極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の華

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 そうして街の入り口の大門が見えてくる辺りまで来ると、ちょうど三浦屋の前辺りで艶やかな花魁道中が始まった頃であった。通りの右側を遊女である花魁が江戸の頃そのままに雅な着物を纏って道中を繰り広げている。反対の左側では粋に着崩した着物から色香漂う生肌を覗かせた男花魁が、遊女の花魁とすれ違うようにして闊歩して歩く。その周囲では見物客たちが黒山の人だかりとなって大賑わいであった。
「始まっているわ! ほら、あなたもご覧なさいよ。あれがこの街きっての太夫たちよ!」
 鐘崎の袖を引っ張って蓉子が花魁を指差した。
 一方、あふれかえる群衆の中に蓉子と鐘崎の姿に気付いた紫月は、僚一からその過程を聞いていたこともあり、フッと雅やかに笑んでみせた。前を歩く導き役の下男、春日野の肩をトンと叩いて歩をとめる。それを合図に道端で控えていた源次郎らが大通りに大きな赤い傘と長椅子を出して、粋な仕草でその上に真っ赤な毛線を広げてみせた。
 そこでいよいよ男花魁紅椿を所望する客、レイの出番である。花魁の前に歩み出ると、紳士な物腰で手を差し出して丁寧に一礼をしてみせた。
 すると花魁紅椿も用意された長椅子の上へと腰を落ち着けて、禿が差し出した煙管を受け取り、それに火を灯した。ふうと粋な仕草で一服を含んでは気高く微笑む。名乗りを挙げた客レイに向かって手にしている煙管を差し出せば、今宵の契りを受け入れるという合図である。見物客たちは今か今かとその経緯をワクワクとしながら窺っていた。
「よッ! 花魁紅椿!」
「粋だねぇ!」
「その紳士に煙管を渡しなさるか、なさらぬか!」
 群衆の中からそんな掛け声が飛び交っては、桃の祭りは最高潮に盛り上がりをみせて湧く。
 蓉子は鐘崎の腕を取ると、群衆を掻い潜って見物客らの最前列へと歩み出た。
「ご覧よ、あれが男花魁紅椿さ!」
 グイと鐘崎の背を押して、その瞳に紅椿の姿を見せつける。

「……!?」

 すると、鐘崎はその姿を一目見るなり何かに掻き立てられるように険しく眉根を寄せてみせた。
「紅……椿?」
「そうよ。彼の前で跪いている男がいるでしょう? あの紳士に煙管を差し出せば紅椿が今宵の契りを受け入れるという合図なのよ!」
 あなたはそれでいいの? と尋ねるように蓉子は鐘崎の袖をグイグイと引っ張ってみせた。

(思い出しておくれ! 彼はあんたのこの世で一番大事なお人じゃないか! 頼むから思い出して!)

 ぐずぐずしていると敵がやって来る。今頃はアタイたちが邸から消えたことに気付いているだろうからね。追手が来る前にどうか思い出して!

 蓉子は祈るような気持ちで手を合わせるのだった。
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