでいるそうだな? 李に聞いたぞ」
「ええ。ですが自分のところは本当に小さな零細企業ですから。こちらとは比べ物にもなりません」
「そう謙遜するな。親父さんを継いでいるんだ。立派なことじゃねえか」
「……いえ、そんな。あ……りがとうございます」
 たわいのない話ばかりでなかなか要件を言い出さない男に首を傾げさせられる。いくら昼休みとて、あまり李らを待たせたままにしておくのもと思い、そろそろ切り上げようと思った。
「わざわざすまなかった。元気でな」
 そう言って立ち上がろうとした周を香山という男は慌てたようにして引き留めた。
「あの……社長!」
「――? どうした」
「よろしければ……連絡先を交換していただけないでしょうか。あの、自分のところは零細ですが……いつか仕事で何かのご縁をいただくことができるかも知れませんし……」
「ああ、構わんが」
 周が名刺を差し出すと、香山は興奮気味で頬を紅潮させガバリと頭を下げてみせた。
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