極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の華

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 次の日、午後になると周と冰が家令の真田と共に鐘崎邸にやって来た。李と劉は社長不在の社でたまった仕事に精を出しているそうだ。
「警視庁の丹羽から連絡をもらってな。俺のところに寄った後にカネの家にも行くと言うから、それなら俺がここに出向けば一度で事足りると思ってな」
 どうやら丹羽の方では今回の件で助力してもらった礼方々、依頼料や経費の支払いが目的であるらしい。
「焔のところにも早速連絡がいったというわけだな? 修司の坊主ときたらもっと落ち着いてからでいいと言ったんだが、こういうことは早くすべきだと言って聞きやしねえ」
 長の僚一が苦笑しつつもその律儀さに敬服している。極道の世界でも世話になった礼の挨拶回りなど義理を通すのは一秒でも早い方がいいというのは鉄則だが、報酬などの手続きも含めて丹羽の方でもそのあたりは非常にきっちりとしているようだ。
 その丹羽がやって来るまでまだ少し時間があった為、一同は鐘崎邸の中庭で午後のティータイムを楽しむこととなった。一之宮道場からも紫月の父親の飛燕と綾乃木が呼ばれてやって来たので、半日ぶりにまた全員が顔を揃えたといったところだ。
「皆様、お疲れ様でございます。本日の茶菓子は我が鐘崎組厨房特製の苺のショートケーキでございます」
 幹部の清水と橘が揃ってワゴンを引いて来たのを見て、甘党の紫月は大興奮だ。
「うっは! 苺ショート! 超久々にありつけるぜ!」
 そういえば地下世界へ行ってからというもの、ゆっくり三時のお茶をすることなどなかったわけだ。三浦屋の伊三郎が食事の他にも茶菓子を振る舞ってくれたこともあったが、饅頭や煎餅という和菓子だったし、ケーキはまさに拉致されて以来である。
「な、な、清水! 苺ショートってことは、当然忠さん作だべ?」
「おっしゃる通りです。厨房の忠吾さんが朝から腕にヨリをかけてこしらえておりましたよ! 今日は料理長の忠吉殿も珍しく忠吾さんを手伝っていらっしゃいました」
「マジ? さすが忠さん親子! 超美味そうじゃん!」
 忠さんというのは鐘崎家に古くから仕えてくれている料理人で、歳は源次郎と同じくくらいのベテランだ。名を忠吉といい、組のおさんどんを一手に仕切ってくれている腕のいい職人なのだ。その息子である忠吾も修業と同時に組に入ってくれて、父親同様に厨房を預かってくれている頼もしい男だ。ケーキなどのデザートは普段はその忠吾が担当してくれている。今日は皆を労う気持ちを込めてということで、親子揃ってケーキを焼いてくれたとのことだった。
 余談だが、昨年末のクリスマスの時に紫月と冰が亭主たちの為にと手作りケーキにトライした時も、この忠さん親子には大層世話になったものだ。
「わ! マジ感謝! 忠さんのケーキは最高に美味いんだ! 早速皆んなでいただこうぜー!」
 紫月がフォークと皿を配りながら満面の笑みでいる。
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