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三千世界に極道の華
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「ん……ッ、主さん……! いい……いいわ。もっと……もっと来て!」
僚一も蓉子に合わせて夢中で彼女にかじりつき、勢いよく腰を振る仕草で布団を揺らす。むろんのこと本当に身体を繋いでいるわけではないのだが、そこは男に関してはプロ中のプロである蓉子と、酸いも甘いも熟知している僚一のことである。男たちを騙すのなどわけもないといったところだ。
「ああん……! そう……そうよ! もっと……! もっとちょうだい!」
「ん……ッ、は……! なんていい女だ……! 堪らねえッ……」
荒い吐息と色香に満ち溢れた嬌声で真っ暗闇の部屋は瞬く間に淫らな色で埋め尽くされていった。
しばらくすると男たちは納得したのか、そっと障子を閉じて去って行く気配が感じられた。
『見たか? さすがは酔芙蓉だ。上手く傷野郎をモノにしやがった!』
『ああ。羨ましい限りだぜ! こっちにもちったぁおこぼれを与りてえこった!』
男たちは満足げに高笑いを繰り返すと、すっかり信じ込んだまま邸を出ていった。その様子に聞き耳を立てながら息を殺す。
「ふう……! 何とかごまかせたようね」
蓉子がホッと肩の力を抜いては安堵の言葉を口にする。
「ああ、お前さんのお陰だ。あいつらの言葉じゃねえが、さすがだな」
僚一は心からの賛辞を込めて蓉子の上から退くと、労うようにその肩を抱き包んで腕枕をしてみせた。
「感謝している、蓉子。お前さんのお陰だ」
「そんな……! でも上手く騙せて良かったわ」
「ああ、ひとまず安心だ。それはそうとお前さん、今からまた美濃屋に帰るのか?」
そっと穏やかに笑みながら問う。
「いえ……、美濃屋での仕事は切り上げてきたから、朝まではここに居られるわ」
「そうかい。だったら今夜はゆっくり休みな。お前さんもずっと辛抱続きでしんどかったろうからな」
蓉子としてはこのまま本当に抱かれたとて構わないと思っていたようだが、僚一は状況に乗っかって踏みにじるようなつもりは更々ない様子だ。ゆっくり休めとやさしく腕枕をしてくれている。
蓉子はそんな扱いを嬉しく思うと同時に、心の深いところでは幾分残念に感じることを自覚して、何とも曖昧な心の揺れに瞳を細めてしまった。
「あんた、ホントにそれでいいの……?」
「いいって、何がだ」
演技とはいえ裸同然でひとつ布団の中で肌を重ねたこの状況で、何もせずに肩を並べて眠るだけとはさすがに男にとっては辛いのではないかと危惧したわけだ。だが、隣の僚一は何事もなかったかのように平然としている。
(嫌だね、アタイったら……。この人は普段アタイを目当てにやって来るお客や……さっきのアイツらとはワケが違うんだよ。しかもあんなに立派な息子さんがいるんだもの。きっと奥様も素敵な方に違いないわね……。まかり間違ったってアタイのことなんか鼻も引っ掛けるワケないってのにさ。何を期待しているんだか……)
紳士的に気遣ってもらえることが嬉しくもあり、だが裏を返せば欲情すらしてもらえないことが寂しくもある。蓉子はフイと切なげに瞳を細めると、
「本当にイイ男……。憎らしいくらいだよ……なんてね?」
わざといつもの女郎言葉で甘えるように僚一の腕枕に頬を擦り付けた。
「ありがとう、アタイのイイ人。主さん。おやすみなさい……」
「ああ、ゆっくり休めよ」
そっと瞳を閉じた女の髪をやさしく撫でながら、僚一もまたしばしの眠りについたのだった。
◇ ◇ ◇
それから数日かけて、僚一らは武器庫に保管されている物を少しずつ外の世界へと運び出す作業に移っていった。源次郎が手配した鐘崎組の若い衆らが桃の節句を飾り付ける大工に化けて街の至る所で目を光らせる。食材を運び入れている業者たちにも協力してもらい、一週間が過ぎる頃にはすっかり武器庫を空にすることに成功した。
その間、薬を盛られた鐘崎の世話は蓉子が甲斐甲斐しく面倒を見てくれたお陰で、容態のほうも大分安定してきたといったところだった。
鐘崎は親身になって身の回りの世話をしてくれる女の存在を不思議に思いながらも、未だに自分がどこの誰なのかを思い出せずに苦しんでいた。
僚一も蓉子に合わせて夢中で彼女にかじりつき、勢いよく腰を振る仕草で布団を揺らす。むろんのこと本当に身体を繋いでいるわけではないのだが、そこは男に関してはプロ中のプロである蓉子と、酸いも甘いも熟知している僚一のことである。男たちを騙すのなどわけもないといったところだ。
「ああん……! そう……そうよ! もっと……! もっとちょうだい!」
「ん……ッ、は……! なんていい女だ……! 堪らねえッ……」
荒い吐息と色香に満ち溢れた嬌声で真っ暗闇の部屋は瞬く間に淫らな色で埋め尽くされていった。
しばらくすると男たちは納得したのか、そっと障子を閉じて去って行く気配が感じられた。
『見たか? さすがは酔芙蓉だ。上手く傷野郎をモノにしやがった!』
『ああ。羨ましい限りだぜ! こっちにもちったぁおこぼれを与りてえこった!』
男たちは満足げに高笑いを繰り返すと、すっかり信じ込んだまま邸を出ていった。その様子に聞き耳を立てながら息を殺す。
「ふう……! 何とかごまかせたようね」
蓉子がホッと肩の力を抜いては安堵の言葉を口にする。
「ああ、お前さんのお陰だ。あいつらの言葉じゃねえが、さすがだな」
僚一は心からの賛辞を込めて蓉子の上から退くと、労うようにその肩を抱き包んで腕枕をしてみせた。
「感謝している、蓉子。お前さんのお陰だ」
「そんな……! でも上手く騙せて良かったわ」
「ああ、ひとまず安心だ。それはそうとお前さん、今からまた美濃屋に帰るのか?」
そっと穏やかに笑みながら問う。
「いえ……、美濃屋での仕事は切り上げてきたから、朝まではここに居られるわ」
「そうかい。だったら今夜はゆっくり休みな。お前さんもずっと辛抱続きでしんどかったろうからな」
蓉子としてはこのまま本当に抱かれたとて構わないと思っていたようだが、僚一は状況に乗っかって踏みにじるようなつもりは更々ない様子だ。ゆっくり休めとやさしく腕枕をしてくれている。
蓉子はそんな扱いを嬉しく思うと同時に、心の深いところでは幾分残念に感じることを自覚して、何とも曖昧な心の揺れに瞳を細めてしまった。
「あんた、ホントにそれでいいの……?」
「いいって、何がだ」
演技とはいえ裸同然でひとつ布団の中で肌を重ねたこの状況で、何もせずに肩を並べて眠るだけとはさすがに男にとっては辛いのではないかと危惧したわけだ。だが、隣の僚一は何事もなかったかのように平然としている。
(嫌だね、アタイったら……。この人は普段アタイを目当てにやって来るお客や……さっきのアイツらとはワケが違うんだよ。しかもあんなに立派な息子さんがいるんだもの。きっと奥様も素敵な方に違いないわね……。まかり間違ったってアタイのことなんか鼻も引っ掛けるワケないってのにさ。何を期待しているんだか……)
紳士的に気遣ってもらえることが嬉しくもあり、だが裏を返せば欲情すらしてもらえないことが寂しくもある。蓉子はフイと切なげに瞳を細めると、
「本当にイイ男……。憎らしいくらいだよ……なんてね?」
わざといつもの女郎言葉で甘えるように僚一の腕枕に頬を擦り付けた。
「ありがとう、アタイのイイ人。主さん。おやすみなさい……」
「ああ、ゆっくり休めよ」
そっと瞳を閉じた女の髪をやさしく撫でながら、僚一もまたしばしの眠りについたのだった。
◇ ◇ ◇
それから数日かけて、僚一らは武器庫に保管されている物を少しずつ外の世界へと運び出す作業に移っていった。源次郎が手配した鐘崎組の若い衆らが桃の節句を飾り付ける大工に化けて街の至る所で目を光らせる。食材を運び入れている業者たちにも協力してもらい、一週間が過ぎる頃にはすっかり武器庫を空にすることに成功した。
その間、薬を盛られた鐘崎の世話は蓉子が甲斐甲斐しく面倒を見てくれたお陰で、容態のほうも大分安定してきたといったところだった。
鐘崎は親身になって身の回りの世話をしてくれる女の存在を不思議に思いながらも、未だに自分がどこの誰なのかを思い出せずに苦しんでいた。
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