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三千世界に極道の華
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「なるほど、そうだったのか。これは是が非でもヤツらからこの街を取り戻さねばならんな」
そう言った僚一に女は更に驚き、暗闇の中で瞳を見開いてみせた。
「取り戻すだって……? あんた……いったい」
「俺たちはその為にここへ来たんだ」
「俺たち……? じゃあもしかして昼間の男も……」
そういえば昨夜連れて来られた若い男のほうはどこへ行ったんだとばかりに、女が部屋の中を見渡している。僚一は布団から立ち上がると押し入れの襖を開いて不敵に笑った。中には意識を失ったようにして昼間の男が横たわっている。女はますます驚いて絶句状態だ。
「……! そんなところに……」
「今は軽く峰打ちで眠らせてある。ヤツらに盛られた薬の影響もあるからな、当分は起きてこんさ。予定ではお前さんの目を騙くらかす為に俺がこいつと入れ替わるつもりでいたんだがな。お前さんのプロの目には完敗というところだ」
「……その人もあんたの仲間だっていうの?」
「俺の息子だ」
「息子!? あんた……その歳でこんなに大きな息子さんがいるっていうの……?」
女は心底驚いているといった様子だ。
「なんだ、そんなに若く見てもらえるとは光栄だな」
僚一がクスッと笑みを浮かべると、女は何とも言いようのない戸惑った表情で眉根を寄せてみせた。
「まあこいつがここへ捕らわれたことを知ったのは偶然だったがな。こいつの面倒を見るように言われたのがお前さんだったってのが不幸中の幸いってもんだ」
僚一に言われて女は戸惑ったように瞳を震わせた。
「あんた……こんなアタシを信用しようっていうの?」
元々はこの若い男を敵の手中に堕とす為に任務を言いつけられた女だ。そんな自分を信用できるのかと驚き顔でいる。
「できるだろ? お前さんはあんなヤツらの仲間でいるような女じゃあねえ。おれはそう思っている」
「あんた……いったい……」
「僚一でいい。俺の名だ」
「僚一……?」
「そうだ。鐘崎僚一。息子は遼二だ」
名乗ったと同時に女はまたしても驚いたように大きく瞳を見開いた。
「鐘崎って……! じゃあまさか鐘崎組の?」
「ほう? うちの組をご存知か?」
「あ、当たり前よ! 鐘崎組といったら……芙蓉にいた頃からその名前はよくよく知っていたもの! 正直なところ、この街が乗っ取られてから……いつかはあの鐘崎組に助力を頼めればと思っていたわ。美濃屋のお父さんも事あるごとにそう話していたし、会所の四郎兵衛様たちもこうなったらもうプロの手を借りるしか道はないだろうって言ってらしたようだけど……」
茶屋の主人たちは定期的に会合を開いては打開策に頭を悩ませていたそうだが、上納金は増える一方で外の世界との連絡手段も厳しくチェックされて動きが取れなくなっていったとのことだった。
「それでも街中の茶屋の皆んなで協力して、いつかきっと鐘崎組に助力を申し出ようって思っていたらしいの」
それこそ常連客の中に伝言を頼めるような信頼に値する人物でも見つかればと期待していたらしい。当初、紫月らがここに連れて来られた時も同じことを考えていたわけだが、そういったところにだけは敵の目も厳しく、ここ最近では外に入り用の品を買いに出掛ける時でさえ監視がついて来る始末だったそうだ。
「結局……事態はどんどん悪くなっていって……今ではこの街の誰もがあいつらに逆らえなくなって、アタシたちは一生飼い殺しにされる運命なんだって諦めかけていたもの」
そんな中にあっても自分を救ってくれた美濃屋の主人や無理矢理遊女にさせられた若い芸妓たちに少しでも苦労を掛けまいと、がむしゃらに客を取ってきたのだと女は言った。
「この酔芙蓉という源氏名も……美濃屋のお父さんがアタシの名前の蓉子と料亭芙蓉からつけてくれたの。いつかきっと本来のお前に戻れる日がくるからって。そういう願いを込めて……って言ってくれたわ。お父さんには返しても返し切れない恩がある。本当にこの街を取り戻せるならアタシはどんなことでもするわ!」
女はすがるような目で僚一を見つめた。
そう言った僚一に女は更に驚き、暗闇の中で瞳を見開いてみせた。
「取り戻すだって……? あんた……いったい」
「俺たちはその為にここへ来たんだ」
「俺たち……? じゃあもしかして昼間の男も……」
そういえば昨夜連れて来られた若い男のほうはどこへ行ったんだとばかりに、女が部屋の中を見渡している。僚一は布団から立ち上がると押し入れの襖を開いて不敵に笑った。中には意識を失ったようにして昼間の男が横たわっている。女はますます驚いて絶句状態だ。
「……! そんなところに……」
「今は軽く峰打ちで眠らせてある。ヤツらに盛られた薬の影響もあるからな、当分は起きてこんさ。予定ではお前さんの目を騙くらかす為に俺がこいつと入れ替わるつもりでいたんだがな。お前さんのプロの目には完敗というところだ」
「……その人もあんたの仲間だっていうの?」
「俺の息子だ」
「息子!? あんた……その歳でこんなに大きな息子さんがいるっていうの……?」
女は心底驚いているといった様子だ。
「なんだ、そんなに若く見てもらえるとは光栄だな」
僚一がクスッと笑みを浮かべると、女は何とも言いようのない戸惑った表情で眉根を寄せてみせた。
「まあこいつがここへ捕らわれたことを知ったのは偶然だったがな。こいつの面倒を見るように言われたのがお前さんだったってのが不幸中の幸いってもんだ」
僚一に言われて女は戸惑ったように瞳を震わせた。
「あんた……こんなアタシを信用しようっていうの?」
元々はこの若い男を敵の手中に堕とす為に任務を言いつけられた女だ。そんな自分を信用できるのかと驚き顔でいる。
「できるだろ? お前さんはあんなヤツらの仲間でいるような女じゃあねえ。おれはそう思っている」
「あんた……いったい……」
「僚一でいい。俺の名だ」
「僚一……?」
「そうだ。鐘崎僚一。息子は遼二だ」
名乗ったと同時に女はまたしても驚いたように大きく瞳を見開いた。
「鐘崎って……! じゃあまさか鐘崎組の?」
「ほう? うちの組をご存知か?」
「あ、当たり前よ! 鐘崎組といったら……芙蓉にいた頃からその名前はよくよく知っていたもの! 正直なところ、この街が乗っ取られてから……いつかはあの鐘崎組に助力を頼めればと思っていたわ。美濃屋のお父さんも事あるごとにそう話していたし、会所の四郎兵衛様たちもこうなったらもうプロの手を借りるしか道はないだろうって言ってらしたようだけど……」
茶屋の主人たちは定期的に会合を開いては打開策に頭を悩ませていたそうだが、上納金は増える一方で外の世界との連絡手段も厳しくチェックされて動きが取れなくなっていったとのことだった。
「それでも街中の茶屋の皆んなで協力して、いつかきっと鐘崎組に助力を申し出ようって思っていたらしいの」
それこそ常連客の中に伝言を頼めるような信頼に値する人物でも見つかればと期待していたらしい。当初、紫月らがここに連れて来られた時も同じことを考えていたわけだが、そういったところにだけは敵の目も厳しく、ここ最近では外に入り用の品を買いに出掛ける時でさえ監視がついて来る始末だったそうだ。
「結局……事態はどんどん悪くなっていって……今ではこの街の誰もがあいつらに逆らえなくなって、アタシたちは一生飼い殺しにされる運命なんだって諦めかけていたもの」
そんな中にあっても自分を救ってくれた美濃屋の主人や無理矢理遊女にさせられた若い芸妓たちに少しでも苦労を掛けまいと、がむしゃらに客を取ってきたのだと女は言った。
「この酔芙蓉という源氏名も……美濃屋のお父さんがアタシの名前の蓉子と料亭芙蓉からつけてくれたの。いつかきっと本来のお前に戻れる日がくるからって。そういう願いを込めて……って言ってくれたわ。お父さんには返しても返し切れない恩がある。本当にこの街を取り戻せるならアタシはどんなことでもするわ!」
女はすがるような目で僚一を見つめた。
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