極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の華

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『うわッ……すっげえ……マジで入れたんだ刺青……』

『まあな。氷川のヤツの背中にもでっけえ龍が彫ってあるし、俺もこの世界で生きていく覚悟の為にと思ってな』

『ああ、本格的に親父さんの後を継ぐ為に若頭を襲名するんだったな。お前も本物の極道になるんだなぁ』

『まあ若頭なんざ名ばかりの、まだまだ駆け出しの青二才だがな。組員の荷物にならねえよう精進するさ』

『ほぇえ……もうすっかり立派な若頭じゃん! しっかし見事だなぁ。真っ赤な花かよ。これ、サザンカか? それとも……』

『椿だ』

『椿ねぇ……。俺りゃーまた般若とか蛇とかの渋い図柄にすんのかと思ってたけど』

『こいつぁ俺の覚悟の証だ。彫るんだったらこの世で一等大事なヤツが生まれた日に満開を迎えてたっていう紅椿の花を彫ってもらうと決めていたからな』

『大事なヤツぅ? なにそれ、初耳! まさか惚れた女でもできたってか?』

『ふ、惚れた腫れたなんざ、そんな甘っちょろいもんじゃねえがな。椿が咲くのは冬だ。その中でも満開を迎えるのは一月から二月の半ば頃だろ?』

『つまり……惚れた子の誕生日に咲いてた花にしたってわけ?』

『ああ、そうだ』

(俺は一生そいつと生きていきたい。いつでもそいつを傍に感じていたい。その思いを込めてこの紅椿を肩先に彫ってもらったんだ)

『ふえぇ……お前がそんなロマンチストだったなんて意外だけどさ。そういや俺ンちの庭にも紅椿が植わってるわ! それによく考えたら俺ン誕生日も二月だぞ?』

 企むように、それでいてはにかむように笑ったその笑顔をどれほど愛しく思ったことだろう。

『ああ、知ってる』

(だから紅椿にしたんだ。この世の誰よりも何よりも……そう、自分てめえの命よりも大事なおめえが生まれた日におめえの家の庭で満開だったという椿の花だ。いつかこの想いを打ち明ける日がくるだろうか。男同士という世間から見れば奇異な想いかも知れねえ。おめえが受け入れてくれるかも分からねえ。だが、例え生涯叶わぬ想いであっても俺の気持ちは死ぬまで変わらねえさ)

 お前だけを想い、お前だけを愛して一生生きていく!
 例えお前から拒絶されようが、二人別々の人生を歩むことになろうがこの想いだけは揺るがねえ。
 俺もお前も男同士だ。お前がいずれ誰かを娶る日がきたとしても――そんな残酷な現実を目の当たりにせざるを得ない時がきたとしても俺の想いは変わらねえ。
 椿の花が首を落として散るように、お前と共に歩めないなら俺は死んだも同然となるだろう。
 だが例え運命が今生で二人を別かつとしても、この想いだけはぜったいに色褪せねえ。この肩に刻まれた椿はお前そのものだ。生涯この肩の上で満開に咲き誇って永久に散ることはねえ。
 俺はこいつを背負って極道の人生を全うする。その誓いを込めた何より大切な紅椿をこの身に刻み込んで俺は生きていく。これが俺の覚悟の証だ。

 脳裏に響くそんな会話が薄れていくのと入れ替わるように現実のざわめきが戻ってきた。
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